moto
2024-05-17 21:43:48
1154文字
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もうしないけど

さまささワンドロワンライお題「シガーキス」

TDDの活躍を耳にして、元気そうで良かった、とほっとしていたのだ。こんなことを本人が知ることになれば、何を勝手なことを、と怒り狂うだろう。何が起きたのかよくわからないままで連絡を取ることはできなかった。自分の身に何が起きたのか。考えても頭の中のもやはいつまでも晴れることはなかった。わからないまま日々は過ぎてゆき、TDDも解散した。人の出会いには必ず別れもある。良くも悪くも、遅かれ早かれ、それぞれが別の道を歩いてゆく。あの時が自分たちのその日だった。そういうことなのだとずっと思っていた。それなのに。
「これで、チャラにしてやる」
 そう言って、晴れ晴れと笑う左馬刻の顔が目に焼き付いている。

 
 ホテルのラウンジの隅っこで、クリームソーダに乗っかっているソフトクリームをつついている簓を見つけると、左馬刻はわざわざ目の前の席に座ってコーヒーを頼んだ。簓はしかめっ面になってメロンソーダを吸い込んだ。殴られた頬が痛むし、歯にも染みる。
「チャラにした後の距離の詰め方おかしいやろ」
「ああ?」
 左馬刻は座り心地の良いソファにふんぞり返る。
「あれだけでチャラにすんなや」
 コーヒーがやってきて、香りを吸い込んだ後、ゆっくりと口にする。
「もっと殴られてえのか?」
「暴力反対!人類には言葉があります!」
「めんどくせえ、殴った方が早えだろ」
「人の話を聞けや!」
 ソフトクリームはどんどん溶けていく。せっせと掬っては口に運ぶ。
「そんなもん聞かなくてもよ」
 目を伏せてコーヒーを含む。左馬刻が何を思い出しているのか簓には手に取るようにわかった。
 そうやな。久しぶりの共闘は、正直気持ちよかった。あの頃と違うのに、あの頃を思い出していた。
 会話はそれきり途絶えた。黙々とクリームソーダとコーヒーを飲み干す。左馬刻が煙草をくわえた。火をつけることなく、そのまま簓をじっと見つめる。何を待っているかなんて、丸わかりだ。簓は苦笑してポケットを探った。
「俺、禁煙してんねん」
「は?んだよ、ダセェ」
「ダサないわ!」
 差し出したオイルライターに顔を近づけ、それに気づいた左馬刻が目を丸くする。ゆっくりと煙と一緒に、まだ持ってたのかよ、とため息混じりに吐き出し、ソファに沈み込むと、声を上げて笑い始めた。
「ハハハッ、やっぱ聞かなくてもいいわ」
 かつて左馬刻からもらったオイルライターを握りしめる。別々の道を行き、お互いの煙草の火を分け与えることももうないだろうと思っていたが、今、この時のためにこれを持ち続けていたのだと気づいてしまった。
「はぁ〜そうか」
「そういうこった」
 もっともらしく左馬刻が頷く。ライターをポケットに収めて「何がやねん」と笑い、代わりに飴玉を口に放り込んだ。