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moto
2023-07-26 23:27:58
2456文字
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猫になってしもた
さまささワンドロワンライお題「相棒」
大変や、猫になってしもた。
お馴染みの違法マイクである。マイクを使った人間は簓に一発食らわせて、猫になったのを見届けると、とどめを刺すことなく、諸手を挙げて去っていった。「やったー!本当に猫になったぞ!成功だ!」まてまて待たんかい、実験台にすな。
あーあ、どないすんねん、これ。
この地で助けを求める相手はただ一人である。左馬刻との待ち合わせ場所に簓は急いだ。
左馬刻は時間通りにその場所にいた。ベンチに足を組んで座り、煙草を吸っている。簓がなかなか現れないので眉間に皺が寄り、あからさまに不機嫌そうである。ちゃうねん、変なやつに襲われとってん。俺が遅刻せえへんのわかっとるやろ。時間は守る簓さんや。変やと思ってくれ。左馬刻!さまとき!
実際にはにゃあにゃあと鳴きまくっている猫が物凄い勢いで近づいてきてベンチに飛び乗ってきたので、左馬刻はぎょっと目を見開いた。
「なんだてめえ」
俺やって!左馬刻!
「にゃああああにゃああああああ」
「バッ...やめろこっちくんな」
ぐいぐいと身体を押される。なんやお前、猫嫌いやったんか。
「んにゃああああ」
「あ?力強えな、待てって」
猫を押しのけた左馬刻は慌てて煙草を地面に落とし、ブーツの底で潰した。おいこら灰皿に捨てえ!携帯灰皿持てって言うとるやろ!「ん゛に゛ゃあ゛」
「煙草くせえのは大丈夫か?」
文句を言っているのに何も気が付かず、手をひらひらさせて空気を分散させている。
クチュンとくしゃみをした猫の頭を「わりぃわりぃ」と笑って撫でるものだから、今度は簓の方がぎょっとした。なんやねん、その優しい手つきは。お前、猫好きやったんか?
「なあ、お前、簓見なかったか?」
額を指でクリクリと撫でられて勝手に喉が鳴ってしまう。見るも何も俺が簓やねん。簓ここにおるねん。
「簓つーのは、目ェ全然開いてねえ糸目で、うさんくせえ関西弁しゃべって、青いスーツ着てる奴。目立つだろ、知ってっか」
なんや引っかかるところもあるけど、俺や!俺や俺や!
「んにゃあー!」
ていうか、左馬刻お前、猫に話しかけるんか!
「この辺で生きてたら知ってんだろ。マッドコミックダイアログつって、簓は俺様の相棒」
「にゃ」
左馬刻お前、どんな顔して言うとんねん。そんな顔、見たことないねんけど。
簓を撫でながら、左馬刻はスマホを取り出して舌打ちした。
「っせえな簓のやつ、何してやがんだ」
画面に指を滑らせている。こういう時メッセージを打つのは面倒くさがるやつなので電話をしようとしているのだ。
え?俺のスマホどこ?猫の身体を見回してもスマホがくっついている訳ではなかった。
ざりっと足音がして、簓の耳がピンと立った。遅れて左馬刻が顔を上げる。
「碧棺左馬刻ぃ!お前もネコチャンにしてやる!」
あー!お前ー!
簓を猫にした張本人がマイクを掲げて立っていた。
簓の毛が逆立ち、シャー!と頭のてっぺんから威嚇の声が出た。尻尾を膨らませる簓をちらりと見やって、左馬刻がゆらりと立ち上がる。
「なんだぁ、てめえ」
「ひっ、跪いてにゃあと鳴け!」
「にゃあ?」
あっさりと全然可愛くないドスの効いたにゃあが出た。左馬刻も猫になったら話通じるかな、と一瞬過ぎったが、簓の身体はすでに男に飛びかかっていた。猫の本気の跳躍力を舐めたらあかん。
男がマイクを起動する前にその手を猫パンチ。ついでに爪も出しておいたので、男はにゃあ!と叫んでマイクを落とした。お前がにゃあ言うてどないすんねん!
簓が着地するやいなや、左馬刻のスピーカーが現れて、ワンバースではい終了である。
男は倒れ、マイクは爆発した。
は、マイク爆発した!?まてまて、待たんかい、俺ちゃんと戻れるんか?
呆然としていると、急に身体が宙に浮いた。にゃ!と手足が強ばる。なんと左馬刻が簓を抱えあげて大口を開けて笑っていた。
「アッハハハ、お前、やるじゃねえか」
突っ張った手が左馬刻の顔に当たり、冷てえ、とさらに笑う。しゃがみこみ、上機嫌に簓の頭をぐりぐりと撫でる。「助かったわ、ありがとうな」
そりゃあ、まあ?俺はお前の相棒やし?猫でもそれは変わらへんし?
撫でられるのが気持ちよくて、勝手に左馬刻の手に頭を押し付けてしまう。喉がゴロゴロ鳴るのを止められない。
「気に入った。お前うちのチームに入るか?」
上機嫌にも程があるやんか。お前なに猫をチームに誘っとんねん!ほんま猫好きなんやな!
「簓の野郎も文句ねえだろ。スピーカー招き猫だしな」
まあな!俺も猫好きやけども!
簓も我慢ができなくなって、笑った。実際はにゃあにゃあとご機嫌に猫が鳴いている。
違法マイクを振りかざした男をワンバースで倒し、引きずって近くの交番まで届け戻ってくると、簓が「や!」と手を挙げて左馬刻を迎えた。
「遅いやん左馬刻、遅刻やで」
「ああ?遅れてきてんのはてめえだろうが」
「そっちが今来たやんか」
「あのなぁ俺様は」
言いかけて気づく。猫がいない。
「猫は」
「猫?」
きょろきょろと首を巡らせた簓が「猫がどないしたん?」と左馬刻の顔を覗き込んでくる。その口元がゆるゆるとしている。咄嗟にこれはよろしくないと察した左馬刻は、なんでもねえ、とだけ答えた。左馬刻と共に戦った猫は、最終的に腹まで見せていたのに、去る時はあっさりしたものだ。まあこの辺りを縄張りにしているのならまた顔を合わせることもあるだろう。
「猫なぁ。簓さんは猫好きやで。スピーカー招き猫やし」
だろうな、と左馬刻は納得する。
「まあええやん、どっちにしても俺がおるんやし」
「あ?」
「腹減ったなあ。先にメシ食いに行こや。遅刻したやつの奢りな」
左馬刻ごっそーさん!と手を合わせる簓の尻を蹴りあげる。「遅れてんのはてめえだ」簓は我慢できなくなったかのように吹き出して、まるで猫のように、左馬刻の隣でご機嫌に笑うのだった。
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