sousakuyamamusume
2025-03-02 09:05:49
1634文字
Public 一次創作
 

赤と白(暗め)

トラウマ描写注意

 ふと、気がついた。
 ヴァイスが会うたびにやせている。目の下のくまも随分とひどい。私と会っている間は特に変わった点は見られないが……どこか無理をしているというのは明らかだ。こういう場合は、そうだな。わかりやすい皮肉で反応を探るか。
「ヴァイス。」
「なんだ、ロッソ。」
「寝食を忘れるような悩みでもあるのか?」
……大丈夫。」
 どこがだ。
 こんなにわかりやすくお前の心に踏み入ろうとしているのに跳ね返りの一つもないのではどこも大丈夫ではなかろうが。
 本当に『大丈夫』なお前なら「そんな言い方するなよ」と殴りかかってくるだろうが。
「一つ、提案だが。私の家に来ないか?お前が寝付くまでそばに居てやるぞ。」
……魘されてたら起こしてくれ。」
「ああ、わかった。」
 ……嫌な予感が、外れてくれそうにない。

 いつからだったか、寝るのが、嫌いになったのは。
 寝るたびに夢を見る。散っていった戦友と、僕が殺した王国兵が、僕を詰る。そして、気がつくと、戦場を埋めつくす死体の顔が全て僕かロッソになる。
……悪いね、平和だってのに不寝の番なんてさせて。」
「何、気にすることはない。」
 涼しい顔でロッソがいう。血に染まってないこいつの顔、久々に見たな。
 そんなことを考えつつ、うとうとと眠りに誘われる。
 ……どうせ、今日も同じ夢。ただ、いざとなったら起こしてくれるということだけが、今の僕の、救い。

 しばらく平穏だった寝顔が苦痛に歪んだのを見て、私はヴァイスを起こすことにした。
 こんなに苦しんでいたというのにもっと早く気付けなかったか、と後悔を抱える。とはいえ、今は後悔したところで何も変わりはしない。それなら一刻も早くヴァイスを起こす方が優先だ。
「ヴァイス、ヴァイス。」
……ロッソ?」
 焦点の合わない目が、私の顔を見、そして
「僕を殺しに来たのか、ロッソ!!!」
「ッ」
 混乱したヴァイスが、枕元に置いていたペンを片手に私に襲いかかってきた。
「ヴァイス、落ち着け。私の声が聞こえないか。」
「やられるまえにやらなきゃ、僕が死ぬところだったんだ!なのにどうして……亡霊め!僕は、僕は!!!」
 頬を掠めたペン先が赤く染まる。壁紙も貼り替えねばならないだろうか。
「殺したくなんてなかった!死なせたくなんて、なかった、なのに」
……戦争はおわったんだ、ヴァイス。」
「ちがう、おわってない、まだなにも、なんにも……
 急に静かになったヴァイスをそっと抱きしめた。
 帰ってこい、ヴァイス。ここは、安全だから。 

 あれ……ここは、どこだ……
 見慣れない装飾品と……僕の手に握られたペンと……僕を抱きしめているのは……
「ロッソ、頬…………ペン……僕、が……?」
「何、そこにペンを置き忘れた私が悪いのだ。お前が気にすることなど何も」
 なんで
「なんで、責めてくれないんだよ……起こしてくれたのに、助けようと、してくれたのに……
 それを僕は、ぼくは
「前に、私が風邪を引いた際に、お前が私の手を握ってくれたから。」
「それぐらい、別に」
「私には『それぐらい』すら与えられたことがなかった。生まれて初めてだ、具合が悪いときにあんなに優しくされたのは。だから、せめてお前が苦しんでいるときにそばに居ることぐらい許してくれ。」
 許してくれ、って。そんなの。どちらかといえば僕がそう思ってるぐらいで。
……また、傷付けるかもしれない。ペンがなかったら、僕、お前の首を締めてもおかしくないんだぞ。僕、おかしくなっちゃったから。」
「構わん。その若さで戦場を駆け抜けたのだ、傷つくのが身体だけとは思えん。」
 傷つくのが、身体だけじゃ、ない?どういう意味だ、と訊こうとして、さっきより強く抱きしめられた。
「お前の心が癒えるまで、どうか私を頼ってくれ。……頼む、一人で抱え込むな。」
 あまりにも切実な、祈りの言葉だった。