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2025-03-02 00:19:46
3173文字
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nntm
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意味づける/運命的な(義→鬼)
#カスタムお題メーカー
https://harukuriki.website/tools/custom_theme_maker
※あらゆる捏造を含みます。忍ミュネタあり
「ヨシさん、アタシたち運命かもしれないよ」
褥を共にした女が甘ったるい声で囁くのを、義丸は心地いい疲労感から来るまどろみの中聞いていた。なにが運命だ、すべての客にそう言っているだろうに。そう思ったが興を冷めさせる気はないので黙っていた。
運命の相手なんて、とうの昔に出会っている。
「朝帰りとは、色男はさすがじゃねえか」
水軍館に戻ると、厨で朝食の支度をしていた疾風がにやにやと笑いながら声をかけて来た。誰にも見つからず部屋に戻ろうと思っていたのだがタイミングが悪かったらしい。義丸は諦めて疾風に向き直った。
「おはようございますアニキ、朝餉は何です?」
「おう、おはよ。昨日の刺身の残りを茶漬けにする。あとはイワシの煮たやつを今日中に食っちまわねえと」
かまどの火にかけられた鍋から白い湯気が上がっている。出汁をとるのだろう、昨日の夕餉に出された魚の焙られた骨が入れられているのが見えた。出汁茶漬けとは、昨夜も酒を酌み交わしていたアニキたちにはぴったりだろう。
「ヨシ、見張り台の鬼蜘蛛丸にもうすぐ朝餉だって声かけて来てくれ。航の奴を叩き起こして交代に行かせる」
「わかりました」
そういえば鬼蜘蛛丸は夜通しの見張りについていたのだった。恐らくもう陸酔い防止の酔い止めの効果も切れている頃だろう。義丸は共用の棚から薬包紙に包まれた酔い止めをひとつ手に取り、水軍館を出て丘の上の見張り台へ向かった。
早朝の瀬戸内の海は穏やかだ。顔を出したばかりの太陽の光で波間がきらきらと輝き、目が眩みそうになる。ざざん、ざざんと寄せては帰すさざ波の音。強い潮の香り。全て、義丸という男の骨にまで染みついている。だが、それはきっと義丸だけでなく兵庫水軍の男たち全員に言える事に違いない。特に船中の四功ともなれば、義丸以上に完全にこの瀬戸内の海は庭同然だろう。それは、なにも自分より年齢が上だからと言うだけではない。事実、船中の四功のひとりである鬼蜘蛛丸は義丸と同じ年なのだから。
義丸と鬼蜘蛛丸は、殆ど同時期に兵庫水軍へと流れ着いた。あの頃はまだ、今の網問よりもずっと幼く、何をするにも二人一緒だったように思う。互いに親を亡くした者同士、食っていく為に与えられた仕事をがむしゃらにこなしてゆく毎日だった。初めて船に乗せて貰った時も一緒で、まだ若かった第三共栄丸や蜉蝣たちに殴られて怒られたときも二人一緒だった。陸に上がって一緒に遊びに出かけることも多く、霞木綿が取れるタイミングも同じで、お前たちいつも一緒にいるなと揶揄われて二人でむくれたこともあったほどだ。
あの頃は、ずっと自分たちは一緒にいるのだろうと思っていた。船の中でも、外でも助け合いながら互いに互いを補い合いながら海で生きていくのだろうと。きっと、自分は鬼蜘蛛丸という男に出会ったのが運命だったのだろうとすら思った。年齢が同じであるという些細なことにすら意味があるような気がして、喧嘩だって何度もしたけれど、なんとなく、自分の半身を預けたような気になっていたのだ。
だから、彼に陸酔いの症状が出始めた時になんだか妙な違和感のような、胸騒ぎのようなものがあった。ああ、この男は自分とは違うのだと。そんなことは当たり前だったはずなのに。
「うわ、思ったより重症じゃないか」
見張り台に上ると、遠眼鏡片手に完全に床に伸びながら桶を抱えている男がいて、義丸は思わず苦笑いを浮かべてしまった。立派な体躯を小さく縮ませて、真っ白な顔で義丸を見上げたのは陸酔いですっかり参ってしまっている鬼蜘蛛丸だ。
「ほら、薬持って来たから飲んで。疾風のアニキがもうすぐ朝餉だって言ってたぞ」
薬包紙に包まれた酔い止めを水と一緒に手渡す。忍術学園の保健委員が調合してくれたこの酔い止めは本当に良く効くようで、もはやこれ無しに兵庫水軍は成り立たないのでは無いかと思う程だ。彼らに出会う前は、忍者という存在に敵意しか持っていなかったというのに不思議な縁である。
助かるよ、と生気の無い声で薬を受け取った鬼蜘蛛丸は薬包紙を広げて薬を飲む。船の上ではあんなにも頼れる山立であるというのに、陸に上がった彼は木桶を手放せない男になり果ててしまうのだから、ある意味では海に愛されすぎた男と言えるのかもしれない。
鬼蜘蛛丸が船中の四功である山立に選ばれた時、義丸は誇らしかった。アニキたちには同い年なのに悔しかったな、と慰められたりしたこともあったが、義丸は若くして大役を担うこととなった鬼蜘蛛丸相手に羨望も嫉妬も抱いた記憶が無い。不思議と、自分が認められたような誇らしさを覚えたものだ。自分はきっと、この才能溢れる海に愛された男を守って死ぬ為にここに、彼の隣にいるのだと、なんだか妙に納得してしまった。
彼が山立になってすぐに、今度は義丸に大きな役が与えられた。鉤役は水軍のいわば花形の職だ。山立である鬼蜘蛛丸が風を読み潮の流れを読んで進める船の舳に立ち、敵船に鉤を掛けて引き寄せ、誰よりも先に敵船に乗り込む。最も危険で、最も華がある。誉れだ、と思った。自分を鉤役にと評価してくれた第三共栄丸に心の底から感謝し、着いて行こうと思えた。
だが鉤役になるということは、兵庫水軍に入って以来初めて鬼蜘蛛丸と船内で右舷と左舷に分かれることになるということだ。例え右舷が攻撃されたとしても、左舷にいる水夫は助けに行くことが出来ない固い掟がある。船が傾き沈んでしまうからだ。
ああ、こいつのために死んでやれなくなる。そう思った。
「お前また女のところへ行っていただろ。白粉の匂いがついてるぞ」
薬を飲み少し落ち着いてきたのか、鬼蜘蛛丸が少しずつ顔色を取り戻しつつどこか嫌そうに義丸に行った。鬼蜘蛛丸はいつも、義丸が陸で女遊びをすることを嫌がる。「俺の勝手だろう」と言えば彼はますます眉間に皺を寄せた。
鬼蜘蛛丸は、義丸が鉤役となってから女遊びが増えたことを、危険な仕事が故に生き急いでいるのだと思っているらしい。もちろん、船の舳に立つたびに今日こそ自分の命日になるかもしれないと思う。だがそれは、怖気付くどころか義丸を奮い立たせる緊張感と覚悟によるものに他ならない。
義丸が女遊びをする意味など、そんなもの、彼が知る必要はない。
「俺より先に死ぬんじゃねえぞ、ヨシ」
いつかも聞いた言葉だ。人の気も知らないで、と思う。アンタを守って死んでやれないというのに。その目がまっすぐに、本気だと物語っているからたちが悪い。義丸はへらりと笑って緩く首を振る。
「大袈裟なんだよ、まったく。陸に上がった時は楽しいことをしたいだけさ」
「
……
ほどほどにしとけよ」
あの時のように殴られるだろうか、と思ったが陸酔いでそんな元気も無いらしい。遠眼鏡を手に取り、見張り台から朝の穏やかな海を見ながら小さく彼は呟いた。
「アンタこそ、俺が庇えないところで死にかけるなよ」と思ったが、義丸は口にはしなかった。きっと義丸が庇おうものなら烈火のごとく怒って、義丸の自慢の顔を見る影もなくなるほど全力で殴るに違いないのだから。
「立てるか? 航が交代に来るって」
「待て」
鬼蜘蛛丸の声音が変わった。ピリッとした緊張感が義丸にも伝わり、急ぎ鬼蜘蛛丸が遠眼鏡を向ける先に視線をやる。義丸の目にはいつも通り、穏やかな朝の海原にしか見えない。
「潮の流れがおかしい。東の沖合から何か来るぞ」
「難破船ですか」
「わからん、お頭の判断を仰ぐ。お頭と、四功のアニキたちに伝えろ」
「はい、すぐに」
義丸は急ぎ、見張り台を降りて水軍館へ急いだ。
海鳥が煩く鳴いている。今日こそ自分が死ぬ日かもしれない、と思うと体が武者震いに震えた。
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