moto
2023-08-05 23:26:54
1044文字
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カレー

さまささワンドロワンライお題「カレー」


部屋に入るなり、何よりも先に、今日カレー!?という簓の弾んだ声が響き渡る。
「おー」
「一番でっかい鍋!?」
「おー」
「ほんまやあ、よっしゃー!」
 わざわざキッチンまで来て、カレーを煮込む鍋を確認すると、ガッツポーズを決めて満足気に着替えに向かう。左馬刻が簓の家でカレーを作る時、必ずこの家で一番でかい鍋を使えと簓は言う。なぜかというと鍋いっぱいに作ったカレーを何日もかけて色々アレンジを加えつつ食べていきたいからである。我が家の冷蔵庫がでかいのはこの鍋を入れるためや!と簓は豪語する。簓自身はあまり料理をせず、しかも一人暮らしで大鍋を使うことはなく、ほぼ左馬刻がカレーかおでんを仕込む時に使われる鍋である。イケブクロ時代から簓は左馬刻の作るカレーを気に入っていた。市販のルーを使う何も凝ったことをしていないカレーを(しいて言うなら人参は抜きである)簓は喜んで食べていた。再び作る機会ができた時に「全然変わってへん」と言った簓の顔が忘れられない。
 簓が着替えている間に出来上がったカレーを盛り付け、用意していたサラダも並べる。冷えた缶ビールと小鉢に分けた福神漬とらっきょうも。Tシャツと短パンというラフすぎる格好の簓が席につき、いただきます!と手を合わせて、ひと口食べた途端に目をぱちくりとさせた。
「なんだ?」
「そういえば、今日俺昼もカレーやったわ!」
「ああ?」
「なっはっはっ、すっかり忘れてた」
 まあええわ、昼はビーフカレーで、左馬刻のはチキンやし!と謎の納得をしてもりもりと食べ続ける。簓いわく、全然味違って、別モンや!
 福神漬をルーと混ぜて、らっきょうを一つ口に入れた簓がまた目をぱちくりとさせた。
「辛っ!うま!え、これどこのやつ?」
「オヤジんとこで漬けたやつ」
「えっ、オヤジって退紅のオヤジさん?」
 オオサカに行くのは半分は仕事であり、簓のことなど一言も言っていないのに、無理やり持たされたのだった。
「へえ〜。むっちゃ美味い」
「まあな」
 ポリポリとらっきょうをつまみ、ビールを飲み、
……らっきょう持って新幹線で二時間?」
……まあな」
 おかげでずっとらっきょう臭い。
 簓はたまらず腹を抱えて笑いだした。
「あっはははは!豚まんよりにおいすごそうやん!」
「いーんだよ、んな人いねえし」
「いや絶対ひと車両らっきょうやったやろ!」
 あーおもろ、疲れ吹っ飛ぶわ、と簓は涙を流して笑い、カレーをたいらげて、自らおかわりをつぎにいった。