どちらからも何も言い出さないまま時間が過ぎる。終電がなくなり泊まっていくことが決まってから、簓は急に風呂の準備やら寝室の準備やら世話を焼き始める。風呂から出た左馬刻は簓が用意してくれていたスウェットを身につけた。簓のものなのでサイズがあってなく、上半身はぴったりめで足首が出てしまっているスウェット姿の左馬刻を見て、簓は楽しげに笑っている。簓も風呂から上がり、もう一杯だけビールで乾杯してから寝ることにする。ベッドはひとつだけだったが、広々としていて男二人が横になっても窮屈さはない。天井を見上げたままで簓はしゃべり続ける。前もこうやって一緒に寝たことあったやんな。くすくすと笑いをもらす。あの時はホテルでツインを取ったはずが手違いでダブルの部屋しかなくそのまま仕方なく泊まったのだった。こんなにゆったりとしていなかった。狭くて身体がくっついていた。掛け布団を取られて舌打ちした。あのときと同じようで今は違う。目を閉じて簓の話を聞いていると、だんだん声が小さくなり、たどたどしくなり、それから静かになった。すやすやと寝息が聞こえる。しゃべりながら突然寝落ちするのはあのときと変わらない。左馬刻はそろそろと簓の方へ近づき、身体に腕を回した。簓はぐっすり眠っている。シルクのパジャマめっちゃええねんで。スルスルとした肌触りと、簓の体温が伝わってくる。
目が覚めると、簓はいなかった。リビングに行けば、コーヒーの良い匂いがただよっている。キッチンでマグカップを持った簓がおはよおと笑う。
「パンしかないねんけど、ジャムはいっぱいあるで」
食べ比べできるで〜とどんどん瓶が出てくる。
「卵ぐらいあんだろ。目玉焼きでも作るか」
おっ、と簓が嬉しそうにフライパンを用意し始める。
マグカップを渡されて、コーヒーメーカーからコーヒーをつぐ。
フライパンと卵とフライ返しと、バタバタガチャガチャと準備をしながら「また、」簓が言う。
「いつでも泊まりに来たら、ええやん」
「次のときまでに、」
「パジャマもスリッパも、用意しとくし」
「左馬刻の好きなコーヒー豆、」
「置いとくし、っ」
後ろから抱きしめたら、簓は息をつめた。
「……パジャマはこれがいい」
「っはは、これめっちゃお高いんやけど」
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