moto
2023-09-30 23:31:39
810文字
Public
 

勝利のルーティーン

さまささワンドロワンライお題「とんかつ」「信号」

定食屋ののれんをくぐって店内に入る。昼時の混雑はひと段落しており、いらっしゃい、と馴染みの店主が奥のカウンターを指し示す。こういうときに頼むものは決まっている。左馬刻は席につくと同時にロースカツ定食を頼み、簓は壁に並んだメニューを見ながら、カツカレーかカツ丼かで悩んでいる。左馬刻がお冷を一杯飲み干し店員がおかわりをつぎに来ると、ようやく簓はカツ丼とミニうどんのセットに決めたようだ。
「おい、うどんも食えんのかよ」
「今日は食える気がする」
 気がするだけなので胃と相談した結果、左馬刻に回ってくることもあるのだった。
 注文を終えた簓もお冷を飲み干し、おかわりをつぎにきた店員に、おおきに、と愛想良く笑いかけている。鼻歌でも歌い出しそうに機嫌はよく、にこにことカウンターの向こう側で働く店員たちを見やっている。左馬刻たちのカツを揚げる良い音がする。白米が盛られ、味噌汁がよそわれ、キャベツがどさりと皿に乗る。揚がったカツがサクサクと切られて、皿とどんぶりに盛り付けられる。忙しなく、無駄なく仕事をしている店員たち、席で各々食事をしている客たち、なあ左馬刻、ここにいる人らにそれぞれ人生があるのっておもろない?と左馬刻に囁き、簓は楽しげに店内を見回す。待っている間も退屈はしていないようだ。
 ロースカツ定食とカツ丼とミニうどんを前にしていただきますと手を合わせる。目の前の食に集中して、キャベツとごはんを一回ずつおかわりをする。ミニうどんまで完食した簓の本日の調子は良いらしい。
 店を出て、仕事に行くのか、遊びに行くのか、どこかに帰るのか、人の人生のことなどわからないが、俺たちは今から領地争いのバトルに赴く。
「カツを食べて今日もいっちょ勝ちましょか〜」と隣で笑っている真っ青なスーツを着た男。神も仏も験担ぎも、何も信じてはいないが、目の前の信号は青信号、マッドコミックダイアログは、現在負け知らずである。