布団から出れば、空気がひんやりとしている。ここ数日の最高気温は20度を越えてすっかり春めいていたのに、今日は一気に気温が下がる予報で朝は特に冷えていた。この時期の気温差で体調を崩すわけにはいかない。このときばかりは冬用のフリースを引っ張り出して正解だった。おかげで寒さで震えることなくぐっすり眠れた。用意していたカーディガンも着込み、寒い寒いとひとり呟きながら洗面所へ向かう。鏡の中の自分と向き合えば、髪の毛があちこちに跳ねて寝癖がひどい状態である。これをなんとかするのは一番最後だ。ヘアバンドで前髪を上げて、リストバンドも両手の手首につける。先日の雑談インスタライブで、顔を洗う時いつも腕も胸元もびしょびしょになる旨を話したら、視聴者から手首で吸水するリストバンドなるものを教えてもらい早速購入してみたのだった。今では洗い替えも加えて愛用している。顔を洗い、ひと通りのスキンケアを終え頬を両手で覆って、鏡に映るもう一人に笑いかけた。
「おはよお、左馬刻」
簓の後ろから現れた左馬刻の目はほとんど開いてなかった。おー、と低い声を出して、ぼさぼさの髪をかき回している。よく眠れたあとの寝起きの左馬刻の姿はひどい有様であったが、簓はそれをひそかに気に入っている。鏡に映る自分は満足そうにくふくふ笑っている。そんな簓の肩を突然引き寄せて、左馬刻は簓の頬にキスをした。目を見開く簓とは逆に、まったく目が開いていない左馬刻はよろよろと洗面台に近づき蛇口をひねる。
「は、はああああ!?なに!?なんなん!?」
顔も耳も熱い。全部見えてしまったから。目を見開き顔を真っ赤にして鏡の中の自分がわめく。
左馬刻はヘアバンドもリストバンドも使わず、バシャバシャと豪快に顔を洗い、髪まで濡らしている。腕もパジャマ代わりにしている簓のTシャツもびしょ濡れなのに気にしていない。やっと開いた目が簓を見つめる。
「んだよ、うるせえな」
「なに!?今!?ちゅーした!?」
「あ?すんだろ、そんくらい」
「はあああ!?なんなん自分!?いきなりする!?そんなキャラやった!?」
「ちゅーくらいでわめくなよ」
「は!?なに!?今自分ちゅー言うた!?」
「あー、うるせえ」
濡れた髪をかきあげて、頬からも首からも腕からも水が滴っている。
「もおーなんでこんな寒いのに半袖なん。全部濡れとるし、風邪ひくやんか」
「こんなんでひかねえよ」
「その自信どっから来んねん」
使っていたタオルで頬と髪をふく。着ていたカーディガンも肩にかけてやり、「ほらほら乾かしたるから」とドライヤーのスイッチを入れた。左馬刻はおとなしくされるがままで目を閉じて温風を受けている。俺もこんなキャラやったかな?と簓は首をひねる。鏡に映る自分は、それはそれは、楽しそうに笑っている。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.