ろころころ
2025-03-02 19:29:06
2769文字
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【朗報】えのちさん、温泉を掘り当てる




桃色の髪に立派な翼を持つ少女に刺されたポイントへ。靡く白い髪がアイデンティティの青年が無駄に大きな機械を引き連れて、足を運んでいた。

「えーっと、ここ?」

地図を見る。パステルカラーのマーカーで書かれた可愛らしい文字で、ちょうど彼が経つその場所に大きな印が付けられていた。

──────この下に、温泉がある。

……うーん地上からじゃあいまいちねぇ?まぁでもラファくんの友人だし、信用して大丈夫だよね?」

緑色の猫天使の恋人曰く、彼女は大の温泉好きらしく各地の温泉の場所を知っている一方で、稀に未開拓地を言われるのだと。
今回は、正しくそれである。

とはいえ、そんな理不尽に屈するえのちではない。彼は手に入れたのだ。同胞の猫耳に土下座からの腹踊りをして、彼はついに温泉採掘ロボットを手に入れたのだ。これがあればもう何も怖くないと彼は思っているのだ。

さて、そんなこんなで彼はこのどデカいロボットを引き連れてこの凸凹の激しいだだっ広い場所へとやって来たのだ。例のロボットと言えば四つのタイヤでオートで所持者のエノクを追跡するように設定された優れもので、今この瞬間もエノクの足跡を追うようにガタガタと音を立てながら砂利道を器用に進んでいる。

開けたその空間の中央部分で立ち止まったエノクは、自分の後ろで動きを停めたロボットのタッチパネルを操作し、早速掘る位置と最終的な完成図についてを計画し始めた。

「大きさは……うん、何人かで入れるくらいが丁度よいね!辺りは土だし湯船の中は石を詰めて固める必要がありそうかな?湧き出たお湯は水道管を繋いで持ってくるしか無さそう?く、汲み上げは腹踊りリターンしてろっきぃに頼もうかなぁ

さて、そんなこんなでエノクの操作通りにロボットはドリルを地面に突き刺し、ガガガガと大きな音を立て砂の嵐を巻き起こしながらもどんどんと掘り進めていく。辺りに広がる振動で木々からは鳥が鳴きながら飛び立った。

しばらくして、ロボットの動作が緩やかに変化する。ドリル部分の回転数が減り、それに比例して辺りに散る砂の量も減っていく。そして完全に視界が晴れた頃──────次にエノクが目にしたのは、熱を持った水しぶきが辺りに雨のように降り注ぎ七色の架け橋が美しく広がる光景であった。
その穴から勢い良く吹き出る熱湯は、此処が確かに源泉であることすなわち少女の言っていたことが真実であったことを示していた。

「大当たりじゃん!?よーし!これでラファくんの洗い場……じゃなくて、温泉の開発が一歩進んだね!」




******************


これをきっかけに、エノクは同胞の腐れ猫耳研究者に媚びを売りつつ協力させながら、徐々に温泉を完成系へと近づけて行った。
全ては──────そう、可愛い猫ちゃんを暖かな湯船に浸からせ、ふわふわな髪と翼に仕上げるため。まぁとどのつまり、エノクの欲望を叶えるためである。

そして彼が源泉を掘り当ててから数ヶ月の時が経過し──────ようやく、"温泉"が形になったのだった。
彼の努力はもちろん、同胞に作らせた数々の機械は良い働きをしてくれたと思う。いくら数百年の時を過ごしている天使とはいえ、自身の手だけで地面を掘り起こし、お湯を誘導し、湯船を加工しだなんて不可能にも程がある。やはり持つものは技術だ。人間の文明とは実に素晴らしい。

そして完成した温泉は、辺りは相変わらずだだっ広い平野だが、一箇所に木造の小さな小屋を建てた。更衣室と休憩所の意味を込めて建てたこの小屋には、エノクの趣味で瓶に入った牛乳を売る機械が設置されている。無論、これも誰かさんに腹踊りからの土下座で作らせたものだ。
そして肝心の温泉本体はというと、湯船は丸く削った岩を地面に貼り付け固めることでお湯が土に染み込んだり、逆に土が溶け込みお湯を汚す事態を防いだ。湯船の近くに地下へと続く穴を開け、お湯が湯船に繋がる管を通って足されては、湯船の古いお湯は反対側の管を通って地下へ戻るといった形で循環している。汲み上げシステムも勿論オートだ。エネルギーは地下に溜まったお湯の流れや蒸気からは勿論、地下に流す際にお湯を滝のように勢い良く垂れ流させ、その間に水車を置くことで補充している。中々にエコなシステムである。


そんなこんなで完成した温泉に呼び出された一人の猫天使ラファエルは、眠たげな眼を擦りながらも、暖かな空気と独特の匂いがする方へふわふわとやって来た。

…………………あったかい………けどこの匂いはあんまり好きじゃないな。まぁ、温泉なんて何処もこんな匂いがするけど」
「そりゃ仕方ないよ!温泉だからね!」

さて、エノクはこの瞬間を楽しみにしていた。
もふもふの彼の翼を更にもふもふに出来る瞬間。なんなら、専用のシャンプーとブラシまで購入済みである。天使の翼のお手入れならえのちにお任せ、なぜなら彼自身もかつては自身の翼をそれはもうもふもふに仕上げていたので。

「そう!そうなんですよ!俺はさ、自分の翼をもふもふにクリーニングするのが趣味の一つだったワケ!今じゃそれも出来ないワケなんですけど、いやぁラファくんがいてくれて嬉しいよ!」
「むおれはエノクのもふもふのためにいるわけじゃない」
「そ、そそそそんな!別にラファくんの翼をもっふもふにするためだけに頑張ったわけじゃないよ!?別にね!俺だって入りたかったし、温泉ってどんな風に出来るのかとかここまで長く生きてたら気になっちゃうよね!」

つまり、単純に暇だっただけである。
長く生きればその分様々な経験を得るので、新たな楽しさを発見するためにも様々な物事に興味を持つようになるのだと。エノクがそう考えているのは嘘では無い。

「ほらほら、そんなことより入ろうよ?あ、ここは貸切だから翼が浸かるのは気にしないで?なんならブラッシングもしてあげちゃう!シャンプーもね!」
「シャンプー温泉の中で?」

猫天使は首を傾げたが、彼が楽しそうなのでまぁ良いかと諦めた。その間にもエノクは手の中で液体を擦り泡立てては、それを真っ白な翼に塗りたくり揉みこんでいく。
どんどん大きくなるあわはやがて温泉中に広がり──────

「うわっ、まずいまずい!ラファくんがあわあわに
「エノク、前が見えない」
「ご、ごめんって!?」

あわだるまになった猫天使が完成した。

結局、地下から汲み取った新しいお湯で猫天使を流し、更衣室に連れて帰った瞬間にびしょ濡れになった犬の如く身体を震わせた猫天使によってエノクがずぶ濡れにされるのは、今から少し先の話である。


Fin.