休日のショッピングモールは家族、友人同士や恋人で賑わっている。その中でも俺の働いているカップアイス屋は特に賑わいを見せていた。それもそのはず、今日はカップルDayと謳っているからだ。
数十種類のアイスが並んだガラスケースの反対側にはどれにしようか、と相談するカップル、カップル、カップル! 俺は死んだ魚のような目をしつつ無心になって注文を受けてはカップにアイスを乗せていた。
はぁ、ここに俺の同級生の大和さんとか来てくれたら目の保養になるのにな。俺はため息をつきそうになりながら途切れない列に目を向けた。
「!?」
入り口の近くに見慣れた人物が立っている。端正な顔立ちは見る人の視線を惹きつける子。クラス内外問わず毎日のように告白されては全員玉砕しいてると噂の大和タケルさんだ。見間違うはずがない。俺は内心ガッツポーズした。
学校からは距離があるこのショッピングモールは同級生との遭遇率が低い。にも関わらずクラスで人気の大和さんと会えるなんて! 今日はなんて良い日なんだ! 普段は長い髪を三つ編みにしている大和さんは長い髪を団子にしている。
オーバーサイズの白いパーカーに丈の長いジーパン姿の大和さんの私服姿が拝めるなんて! 俺はウキウキ気分のままカップルたちからの注文をさばいていた。
列が動いて自然と大和さんの声が聞こえてくる。
「イオリ、イオリ! きみは何にする?」
ん? イオリ? イオリ、伊織? 宮本伊織? 俺の高校の非常勤講師の宮本伊織? 俺は反射的に顔を上げた。
大和さんの隣に立っている長身の男性。肩まであるくせ毛を一つに束ね、スーツではないが、白いパーカーに紺のパンツ姿はどう見ても宮本先生、通称ミヤセン。俺はカップを手から落としそうになる。
心臓がバクバク鳴ってる。え? 大和さんの隣にいるのはミヤセン。ということはデートとか? よく見れば白いパーカーってもうおそろじゃん! は? マ!?
「手、止まってるぞ」
同僚に指摘されて俺は慌ててスクープを動かしてアイスをすくった。
「……」
なんのいたずらか、偶然大和さんとミヤセンが俺の目の前にいる。マジか。
俺には気付いていないみたいだからいいけど、この二人付き合ってたのか。俺は一人のバイトとして満面の笑みを二人に向けた。
「おまえは決めたのか?」
「うーむ」
ミヤセンの声めちゃくちゃ穏やかなんだが? なに、恋人に対してはそんな声出すのミヤセン。
大和さんは両人差し指をこめかみに当てて身体を傾けている。動きが可愛いな。
「イオリは決めたのか?」
名前呼びかぁ~。
「俺はこの大納言あずきだな」
渋っ! ミヤセンのチョイス渋すぎないか? ほら、大和さんも「え?」みたいな顔してんじゃん。
「そ、そうか。うむ、きみらしくていいな!」
そう言って大和さんがミヤセンの方を見上げて満面の笑みを向けている。はぁ~可愛い。というか、大和さんって好きな人の前であんな顔すんの?
「タケルはどうする?」
こっちも名前呼びかよ~。もう恋人じゃん。これカップルDayに合わせて買いにきたパターンじゃん~。俺は二人にメニュー表を見せた。
「カップルセットでよろしいでしょうか?」
「カップル」
「セット?」
おぉ~と。二人そろって首を傾けてるぞ? え? まさかカップルセットじゃなくて普通にアイス買いに来ただけ? マジかよ。
俺はマスク越しに頬を引きつらせながら説明した。
「今日限定のカップルセットは、カップがハート型になってまして、セットで注文するとどちらかのカップに一個多くアイスが付くサービスになってるんです」
「カップル……」
「いや、俺たちはカップルでは」
頬を赤く染めた大和さんの隣でミヤセンが否定する。ミヤセン~! そこは否定するところじゃないだろ!?
大和さんがちょっと寂しそうな顔してるじゃん。なに言ってんだよミヤセン~!
「ま、まあ。カップルセットはカップルだけが頼むものでもないですし、お得要素が多いので割と女性同士で頼む方もおりますよ」
すぐに大和さんの表情が明るくなる。
「だそうだ、イオリ! 私はこのカップルセットが良い!」
ミヤセンの袖を引きながら見上げる大和さんを見下ろすミヤセンの表情が穏やかになる。
「解かった、解かった。それでいい」
「本当か!?」
折れるのはミヤセンなんだなぁ~。これもう惚れてんじゃん。
「では、カップルセットでよろしいでしょうか?」
「うむ!」
はい、可愛い。俺は奥歯を噛んでニヤケ顔を耐える。
「それではアイスを二種類ずつお選びください。一個おまけするのは彼女さんの方でよろしいでしょうか?」
「ああ」
俺は見逃さなかった。頷いているミヤセンの隣で大和さんが小さな声で「彼女」と言いながら頬を赤く染めた瞬間を。何なんだよこの二人~!
「タケル、アイスを三種類選べ」
「う、うむ」
「ここで召し上がりますか? それとも持ち帰りでしょうか?」
「持ち帰りで頼む」
そっか~。家で二人で食べるのか~。ふ~ん。あれか? 食べさせ合いで「あーん」とかするのか?
俺は二人から受けた注文通りにカップにアイスを乗せていく。カップに乗せられていくアイスを瞳を輝かせながら見つめている大和さんを見つめているミヤセンの目が優しいんだが? 俺はドライアイスを砕きながらニヤケ顔を抑えるのに必死だった。
「お待たせしました」
「ああ。ありがとう」
溶けないように蓋をしたカップにドライアイスを入れた袋を手渡ししていると、大和さんがミヤセンの袖を引いた。
「イオリ、帰ろう!」
う~ん。二人は同棲でもしてんのか?
「待て、待てタケル。落ち着け」
引っ張られながら店を出て行く二人の後姿を俺は見ていた。
二人とも~お幸せに~~~~!
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