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望月 鏡翠
2025-03-02 23:26:35
927文字
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日課
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#1648 「川」「職工」「客船」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
男は職工だった。川縁でいつも仕事をしていた。
水揚げされてきた魚を捌き、貝は開いて身を取り出す。そうして食べやすくしたら、他よりも少し高い値段で売りつけることができるのだ。漁は増えてだったが、その作業だけは誰よりも早く美しくできた。
魚を捌くことができるというのは料理人に向いているのではないだろうか。一時そう考えたこともあったが、早く魚を捌き貝を開く以外のことは上手にできなかった。しかも舌が鋭いわけでもなく素朴な食事しかしたことがなかったものだから、夢は諦めざるを得なかった。
夢を諦めないために、やらなければいけないことというのが、男の学力ではわからなかったのだ。
あるとき。彼が仕事をする川縁に大きな港ができた。魚を追ってくるための場所ではなく、美しい服を着た人々を水揚げするための場所だ。
豪華客船の寄港地になったのだ。
しかし男は、それが何を意味するのかもよくわかっていなかった。
金持ちの客は、水揚げされた魚の生臭さや、延々と取り除かれるはらわたを好まなかった。街は観光客に向けた商売を始めるために、動き始めていた。
だから職工の居場所はどんどんと減っていた。
美しいホテルが立ち、港は広く整備されて人が歩きやすくなり、魚よりもステーキや無農薬の野菜が好まれるようになった。
そのときのホテルに従業員として迎え入れて貰えば、あるいは望んだ通り従業員として働く道もあったかもしれない。
男は、ひたすらに貝を向いて魚を捌くことしか知らなかった。だから街が変化していく間もただもくもくと目の前の仕事に向かっていた。ある日、男の仕事は終わりを迎えた。
漁師たちは魚を獲って売るよりも、もっといい仕事が見つかった。だから魚を捌く作業を依頼する必要がなくなったのだ。
何もかも新しくなった街で、彼は何をすればいいのかわからなくなった。取り残された男は、川縁から美しい客船をじっと見つめた。
ふと、あの船に乗って遠くに行きたいと思った。
男は裕福ではなかったが何もかもを投げうって注ぎ込めば、一回船に乗るくらいはできた。
男は旅立ち、そして二度と戻らなかった。貝と魚しか知らない男が何になったのかは、誰も知らない。
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