moto
2024-08-04 17:10:05
1712文字
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ラブの行方

さまささワンドロワンライお題「似ている」「ビール」「はさみ」

飯食いに行くぞ、と連れ出された先は、最近マッドコミックダイアログのシマ内にオープンしたばかりのオムライス屋だった。ただのオムライス屋ではなく、スタッフはメイドと執事のコスチュームをまとい、オススメメニューはそのスタッフが客の目の前で出来たてのオムライスにケチャップでハートを描いてくれるという「ラブ注入オムライスセット」である。へえ〜おもろいなぁ、と簓がオープンを知らせるチラシを眺めていても、左馬刻はまったく興味を示さなかったのに、どういう風の吹き回しだと首を傾げながらも、トンチキなメニューと店員に簓のわくわくは止まらない。
 キラキラファンシーな店内で明らかに浮いている革ジャンと青いスーツの男二人に臆することなく、注文を取りに来たメイドさんが、左馬刻を見て、目をぱちくりとさせた。
「あ!合歓ちゃんのお兄さん!」
 左馬刻は苦虫をギュッと噛み潰したような顔をして少しだけ手を挙げた。このやり取りだけで簓はすべてを察して、あかんで左馬刻、と何も聞かずとも牽制する。
「うっせえ」
 あっさりバレてしまった動揺からか、左馬刻は勝手にラブ注入オムライスセットを二つ頼んでしまった。
 さて、これから起こることにどのように言い訳してやろうかと考えがまとまらないうちに、オムライスが運ばれてくる。さっきのメイドの子と鬼のような形相の合歓である。お待たせしましたの代わりに地を這う声で「お〜に〜い〜ちゃ〜〜ん」と言われながらオムライスが目の前にやってくる。兄のやり場のない気まずさが簓への睨みへと変換される。なんでやねん。簓の予想に反して、合歓はメイド服ではなく至って普通の厨房服にエプロン姿であった。
「合歓ちゃん、キッチンのバイトなんや」
「そうですよ!ちゃんとお兄ちゃんにも言ったし、いいって返事したでしょ!」
 合歓と目を合わせず、簓への睨みがきつくなる。だからなんでやねん。俺を睨むな。
 仏心を出して、俺が行きたいって言ったんや〜ということにしようと思ったがこの案は却下とする。
 うちんとこのシマだから視察だ、と言う左馬刻の声は小さすぎた。くちびるを尖らせて不満そうな合歓に、怖い顔やめてと言われて素直にむにりと自分の頬をつねっているものだから、簓は思わず吹き出して、まあまあ、と明るく仲裁に入る。
「家族がどんなとこで働いとるか気になるっちゅーことやな。俺もちょっと気になるし」
「そうですか……?」
「うん、合歓ちゃんがしっかり働いとるの見れて良かったわ。な、左馬刻」
…………おう」
 むう、と黙り込んだ二人をメイドの子が見比べてぱちぱちとまばたきを繰り返している。わかるで〜俺も同じこと思った。兄妹よう似とるよな。簓はパチンと手のひらを合わせて声を上げた。
「あー、ほらほらせっかくのオムライスが冷めてまう!」
「はい!ラブ注入しますね〜!」
 メイドの子もにっこりとケチャップを取り出す。ひるんだ兄妹に合歓の友人は、はっとした顔をして「あ、お兄さんは合歓ちゃんにラブ注入してもらったほうがいっか……」とケチャップを合歓に差し出す。
「いやいやいやいや、いいって!やだ!」
…………
 ピリリと緊張が走るこの場をついつい収めたくなるのが、簓さんってわけや。
「あ〜わかったわかった!ここは穏便に俺がラブ注入を」
 笑いが起きるどころか、明らかにほっとした赤い瞳に挟まれて、「おう、頼む」って、ちゃうちゃう!ちゃうやろ!!



 スマホの画面を確認して「家着いたってよ」と左馬刻が呟く。妹との距離感を間違うことも多いが、こうやって逐一日々を報告し合っている兄と妹なのである。瓶ビールを傾けて、左馬刻のグラスへと注ぎながら「心配やけど心配しすぎるのもあかんし、難しいなあ」二人前の餃子をつつき、チャーハンもやってくる。
「何かあったら合歓ちゃんもすぐ言ってくるやろ」
「まあな」
「俺もおるんやし」
 ラーメンのスープを掬ったレンゲをぴたりと止めて、左馬刻はまじまじと簓を見つめた。
「そうだな」
 お前もいるか、初めて知ったようにふっと笑うので、そうやで!と力強く答えて、ビールを飲み干した。