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moto
2022-09-18 20:35:49
1259文字
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つなぐ
さまささワンドロワンライお題「つなぐ」
「おはようさんさん〜!」
一人の男がやって来ただけで、事務所内は途端に騒がしくなり、笑い声も聞こえてくる。左馬刻は舌打ちし、コンロの火を止める。ケトルからコーヒーポットへ湯を移していると簓が給湯室に顔をのぞかせた。
「左馬刻〜!俺にもコーヒー入れてや!」
「ああ?」
シンクの上に用意されているコーヒーサーバーやドリッパーを見つけて、簓は満面の笑みを浮かべた。
「なんやたまにコーヒーのめっちゃいい匂いするよなーって思ってたんやけど、まさかお前が自分で入れとるとは思わへんやん。皆の衆が入れとると思うやん普通」
皆の衆とはなんだ皆の衆とは、と思っているうちに簓はにこにこと戸棚を開けてミント色をしたマグカップを取り出した。
「はい、簓さんカップ」
「てめえ」
いつの間にかマグカップまで自分の居場所を勝手に作っているのだ。呆れる左馬刻ににいっと笑ってみせる。その頬はまだ少し腫れていた。人に殴られたんは初めてやわあ、腫れた頬を撫でながらあっけらかんと言い放つ姿を思い出してしまい、左馬刻は何も言えなくなる。
コーヒー粉をもう一人分、フィルターに足し、ポットからお湯を注ぐ。粉の中心にゆっくりのの字を描くようにポットを回す。あんなにうるさかった簓は黙って左馬刻の手元をじっくりと眺めている。コーヒーの香りが給湯室に満ちて、サーバーに落ちる音だけがポトポトとやけにはっきりと聴こえる。すべてが落ち切る前にドリッパーを外し、サーバーの中身をそれぞれのカップに移した。
自分のカップを手に取りひとくち。よし、上出来だ。
簓は、いただきまーす、といそいそとマイカップを手に取り、ええ匂いや〜と笑ってからひとくち含むと、目をまん丸く見開いた。
「え、うま、なんやこれ、店?」
左馬刻が突然現れた瞳に内心驚いていることなど気づく様子もなく、簓は一人でやたらと感心し、はあ〜と感嘆のため息をつく。
「やっぱり、お前、ええなあ」
「あ?」
「んふふふ、コーヒーむっちゃ美味いわ。ありがとさんさん」
調子を取り戻した簓が給湯室から出ていく。左馬刻さんコーヒー入れてくれたんすか?まじっすかすげえ簓さん、と事務所内がざわついていたが、左馬刻の耳には何も入ってこなかった。
それからというもの、毎日、毎日、左馬刻は簓にコーヒーを入れることになる。最初は簓があまりにもやかましいから。気づけば何も言われなくても自分と簓の分を入れるようになっていた。
毎日、毎日、ずっとだ。
豆から挽いたコーヒー粉を二人分、フィルターに入れる。ポットに移したお湯を粉に含ませていると、リビングへ簓が入ってきた。
「左馬刻、おはよお」
「はよ」
ボサボサの寝癖頭のまま、ふらふらとソファに座ると、そのまま横になった。二度寝してしまいそうな寝ぼけまなこで、簓がぼんやりと呟く。
「俺なあ、左馬刻がコーヒー入れてるとこ見るの好きやねん」
「そうかよ」
「やから、ずっと、コーヒー、入れてな」
これからも、毎日、毎日、ずっとだ。
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