moto
2023-04-05 21:54:02
929文字
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五分

さまささワンドロワンライお題「5分」


青いスーツ姿で左馬刻の前へ再び現れた白膠木簓は、すでに三日連続事務所に顔を出している。なんとか追い返そうとしても、なんやかんや言いくるめられ、結局一日居座っている。仲間の仕事に口を出すことはしない。ただ左馬刻にくっついてついてくるだけだった。いい加減にしろよ、てめえ。我が物顔で助手席に乗り込んでいる簓をにらみつけても、まあまあ、とにこにこ笑うだけである。それでも最初は後部座席に座っていたのは、こいつなりにまだ遠慮していたということか。
 目的の場所近くに到着して、一服する。窓を少し開けて、簓も煙を吐き出した。
「いっつも一人で行くん?」
「呼び出されたからな」
「いや、絶対あちらさんは一人やないやん」
「雑魚虫野郎が何人いようが、俺様一人で十分だ」
 ちらりと左馬刻の横顔を見やって、自信満々や、と簓は笑った。
「顔、ましになったな」
「ああ?」
「あーちゃうねん、ボコボコやったやん、な、治ってきた」
 そう言う簓の頬もまだ少し腫れている。
「殴られんの、痛いやんか」
「殴られたくなかったら、殴られる前に殴りゃいい」
 あー、なるほど、と簓は笑って、
「俺は殴るのも、嫌や」
 とやんわりと言った。
「俺は殴るのも嫌やし、誰かが殴られてるのも、殴ってるのを見るのも嫌や」
 痛いやんか、簓は繰り返す。
 同じことを言う妹のことを思い出して、左馬刻は黙り込んだ。
「まあでも、俺もこう見えて戦ってきとんねんな」
「あ?」
「歴戦の戦士よ、コンビではてっぺん取れんかったけど、ピンでは取っとるし」
「なんの話だよ」
「お笑いの世界も戦やで。殴ったりせえへん、笑わせたもんが勝ちや」
「おい、」
「なあ、左馬刻」
 簓は灰皿に煙草を押し付けて、襟元を正した。
「五分くれへん?お前にめっちゃおもろいもん見せたるわ」
「あ?何言って」
「あー、どこまで俺の口八丁通じるんやろ、ぞくぞくするなあ」
「おい、簓、待て」
 薄く開いたまぶたから、ギラギラとした瞳がまっすぐと外を向き、飛び出していく簓を、左馬刻は止めることが出来なかった。
「やあやあ、お待たせ皆の衆!白膠木簓、颯爽と登場やで!」
 場違いなやけに明るい声を、ただただ呆然と聞いていた。