雑居ビルから現れた左馬刻を確認して、向かい側の公園にいた簓はベンチから立ち上がった。向こうも簓に気が付き手を挙げる。道路を横切り、近づくと、火のついていない煙草を咥えた左馬刻が顔を寄せてきた。簓の煙草から火をもらい、ふうっと空へ向けて煙を吐き出す。
「ちゃんと片付いたんかいな」
「ああ、俺様が出る幕でもなかったわ」
弟たちもいたことに簓は目を丸くする。兄弟三人で鮫島一派を沈めたということか。
「早く来れたら俺らも手貸せたけど、やるなぁ三兄弟」
「たいしたもんだ」
並んで歩きながら、もうちょい家賃安くするように交渉すっかと呟く左馬刻に簓は声を上げて笑う。
「敷金礼金も払っとるのに、かっこつけサマトキサマやなあ」
「うっせえ。てめえも行くんだぞ」
「へえへえ、かっこつけサマトキサマは簓さん使いが荒いねん」
「立ってるやつは相棒でも使えってな」
「ぬはは、なにそれおもろ」
携帯灰皿に煙草を捨てると、横から左馬刻も突っ込んできた。
「まあ、これで住むとこの心配はないな。空却も事務所の部屋気に入っとるみたいやし」
いつものラーメン屋に入り、いつもの席に座る。いつものやつと頼めば、すぐにラーメンと餃子が二人分出てきた。
「ばあちゃん、うちの一郎が萬屋始めるからよろしゅうな」
「萬屋?」
「何でも屋だよ、なんか困ったことがありゃ一郎に頼め」
「あらまあそりゃいいね」
「お友達にも広めたってや」
「おい簓、これ食ったら行くぞ」
「善は急げやね。まあ鮫島の一件も収めたし交渉の余地はバリバリにあるな」
馴染みの客に店主が一郎が萬屋を始めた旨を話しているのを聞きながら、引越しも手伝ったらななぁと簓はのんびりと言った。
雑居ビルから出ると、向かい側の公園で待っていた左馬刻が近づいてきた。簓の目の前で、煙草の煙を空へと吐き出す。煙草の代わりに、飴を口に放り込む簓を横目で見て、左馬刻は「遅せぇ」と不機嫌そうに呟いた。
「遅せぇ、ちゃうわ。そもそもお前の用事をなんで俺が済ませに行かなあかんねん」
「そのほうが早く済むだろうが」
「自分のことは自分でせえ!」
これは左馬刻に限らずである。一郎も左馬刻に用がある場合、簓に言ってくることがある。自分に用があるのかとよくよく聞いてみたら左馬刻相手のことで、なんでやねん!と何度ツッコミを入れたことか。
「ほい、これ一郎から」
「ん」
渡されたメモ用紙と封筒の中身をちらりと確認しただけで、ぐしゃりとジーンズのポケットに突っ込む。あまりにも無造作で、簓は、あーあ、とため息をつく。
「ラーメン食いに行くぞ」
「ラーメン?あのラーメン屋まだあるん?」
「二年で潰れるかよ」
「そんなんわからんやんかこのご時世」
「先週はあった」
「そんな頻繁に行っとんのかい」
「お前連れてこいってうるせえんだよ」
「……ほーん」
「……んだよ」
「ばーちゃん元気なん」
「二年前よりピンピンしてんな」
いつものやつでまだ通じるやろか。試してみろや、と左馬刻が笑う。
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