moto
2023-05-14 10:47:35
1775文字
Public
 

のちに言うアップルパイ騒動

さまささワンドロワンライお題「うっかり」「問題」「アップルパイ」

ある時から菓子作りに興味を持った理鶯が、今度はアップルパイを作りたいと言い出した。さすがに野営地にオーブンなど菓子作りに必要な家電はないので、こういう時は銃兎の部屋のキッチンが使われることになる。非番の日、材料を買い出して現れた理鶯の後ろには左馬刻もついてきていた。
「俺様にもアップルパイの作り方を教えろ」
「小官も初めて作るので一緒に作ろう」
 理鶯だけではなく、同じタイミングでなぜか左馬刻もアップルパイを作る気になっているとは。材料をキッチンに並べ、タブレットでレシピを検索してああだこうだと相談している二人をよそに、部屋の主である銃兎は特に手伝えることもなく、溜まりに溜まった新聞や雑誌に目を通すことに専念する。
 男二人、その見た目に反して、手元からりんごの皮がするすると綺麗に剥かれていく。甘い匂いがただよう中、最近きな臭い組が……ヤクの売人が……と物騒な話題が飛び交っている。購入してからレンジ機能しか使っていなかったオーブンレンジが、オーブンとしての役割も果たしていることに銃兎はいたく感動した。コーヒーぐらいは入れようかと立ち上がるが、結局は左馬刻が入れる方が上手いので、すぐに着席する。食器を準備し、焼きあがったアップルパイを理鶯が切り分けていく。ドリップしたコーヒーも揃って、泣く子も黙るマッドトリガークルーのお茶会が始まったのだった。
「ん、美味しいですね」
「うむ、やはりシナモンはたっぷり目が良いな」
……うめえな」
 そう言ったきり、左馬刻はじんねりとアップルパイを見つめている。
「どうした、左馬刻。何か問題が?」
 左馬刻は、またひと口食べて、たっぷり時間をかけたあと「簓がよ」とぼそりとつぶやいた。
「白膠木簓がどうしたんだ?」
 どうにも歯切れが悪い。銃兎の問いに、左馬刻は、むう、と不貞腐れたように口をとがらせた。
「簓がよ、どっかの知らねえおっさんが作ったアップルパイが美味いって言うからよ」
「知らねえおっさん?ファンか?」
「ファンでも見ず知らずの人物からの手作りの食べ物を軽々しく受け取るような男ではなさそうだが」
 理鶯が至極もっともなことを言い、銃兎も頷く。
「知らね。俺も食った」
「知らねえおっさんのアップルパイを食ったのか!?」
「まあ、美味かったけど」
「美味かっ……お前な、知らねえおっさんの作ったもんを食うなよ……
 危機感を持てと呆れるが、左馬刻はアップルパイを食べ切って、ふんと鼻を鳴らした。
「やたろーだかこたろーだか知らねえけど、俺様の作ったもんもうめえよな」
「十分美味いぞ、左馬刻。白膠木簓に食べさせてやるといい」
「おう、そうするわ、理鶯」
 二人のやり取りを聞いていた銃兎には思いつくことがあった。大阪在住の白膠木簓とやたろーだかこたろーだか知らねえおっさんが作ったアップルパイに繋がるものに気が付き、口元が緩むのを耐えていると、訝しげな左馬刻と目が合ってしまう。
……なんだよ、銃兎。あん時の簓と同じ顔してんな」
「ちなみに、左馬刻、やたろーだかこたろーだかいうのは、り○ろーという名ではなかったか?」
 驚く左馬刻の目の前に、理鶯はスマホの画面を見せる。
「白膠木が言っているのは、大阪土産の定番のり○ろーおじさんのことだな。本来はチーズケーキが有名だが、アップルパイも売っている」
 うっかり吹き出してしまった銃兎のことには目もくれず、左馬刻はすばやく自分のスマホを取り出した。奇跡的に数回のコールで相手が出た。
「簓ァ!てめえ!り○ろーのおっさんは店の名前じゃねえかあっ!」
 白膠木簓の悪びれない明るい笑い声が聞こえてくる。
 り○ろーおじさんに焼きもち焼く左馬刻がおもろ、いやかわいくて。焼いてねえ!焼いてたやんアッツアツのアップルパイも焼いてや。焼いたわ。えっほんま!おっさんよりうめえわ。食べたいんやけど。首洗って待ってろ。次はいつ来れるん?今から行く。えっ。
 銃兎はコーヒーとアップルパイを堪能し、理鶯は切り分けたアップルパイをタッパーに入れて、今度はチーズケーキを作るのも良いなと頷いている。
「おい、ウサポリ公、車出せ!」
「左馬刻、これを持っていくといい」
「やれやれ、今度はチーズケーキと、551の豚まんも買ってきてくださいよ」