夜螺
2025-03-02 16:29:29
2789文字
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【Tor.】Chapter.2-prologue「夢の始まり」

Tortuous World 2章「夢の守人と糸絡の影」

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私は_____。
私が私として意識をもったときから、
ずっとひとりだった。

私は探し回った。
自分を受け入れてくれる場所を。
自分が安住出来る地を。
でも、何処からも拒まれた。
私が、___という理由だけで。
私の居場所は、なかった。

「はぐれちゃったの? かわいそうに……
「暗くなる前に仲間のところへお帰りなさい」
「これ以上近づいたら、あんたを殺すぞ」
「きゃあ!」「こどもたち、はやく家に入って!」
「ここは人間の住む町よ」

私はみんなに危害を加えるつもりなんかないのに。
ただ、同じように生きていたいだけなのに。
いくら主張をしたところで、誰も私の言葉に耳を傾けることはなかった。
私の説明が悪い? それとも、信じなかった彼らがわからずやなだけ?
どちらにせよ、疲れてしまった。

そうして幾たびも繰り返される、ひとりの夜に。
遠いむかし、親が子に語り聞かせる枕話を盗み聞いたことを思い出す。

「ね、今日も聞かせてよ。夢の世界のお話を――

すべてのいきものは、眠りにつくと夢を見る。
そんな夢の世界へ貧しい少年少女が流れ着き、
現実世界ではありえないような、心躍る冒険の日々を過ごす物語だ。

そこは、自由な場所だという。
そこは、望むままでいられる場所だという。
そこは、すべての想いが交差する場所だという。

……私にも、見れるのかな?

現実に居場所がないのなら、向こうで探せばいい。作ればいい。
目を閉じて、息をひそめて。
疲れ果てた身を投げるようにして、
意識は深いところへおちていく。

……

そうして、私は再び目を開いた。
はじめ、そこは向こうとなんら変わりのない場所のように思えた。
それでもすぐに、夢だとわかった。
ここには、私を拒む人間はいないから。

私は歩く。
だれもいない。
私は走る。
だれもいない。
私は声をあげる。
だれもいない。
ああ、そうだ。
そんな人間なんて、いないんだ。

……

無彩色の光景に、ひとつの赤を見つけた。
よく見るとそれは、ひとのかたちをしていた。
ひとのかたちをしたものが、赤い液体をただ流して
だれもいないなかで、倒れていた。

少しだけためらって、彼のもとへ屈む。
口を動かしてみれば、大丈夫? とちゃんと声が出た。
血塗れのからだが身じろいで、こちらを見上げる。
その右目には、深い傷があった。
他にもあちこちに、これほどまでの血を流していることを裏付けるほどの傷がある。
唇を震わせ、最初は声にならなかったが、
おそらく男――はたどたどしく、言葉を発した。

……泣いてるのか?」

そう言われて、はじめて自分が泣いていることに気が付いた。
どうしてだったか。

「だ、って……こんな、だれも、いないところで」

あなたが私を拒絶しないとは限らないのに。

「しんじゃったら、いやだから……

そうは頭で理解していても、目の前で人が死にゆくことは耐えられなかった。

「でも、どうすればいいかわからないの。手当なんかしたことないのに」
……

彼は、泣きじゃくりながら話す私をぼうっと見上げているようだった。
それからやがて、

「傷口を……とじて、もらえるか」

簡潔に、そう伝えた。
治療の仕方はわからないが、縫うことは得意だった。
言われるままに、私は糸を紡ぎ、彼の傷口を塞いでいく。
縫っているさなか、彼は時折痛みで小さく呻き身じろいだ。
地に流れて落ちていたものは、止まった。

糸が解けないことを確認して、私は彼の隣に座る。
まだ身体を動かす気力はないようだが、彼の呼吸は段々と落ち着いたものになっていく。
もう大丈夫のはずだけれど、ここから離れる気にもなれず、
なんとなく、それを見守っていた。

……助かった」

不意に彼がこぼし、そちらを見る。
その表情はもう、先のような苦痛をたたえてはいない。
よかった。安堵の息を吐き出して、改めて彼と向き合う。

「どうして、怪我なんかしちゃったの」
……

僅かだが、目が眇められるのが見えた。
もしかしたら答えづらいだろうか。そう思って別の話題を探していると、彼が口を開く。

「刀が、落ちていなかったか」
「刀?」

訊ねられて、周囲を見遣った。
そう遠くないところに、一振りの刀が落ちている。
彼の姿に気を取られて、気が付かなかったようだ。

「もしかして、あなたの?」

彼が頷く。
とってこようか、と立ち上がり、刀の方へと歩く。
拾い上げて見れば、見た目よりもずしりと重かった。

「わ、」
「見てくれよりも頑丈だ。引きずってもいいが」
「そんなことしたら刃がダメになっちゃうでしょ」

余分に出していた糸でなんとか絡めて、持ち上げる。
そのまま、彼の元へと歩いて行った。
傍に置いてやれば、彼は小さく感謝の言葉を述べた。

「ここに来るまでに荒事に巻き込まれた」
「まだ近くにいるの?」
「いいや、もういない……と思う」
「そっか」

再び彼の隣に座り込む。
それを見、今度は彼から問いかける。

「お前はどうして此処にいる」
「私は、……

言いかけて、口を噤む。
けれど、ためらったのはほんの一瞬で。

――逃げてきたの」

彼の目が緩やかに瞬く。

「ここなら、ここでなら……自由でいられるかな、って」

けれどもそれ以上、大きく反応をすることもなく。
そのことに甘んじてか、言葉が勝手に口からこぼれてゆく。

「私が私として、虐げられない場所。認めてもらえる世界」
「でも、……結局それも、"夢"だったんだ」

だってここには何もないのだから、と。
紡ごうとした言葉に、彼の声が重なった。

「はじめからない、と決めつけてしまえば、そうなるだろう」

下がった視線がかち合う。髪色と同じく、深い黒色をしていた。

「お前の目には何もないように見えるが、それが"夢"のはじまりというもの」

髪が揺れる。暖い空気が、冷えた身体を包み込む。

「探すというなら、これからだ」

草木の匂いがする。柔らかな日差しが、温もりを分け与える。
世界のはじまりにふたり、空を仰いだ。





◆◆◆





そうだね。
私はここで、好きに生きてみせる。

だから――邪魔する者は、何人であってもゆるさない。




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【dream-0.0】夢の始まり -First Question.-
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