夜螺
2025-03-02 17:38:45
8157文字
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【Tor.】「孤風と大樹」

Tortuous World 過去話 リミット・リシュア

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風なびく草原。
流れる白い雲。
そして照り付ける太陽。
行く手を遮るものは何もない。
そんな世界を、彼は今日も踏みしめる。



◆孤風と大樹



俺は旅人。
目的は無い。
強いて言うなら、師の旅路を追うこと。

……昔は、とある男と共に旅をしていた。
今は剣の師と思えるけど、当時はただ、俺の面倒を色々見てくれた親、って立場だったと思う。
両親の存在をそもそも知らない俺は、彼が一番、親に近いと感じていたんだろう。

そんな師が、二年程前に殺された。
とある事件が起きたのが切っ掛けだった。まあその辺の事は、詳しく話せば長くなる。
要点だけかいつまんで言うと――俺は、ある村を壊してしまった。
直接的とは言わないが、結果、そうなっている。

村の人にはよくしてもらっていた。
いや、最初からこちらを貶めようとしていたのだろう。
よそ者を嫌う閉鎖的な村。追い出すための理由。様々な思惑――
すべてを知ったわけでもないが、俺らはその、利用されてただけらしい。
それで、本当は俺が殺されるはずだったのに――

……いや、後悔しても仕方ない。
その時植えられた、俺の人間に対する不信感は、未だ拭えないでいるわけで。
こうして旅を続けていても、それが氷解することはなかった。

俺が旅人である理由。
勿論、居場所が無いってのはあるけれど。
今の俺が何処か一点に留まったところで、俺は人と長く関わり合う自信がないっていうのが大きいと思う。
あれからずっと、一人で旅をしてきた。
行く場所はない。
しいていうなら、ひとどころに留まらないための、果ての無い旅。
だから、
俺の旅は終わる事がない。

そう、今でも思っているはずだ。



◆◆◆



風なびく草原。
ここはランスターの郊外にある、リダ・フライアという草原だと聞いた。
緑ばかりが広がるこの一帯には、ひとが住むような集落は少ない。
今でこそ数日おきに中央都市や港町を結ぶトレインの路が敷かれているが、
俺はあまりトレインを使うのは好きではない。
路を少し離れてしまえば、見渡す限り緑の海原がそこにあった。

この世界――ユノトゥルでは、各地で多くの植物が見受けられる。
ここより東、乾燥した大地でも、北の山脈方面の積雪地帯でも、何かしらの花がある。
逆に、見られないところ自体が珍しいだろう。
そもそも、「この世界」とは言ったけど、別に他の世界があるっていう意味じゃない。
はじめにアクアリオスかどっかの科学者か何かが言い出して、いや、ミュートンの歴史学者だったか……
ともかく歴史上、誰かがそう呼ぶことにしたんだと。 
俺はこの辺りの事情に詳しくはないからよくわからないけども。

だから、ぽつねんと現れたその光景に僅か、足を止めていた。
小高い丘。緑の草の上に、散りばめられたように咲く花。
リダ・フライアの一角は、ちょっとした花畑のようになっていた。
不揃いの花が咲いている程度ではあるが、ここにもしっかりと世界の証があるようだった。

花々を眺めながらふと、ある光景を思い出していた。
――これよりも広大な花畑を見たことがある。
確かクロウヴァという地に立ち寄った時のことだったと思う。
町の大半以上が花に覆われているという、変な場所だった。よくもそういうところに住もうと思ったな、などと。
後に人の噂で聞いたが、あの地はかつて大火災で、半分以上の土地が焼けたのだとか。
あらゆるところに植物が群生しているとなれば、火災というのは、まさしく大災害である。
しかし俺が見た時はそのような痕跡は見られなかった。町の人間からもそのような話はなく。
なら、一部の居住区が焼けただけなのか。と自分の中でこの話には結論をつけていた。
町そのものが焼け落ちてしまったわけではなかったのだろう。

ほぼ記憶の端に放りやったような話だ。何故急に思い起こされたのだろう。
記憶が連鎖する理屈なんてそりゃ、わからないが。
或いは、花畑の向こう、丘を越えた先に。大樹の姿を見たからだろうか。

先ほどまで、まったく視界に映っていなかったはずのその影は、
今や遠くからでも存在感を放っており、妙に惹かれる心地があった。
あれだけ大きいのなら、近郊の町ランスターでは話題になるだろうのに、
この辺りで象徴になるような樹があるとは、どこの噂にも聞いていない。
確かめに行くべきだろうか。

決めあぐねていると、ちょうどその花畑の向こうから、数体の獣の影が見えた。
特徴的な長い尾、四足歩行。群れ――パンサルだ。
鋭い爪を持った、斑模様の動物である。

旅をしていると、こういったモンスターにもよく出会うことがある。
集落近くだと比較的温厚なものが多いが、時折人間を襲ってくる奴もいたりする。
食料目当てかなんかだろうけど、最近はその頻度がやけに多いような気がしてならない。
町と町とを繋ぐ輸送隊、ましてやトレインですら、深刻な被害を被っているとか。

思わず鞘に手を伸ばしたが、彼らはこちらを気に留めている様子はないようだ。
みたところ、何かから逃げているような感じがする。
構えるまでもなく、それらは次々と俺の横を通り過ぎていく。

旅をする奴は、護身術の一つか二つは心得ている。剣でも、魔法でも。
多少なりとも戦えなければ、近場は問題なくとも、長旅はきつい。
それか、誰か護衛を雇うかしないと、遠出は厳しいだろう。
俺も一応、例の師から剣術を教わっているから、そういう面では困らない。……はずなんだけど。
息をついて、警戒を解こうとしたところで。

「退いて下さい!」

何処からか、よく通る女の声がした。

直後、目の前に一体のパンサルが舞った。
反応する前に、地面に押さえつけられる。――群れからはぐれた奴か!? 
興奮状態であろうパンサルは既に、障害物である俺に向かって爪を振りかざしている。

「だから退いて下さいと言ったでしょう」

先程の女の声。
すぐ目の前にいるようだが、今、俺の上にはパンサルが乗っているような状態なので、彼女の姿は見えない。
――と思った瞬間、パンサルは大量の血を流し、倒れた。
倒れた背には、細身の刀が刺さっていた。
いや、刀と言うには若干細すぎる気がしないでもない。レイピアの類だろうか?

「怪我はありませんか?」

得物からその刀(一応、こう表現しておく)を抜きながら、彼女は言った。

そこで漸く、俺はその女の姿を目にする事になる。
翠色の目、似たような色をした長い髪――それなりに美形といえる、綺麗な女だった。

「あそこから応戦は出来たけどな」
「おや、お礼のひとつもありませんか」

女は微笑んでこちらを見た。……面倒なことになった。
ここで人に会う想定はしていない。さっさと離れてしまおうと少々投げやりに言葉を発した。

「あー、うん。助かった。じゃあな」

ちょうど向こうには大樹が見えている。そちらへ足を向けようと踏み出そうとして。
女はちらと、通り過ぎようとする俺の様子を見、口を開く。

「いえ、まだ離れないでください」
「あ?」

……引き留められた。この流れの旅人に何か用でもあるのか。
不満たっぷりに女を見返すと、彼女はただ微笑んで返した。

「どうせ旅の方でしょう。少々寄り道してもよいのではありませんか」
「はあ……

話しながら女は膝を折り、ナイフを使い先ほど仕留めた獲物を解体し始めた。

「人手が足りないんです。ちょうど手伝ってもらえそうな人材をみすみす逃せません」

澄んだ声とは裏腹に、いっそう血の臭いが強くなる。
普通人の目の前で堂々とやるものだろうか。幸い、慣れてはいるが。
……厄介なことになりそうな予感がする。思えば、足を止めてしまった俺も俺なのだが。
俺の心情なんかお構い無く、女は勝手に続ける。

「近くで暴れていたのを追い払った分、こちらに逃げていってしまって」
「先陣が妙に怯えてたのは、まさかお前のせいなのか?」
「そうかもしれませんね」

先の太刀筋からもわかるが、この女は相当腕が立つらしい。解体にも迷いがなく、正確なものだった。
近くに仲間がいる気配もない。同じ旅人だろうか?
……そのまま、物色する女の様子を観察していた。
暫しの間、風の音だけが場を包む。
ようやく女は血塗れの手で、あるものを取り上げた。

「見つけた。これを盗られてしまって……追いかけてきたんですよ」

それは手首につけられる飾り紐のようだった。
透明の羽根に――橙色の花々が連なって、輪となっている。
言うだけ言ってから女は、それを懐にしまった。

「噛み千切られたのか?」
「まあ、そんなところです」

ややその言葉に違和感があった。先ほどの腕、そういった不覚をとられるような気がしなかったから。
しかしそれは自分にも言えることだ。風の巡りが悪ければ、簡単に命を落とすことだって――
怪訝げな表情を読み取られたのか、女はふと、こちらを見て。

「そんなに私が気になりますか?」

と、微笑んだ。

……別に」
「先ほどからずっと視線を感じましたが、無意識で?」
「いや、お前が待てと言うから」
「何も私を見て待てとは言ってませんけれど」

……何だこいつ。

「慣れてるんだな、と」
「ああ、成程。よく見ていますね」
……

なんだか眩暈がしてきた。だからなんだって言うんだ。

「それはどうでもいいだろ。……手伝ってほしいことって」
「簡単なことです。その前に」

一度言葉を切り、女は立ち上がる。
近くで咲いていた花々が風で揺れた。

「私と手合わせ願います」
……はあ?」

見ると、女は真剣そうな眼差しでこちらを見ている。

「あなたが私に興味があるように、私も……少しばかり興味がありまして」
……別に興味があるわけじゃ」
「悪いことは言っていませんよ」

俺は息を吐いて、女を見やった。

「第一、手伝うのに手合わせって……戦力がいる話か?」
「そうと捉えてもらって構いません。旅先でそういったこともするでしょう?」
「まあ……逗留中の資金稼ぎとかな」
「そういうことです。私はあなたを雇いたい」
……

確かに、逗留地で護衛や警備の仕事がとれれば、期間つきで請け負うこともある。
しかし俺は今どこかに滞在しているわけでもなければ予定もない。
そもそも、目の前で戦闘力を見せたわけでもなかった。その為の手合わせならわかるが……

……判断基準は?」
「私の背後に、何が見えますか?」

一陣の風が吹く。
女の背には、依然として聳える大樹の姿。
遠くにあるはずなのに、今やそれははっきりとした輪郭を映す。
大地を包み込むほどの大きな樹。人間の何倍というものではない。
陽に照らされ、瑞々しい葉々がそよげば、蛍火のごとく光粒が舞う。
その煌きが、花畑に佇む女までを崇高にさせているようで。
どこか神々しい光景が、彼女の透いた翡翠の目が、圧倒されたままの旅人を捉えていた。

……やはり見えているのですね」
「見えてる、って、何だよ。あの大樹のことか……?」
「普通は見えないそうですよ。ユメに選ばれたようなので」
「ゆめが……?」

言っていることがわからないが、つまり、あの大樹のせいであるようだった。
はっきりしない思考を振り払うように首を振って、溜息をついた。

「はあ、とりあえず。手合わせ自体は構わない」

が、と念を押すように続けて。

「雇う雇われるの話はいったん別だ。戦ってから考える」
「いいですね、そうしましょうか」

両者が頷き、俺は鞘に手を置く。
女も例の刀を抜いて、構える――ところで、俺をまっすぐに見つめた。

……そういえば、あなたの名前を聞いてませんでしたね」
「要るか?」
「可能なら」
「はあ。……リミットでいい。お前は?」
「リシュアです。では」

どうぞよろしく。そう言った瞬間、リシュアは俺に向かって駆けてきた。
俺は素早く双剣を構えて、振りかざしてきた刀を止めた。

「二刀流ですか」
「どうかな」

俺が曖昧に答えると、相手はワンステップ後ろへ下がり、小さく詠唱する。
次に、光る矢のようなものが襲いかかる。
粒子の集まり方、煌度、光属性――そうと見た。
俺は剣を縦に構え、そして襲いかかる全ての光の矢を切り裂いた。
――烈葉。
風速あらゆるものを切り裂く。光矢は急速に輝きを失うと、足元の花々に、吸い込まれるようにして消滅した。
しかしリシュアは、全矢を打ち落とされたにも関わらず微笑んでいる。
次に相手は再び、詠唱をした。もう一発放つ気か――そう構えていると、視界が発光する。
瞬く間に目の前の相手の姿が、一瞬にして消えていた。――何処だ!?
ふわり、と背後に気配を感じた。振り返りざまに剣を突き出す。
弾いた。剣と刀、互いに後ろへ跳躍。
突きの戦法……今の威力から感じるに、相手はその辺を得手としているのだろう。
こうやって二つも剣を使っているにも関わらず、相手は対等――いや、それ以上に食い付いてくる。
防戦一方では、体力勝負になりそうだ。――攻めるしかないか?
意に留め、双剣を構え直す。今の距離だと、どうも技を当てづらい。
懐まで潜り込めれば――一気に間合いをつめ、今度はこちらから双剣で斬りかかる。
相手はそれを軽く受け流してみせた。若干驚きつつも、手数で攻め続ける。
相手の体勢が崩れる様子はなく、埒があかない――ならば一発ぶち込むしか。
――旋風獅子。
今度は避けられないと思ったのか、相手は刀で以て双剣をそのまま受け止めた。
そのまま、再び鍔迫り合いに。相手の方が若干、力が強い。
このままでは押される、――それなら。
双剣にぐっと力を入れ、そして繰り出した。瞬時に風が巻き起こる。
――渡翔鳥。
思わず相手は俺の剣から刀を放す。その時、相手の顔から一瞬、笑みが消えた。
そうして再び間合いを取るかと思ったが、相手はそのままの距離で、再び詠唱を始める。
何がくるか分からない。妨害するのが得策か――
踏み込もうとした。しかし、

「少し遅いですよ」

赤い蝶やら蛾やら、もしくは木の葉、花だったのかもしれない。
そんなものが空や草原を埋め尽くす。
どうやら発動された。しかも、これは闇属性だろう。――光と闇?
空からの光は唐突に絶たれ、眼前にはもう、赤い闇しか見えていない。まるで大火災でも起きているような――

「『朱闇波鳥』」

赤黒い闇が舞う。全てを包み込む。
先の真っ白い光景とは程遠く、世界が深い闇に沈んでいく――

しかし、気がついた時には

……!」

景色は元の花畑、双剣は弾かれ、相手の刀は俺の首筋に突き立てられていた。
そうして、相変わらずの笑みでこちらを見据えた。

「我流、と見ましたがどうでしょう?」

剣の話か。

「まあ……そんなところだ」

そう答えると、彼女は満足そうに刀を下ろしてからこう言い放った。

「そうですか。少し本気を出してしまいました」

刀を収める様子を見、唇を噛む。剣を拾う気にもなれず、花畑に転がった。

「俺の負けだな」
「私も一瞬焦りましたよ。まさかあの状態から風魔法を打ち込まれるとは思いませんでした」

そう彼女の口から告げられるも、何だかその調子ではどうも嘘っぽく聞こえる。
まあ、嘘ではない事は先の表情の変化で十分にわかってはいるのだが……
思ってはいたが、やけに強かった。

「魔法じゃない。あれも剣技だ」
「それは驚きです」

若干茶化すように、リシュアは口に手を宛がい、小さく笑う。
……こいつが、あんな腕前の持ち主だなんて、やはり信じられない。

「あれは幻覚魔法か何かか?」
「似たようなものですね。珍しかったですか?」
「反則的だろ……
「伊達に手合わせを申請していませんよ」

花畑に寝転がる俺の隣に、リシュアも座った。
それから、しばらく両者共黙っていたが、不意にリシュアが口を開く。

「守霊樹だと思いました?」
「突然だな。あの樹のことか」
「ええ。ですが残念、あれはただの夢の樹です」

そう言って、大樹を仰ぐ。
守霊樹――このユノトゥルの誕生と共に在った、伝承上の樹のことだ。
この世界の中心に佇んでおり、なんでも、世界誕生の経緯を紐解く鍵になっているらしい。
守霊樹の根自体は各地に見受けられるが、その本体については未だ見つかっていない。
根を辿っていけば見つかるのかもしれないが、植物をそのまま暴くことはあまり大衆にとっていい顔をされない。
ある種の信仰なのだ。

「ゆめだかなんとか言ってたな。何なんだ、それは」
「私の住処です」
「は……?」
「あの樹と共に暮らしています。時々ランスターに出て、仕事をしたりなどで生活していますね」

つまりあの樹に住んでいるというのか。話通りならそういうことだが、少々信じられない。

「仕事って……さっき言ってた討伐とかか」
「それもありますが、実情は便利屋ですね」
「便利屋」
「物を運んだり、失せものを探したり、迷子を見つけたり、人気店の行列に代わりに並んだり」
……

……もしかして相当無茶苦茶なところに雇われようとしている?

「つまり人助けですね。稼ぎについては都度依頼人と交渉します」
「はあ……
「交渉などのやり取りは私の方でします。住むところはあの樹で、食事は作りますよ」
「作りますよて」
「私と仕事をしてみませんか?」

平然な調子で、リシュアは俺を勧誘している。

「俺は旅人だぞ……
「存じています。一年契約とかにしましょうか?」
「具体的だな。でもそのうちいなくなるぞ」
「いなくなる前はちゃんと伝えてもらえれば」
……

顔だけ向けて、そちらを見る。リシュアの視線は大樹の方にあって、俺を見ていなかった。
何故、俺なのか。
何故、大樹に選ばれたのか。
そうは言って、全部騙そうとしているだけなのではないだろうか?
……わからないことだらけだ。普段には気にも留めないはずなのに、そのまま背を背けるはずなのに
大樹を背にしたリシュアの姿が脳裏によぎると、妙に胸がざわついた。
実力で適わない相手。正直、悔しいところがあった。なら……

「お前を倒すまで、でどうだ」
「おや、随分と殊勝ですね。そんなにショックでしたか?」
「ちげーよ。はあ……

視線をずらし、こちらを見てきたリシュアから顔を背ける。

「気まぐれだよ」
「では、そういうことにしましょう」

言葉を受けて、リシュアはこちらに手を伸ばす。
握手のつもりだろう。横目で見て、しかし、ためらった。
……反射的に、恐れたのだろう。
その様子を、リシュアは暫し観察してから。

「これは友好の証の挨拶です。確かに手に触れることで相手の情報を読み取ろうとする輩もいますが……

私に害意はありませんよ、と伝えた。

「そんな馬鹿丁寧に……
「怖いのでしょう? なら説明が必要かと」
「は、――

見られている。心情を。何故、と問おうとした言葉を遮るように、リシュアは続ける。

「誰かに徹底的に裏切られましたか? 深くは聞きませんが」

そう言って勝手に、俺の手をとった。

「私を疑うのは勝手ですが、誰彼ともなく疑うのは失礼に値しますよ」
「ば……

反射で突き飛ばしそうになったが、そもそも寝転がっていたままだ。体勢がおぼつかずにまごつき、

「勝手に決めるな……!」
「勝手に決めたのはあなたが先でしょう」
「くそ、」

身を起こそうとしたところで、手は離される。
そのまま距離をとり、悪態をつく。

「最悪だ……
「どうぞよろしくお願いします。リミット」

それでも平然と、リシュアは笑っていた。



◆◆◆



風なびく草原。
流れる白い雲。
そして照り付ける太陽。
穏やかな風は、彼女の緑の髪を揺らしていた。



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