moto
2023-04-04 20:20:58
1021文字
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春待ち

さまささワンドロワンライお題「春待ち」


左馬刻としては煙草を買うためにコンビニに入ったのだが、こういう時、簓は店内を一周しないと気がすまないらしい。新作コーナーの棚をひと通り眺めて、弁当からおにぎりから雑誌までチェックし、途中のアイスコーナーからひとつ手に取りレジで煙草と一緒に会計する。その間に左馬刻はとっくに店の外に出ていてさっさと一服しているのだった。ようやく出てきた簓も一服して、購入したアイスの袋を開けた。二つに分けるタイプのシャーベットをパキッと割って、当然のようにひとつを左馬刻に差し出してくる。
「これ新商品でこないだ食べてんけど、いまいちでなあ」
 いまいちであった物をなぜもう一度買うのか。そしていまいちであったものをなぜ、左馬刻に分けるのか。文句を言ってもへらへらしているだけである。緑の袋には期間限定メロンソーダ味とでかでかと書いてあった。
 まったくアイスを食べる気分でもなかったが、手に取ってしまったらもう遅い。簓はプラスチックの口をひねってちぎる。「ゴミここにちょうだい」アイスの袋に左馬刻もちぎった欠片を入れた。それをごみ箱に捨てて、二人は歩き出す。
 コンビニを出て、事務所へと向かう帰り道だ。口が塞がっているはずなのに簓のお喋りは止まらない。左馬刻の返事を期待しているわけでもないので、一人で好きなように喋っている。左馬刻は煙草が吸いたかったが、アイスがなくなるまではそうもいかなかった。いまいちであるアイスも甘いものも、気分が乗らなかったのに、しぶしぶ口にしてみれば、そんなに甘くもなくさっぱりとしたメロン味で、冷たいシャーベットがカラカラに乾いていた口内を潤した。
「なあ左馬刻、ここって桜咲くん?」
 ふいをつかれた左馬刻は一瞬ぽかんとした。道沿いに植わっている木は確かに桜の木だった。満開の時期は近くの公園も花見客でごった返す。自分のシマで暴れる酔っぱらいを思い出しうんざりする。そんな左馬刻をよそに、簓は、桜咲いたらこうやって花見しながら帰れるな、と嬉しそうだった。
「花見?」
「夜も綺麗そうやなぁ。ビール飲みながらってのもええけど、こうやってアイス食べながら歩くのもええやん」
……メロン味よりぜってえビールだろ」
「あっはは、せやなあ。なんやでもこのメロン味、前食べた時より美味いわ」
 なんでやろ、春やからかな。
 とんちんかんなことを言って簓が笑う。左馬刻も、そうかもな、と答えて、まだ何も咲いていない枝を見あげた。