トウメイ希望
2025-03-01 19:20:34
8996文字
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ミニ・マウイ、家出する

ノリと勢いで書いたマウモア。ミニ・マウイがモアナに家出する話。わちゃわちゃするマウモアをモニロトケレが遠巻きに見守っています。
付き合っていないのでバディものとして読めなくもない……と言いたいところだけど、無理があるかもしれない。
メタネタ、ご都合主義、キャラ崩壊、下ネタ、何でもあり。終始ラッキースケベ気味なので苦手な方はご注意を。
なんでも笑って許せる方のみお読みください。

 いつの間にか、ちっこいのが姿を消していた。おおかた先の小競り合いのせいだろう。
 一体どこに隠れているのか、いくら呼んでも出てこない。
「まったく、マジメに取るなよ……ちょっとした冗談だろ?」
 などとおどけてみても返事はない。おおかた背中か尻でむくれているのだろう、と当たりをつけ、いつもより乱暴に仰向けに寝っ転がってみたり、多めに座ってみたりとあぶりだそうとしたが、反応すらない。

 つまんないもんだな、とモトゥヌイを散策していると、見覚えのある背中を見つけた。モアナだ。視線を下方に向け、子供を諭すようにしゃべりかけている。ちょうど木の陰になっていて、話し相手は見えない。

「そうだったの……だけど、場所だけでも伝えてあげたら? おうちでも心配しているわよ、きっと」
「なんだ、シメアが家出でもしたのか?」
「あ。マウイ」

 ひょいと木陰をのぞきこんでみたが、予想外に話し相手は見当たらない。
「何一人でぶつくさ話してたんだ?」
「うぅん……ちょうどいいところなのか、悪いところなのか……これはどっちかしらね」

 モアナはしばしの間逡巡していたが、
「まぁ、やっぱり知らせておいた方がいいか。
 見て、マウイ」
 と、不意に服をたくし上げ、ヘソを露出させた。
 
 モトゥヌイに悲鳴が響き渡った。

 キャーーーーーーーッ! と、鶏もかくやというほど甲高く絶叫すると、モアナの服をひっつかんで下ろす。
「な、なな、何やってんだお前! そういうことは好きな子とするもんだろ!?」
 今度はモアナが悲鳴を上げる番だった。
「マウイ! 下げすぎ、下げすぎ! 見えちゃうから!」
 と胸元を抑え、もう片方の手でべしべしとマウイの手をはたいたものの、「見てない! 俺はまだ何も見てないぞ!」当のマウイはフクロウもかくやというほど首をそらし、モアナが既にすそから手を放していることにも気づかない。
「いくらなんでも気安すぎるだろ! お前、俺が女にでも見えてんのか!?」
「そんなわけないでしょう!?」
 筋骨たくましいマウイを女人と見紛うのはさすがに無理がある。筋力には自信があるモアナだが、力いっぱい引っぱたいても揺らぎもしない。こんな女性がいてたまるか。
「そりゃあ、さすがに2980~4980歳年上(注:諸説あります)の俺を男として意識しろなんつう図々しいことは言わないが、もっと自分を大事にだな……ん?」

 激しく動転していたマウイだが、ふと、モアナの手よりも小さな何かに親指を弾かれていることに気づく。
 おそるおそるモアナの服を(ごく最低限)たくしあげ、のぞきこむ。すそを引くうちに触れてしまっていた薄い腹から、親指を横に滑らせる。
 露になったヘソの上に、やけに見慣れた姿があった。

……そこで何してんだよ、ちっこいの」

 問いかけると、小さなの相棒は大いにご立腹の様子でマウイの親指を蹴っ飛ばした。イテッと手をひっこめると、モアナの服がもとに戻り、素肌が隠れる。
 胸元を正したモアナは、ほっと安堵の息をつき、改めて服をたくし上げた。普段はマウイと共にいる小さな相棒が、なぜか今はモアナのヘソ上に居座っている。

「家出ですって。……あなた達、今度はどうして喧嘩したの?」

 モアナが呆れたような声を出した。


・~・~・~・~・~・~


 きっかけは、ささいなことだった。
 モトゥヌイは気風の良い島だった。人里まで降り立ったのは久しぶりだが、名高い半神マウイのお出ましに目を丸くされるのも、ちょろちょろと突っかかってくる小さなシメアをからかうのも、くるくるとよく働くモアナを見ているのも、なかなかに面白い。
 モアナの父トゥイはまだまだ元気とはいえ、彼女もまた次期村長として島民に気を配っていた。樹皮布を叩く女たちを見てはその出来を褒め、畑を見に行っては農夫たちに声をかけ、浜に出ては漁師を労っている。方針を尋ねられれば、一緒に改善策を考えもする。
「巻き毛ちゃんのやつ、なかなか様になってるじゃないか」
 と、少し遠くでしたり顔をしていたが、やがて首を傾げた。
「だが……やけに寄ってくる男たちのテンションが高くないか?」
 どう思うちっこいの、と意見を求めれば、相棒よりも早く、予期せぬ相手の声がした。

「モアナはモテるよー。明るいし、美人だし、誰にでも分け隔てないし」
 いつの間にかにじり寄っていたモニを、鼻で笑い飛ばす。
「ㇵッ! あいつが? まだお子様だろ?」
「長生きのマウイにはそうかもしれないけど、19じゃ、僕らにとってはとっくに成人だよー」
「俺が言ってるのは精神面だ。あいつ多分、男女の区別もついてないぞ。それどころか、ベーコン・エッグと同列に見えてる可能性もある」
「あはは、まさかぁ。さすがにそんなことは……
 

 と、唐突に悲鳴が聞こえて、二人の視線を集めた。見ると、今まさに入れ墨を入れられている男が、痛みに叫びながらモアナの手を握りしめている。
「ひぃ、いだだだ……! ウーーっ!」 
「大丈夫……よく頑張っているわ」
「モアナ! ……もう終わりそう?」
「ええーーっと……あと……少し、かな」
 と、モアナは気もそぞろにファレから伸びる影を見た。日時計を確認したらしい。
「じゃあ、私はそろそろ……
「待って、終わるまで行かないで!」
 立ち上がりかけたモアナを青年が制止する。モアナは少し困惑した後、
……分かったわ。ずっといてあげるから」
 こっそりと溜息をついて座りなおした。青年の手を握ってやったまま。


……確かに、分け隔てないな」
 皮肉がこぼれた。
「あれじゃあ、勘違いする男も出てくるよねー。もしかして僕に気がある? って思うと、とたんに可愛く見えちゃうことってあるしー」
…………
 そういやこいつはどうなんだろう。船旅を見る限り、モアナは彼にも分け隔てなく接していたようだが。とモニを見ると、頬にキスでもされんじゃないかというほど至近距離にいた。
 そういやこいつはこうだった、と、瞳をキラキラさせてさらににじり寄ってくるモニの鼻を押し返しながら、続ける。

「まぁ、確かに、巻き毛ちゃんは無謀に明るいな。目鼻立ちもまあ、流行ウケする配置だと言えなくもない」
「すっごく回りくどいね!」
「だが、仮に男の方がその気になっても、だ。モアナについて来れるやつがどこにいる?
 あいつは洞窟に閉じ込めても這い上ってくるし、海に放り投げても舞い戻ってくるし、小便ひっかけても食らいついてくる跳ねっ返りだぞ」
「わあ、君たちって思ってた以上に上級者向けなことしてたんだね!」
 オシッコのことはさすがに初耳! と言う声は聞き流した。胸元の相棒から引っぱたかれて、そちらに気が持っていかれたからだ。

「おい、なんだよ! ……もっと素直に褒めろって? ハン、嫌だね。俺は褒められるのは好きだが、褒めるのは嫌いだ! ケツがかゆくなっちまうからな。
 さっきの言葉を伝わるように言い直せ? ああ、分かったよ!」
 マウイは唇を舐めると、目をつぶってつらつらと言い始めた。
「無謀な明るさは後先考えもせずにあいつを突っ走らせるし、分別なく愛想を振りまくから無駄に野郎どもを勘違いさせるし、そのくせ心はまだお子様で、ベーコン・エッグと野郎の区別もついてないと来てるから余計タチが悪──」
 ビタンビタン! と地団太を踏む相棒も無視してなおも言い連ねていると、

「マウイ! ああ、来てたなら言ってくれれば良かったのに!」
 やわらかな衝突に思わず目を開ければ、モアナが抱き着いていた。
「あら、モニも。二人一緒なんて珍しいわね。なんの話をしていたの?」
 飛びついた拍子にモアナの服がずり上がり、むき出しの腹がマウイの胸にくっついているが、本人は一切気にする様子もなく、モニに笑顔を向けている。なんの恥じらいも気後れも無く、清々しいまでに無垢で屈託のない笑顔だった。
 首からぶら下がるモアナを指差し、憮然とした顔でモニを見る。
……見ろ、ベーコン・エッグと一緒だろ」
 さすがのモニも気まずそうに目をそらした。モアナだけが何も気づかずに、高揚したまま話し続ける。
「ベーコン? そうだ、おいしい豚肉があるのよ! 食べながら話でも……プア? やだ、そこにいたの? ああ、ごめんね、ええっと、そういう意味じゃなくって……
 モアナはマウイから降りると、今度は豚を抱き上げた。


~・~・~・~・~・~

 
 ……という事の顛末を話す気にはなれず、マウイは腕を組んで黙り込んだ。
 小さな相棒は、モアナのヘソの上に陣取っていた。
(そりゃあ、俺の体に住むより、よっぽど居心地がいいだろうよ)
 と、マウイは内心で毒づいた。
 モアナの短い胴体は釣り針のように深くくびれ、くびれた最低部のところにスッキリと縦長のヘソがある。引き締まった腹筋の上には薄付きの、だが柔らかそうな脂肪が乗っていて、ただ細いだけの子供と違って彼女の肉体が十分に成熟している様子を現わしていた。それでいて肌は娘らしいすべすべとした張りがあり、モアナが呼吸をするたびに蠱惑的に上下して、ぴんとはじけてしまいそうな若さと美しさがあふれている。……相棒を見ようとするとモアナの腹もついでに見えてしまうだけであって、助平心でジロジロと見ているわけではない、決して。

「いくら喧嘩したって、あなた達は二人で一つだし。
 この子を返したいのは山々だけど、私じゃ触れあないみたいなのよね……
 モアナは小さなマウイをつまもうとしたが、その指はわずかに皮膚をつまむばかりで、彼がひっぱられる様子はない。マウイと違って物理的に動かすことはできないようだ。
「当たり前だろ。巻き毛ちゃんが触って動かせるなら、今頃俺の刺青はぐしゃぐしゃになっちまう」
「それもそうね。
 それにしても、いつのまに私に乗り移ったのかしら……
(おおかた、抱き着かれた時だろうな。モアナの腹、俺の胸にひっついてたし)
 とは言えずに黙り込んでみたが、モアナはそれ以上深く考えなかったらしい。

「それで本当に、なにがあったのよ?
 あなた達が喧嘩していると、私も気になるわ」
 純然たる善意で心配してくれているようだが、説明できるわけもなく。
……巻き毛ちゃんには関係ない」
 仏頂面で突き放した。

 モアナは面白くなさそうに唇をとがらせると、
「ふぅん? じゃ、いいわよ。こっちのあなたに教えてもらうから。
 ねえ、マウイと何があったの?」
 と、自分の腹に向かって話しかける。
 焦ったものの、もう遅い。なんとも素直な相棒は、身振り手振りで仔細に説明し始めた。

「へえ、マウイったら、私を悪く言ったの? 19にもなって年頃の娘としての自覚が足りてないって? あら、いつまでもお子様扱いしてくるから、てっきりまだ8才に見えてるんだと思ってたわ!」
「おい、やめろ」
「しかも、ヘンにひねくれた言い方をしたって? 分かるわー、マウイってそういうとこあるわよねー。あなたもそう思う? ……本当は余計なトラブルに巻き込まれやしないかって心配しているだけなのにって? えー、私なら大丈夫よ、けっこう図太いし……え、なに? 誰よりも勇敢でまっすぐでかわいいのは美点だけど、その分人の邪な思いに気づきにくいから、いつか心無い誰かに傷つけられるんじゃないかと見ててヒヤヒヤするって……え、うそ、そんなことまで思ってくれてたの!?」
「やめろって言ってるだろ!」

 最悪だ。普段ならば脇の下に挟み込んで黙らせるところだが、モアナの腹に陣取られてしまえば、下手に手出しもできない。結局どうにもできないままわあわあと騒ぎ立てるのが精一杯だ。
 反対にモアナは上機嫌で、自分の腹をなでた。小さく素直な相棒は心地よさそうに目を細めている。物理的に動かされることはなくとも、モアナの指に甘えているらしい。

「やだ、かーわいー! それで、それで?」
「おい、もういいだろ! いい加減に返せよ!」
「あら、いいじゃない。こっちにいてくれた方が、余計な喧嘩も防げそうだわ。
 あなただって、素直じゃないマウイにいじめられるより、私といるほうが楽しいわよねー?」
 いっそ、本当にうちの子になっちゃう? と満面の笑みでちっこいのに話しかける。嬉しそうにモアナを見上げる相棒を見て、マウイは冷ややかに忠告した。

「言っておくが、そいつはお前の本音も洗いざらいぶちまけるぞ」
 
 きょとん、とモアナは目を丸くした後、鼻で笑い飛ばした。
「えー? いいわよ、べつに。私、マウイと違ってひねくれてないもーん」
「ほほーう……
 ねー、と腹に同意を求めるモアナを見下ろしながら、マウイは含みのある笑みを浮かべた。
 恐ろしき相棒はそうだそうだと言わんばかりにまくし立てはじめた。身振り手振りで。
「ふぅん、なになに……モアナは俺と違って、まっすぐ好意を伝えてるって?」
「うっ……その通りよ」
 
 モアナが一瞬言葉に詰まる。改めて言われると気恥ずかしいらしい。だがそんな様子に入れ墨の相棒は気づくこともなく、熱く語り続ける。
 マウイは片眉を上げながら屈み込み、モアナの腹をのぞきこんだ。

「それで? おまけに努力家で、会えない三年間も俺に恥ずかしくないように船の練習を怠らなかったって? だけど本当は会いたくって寂しくって、俺の絵に向かってこっそり話しかけてた? その絵に影が差した時なんか、俺が来てくれたと勘違いして、喜びのあまり飛びつこうとしたぐらい健気で……へえ、なかなかいじらしいじゃないか」
「ちょ、ちょっと! なんでそんなことまで知ってるの!?」
「当たり前だろ。今やそいつはお前と一心同体なんだから」
 ちらりと見上げてからかうと、焼きガニのように真っ赤な顔と目が合った。
「待って待って、それ以上教えちゃ駄目!」
 モアナは声にならない悲鳴を上げ、マウイの目をふさごうとしてくる。服を下ろせば刺青が隠れることにさえ気づけないあたり、よほど動転しているらしい。教えてやるつもりもないので、ぺしぺしと押し付けられる手を小指一本で軽くいなしながら、正直な相棒をうながす。

「まあそう言うなよ。まだまだ語り足りないだろ、相棒?
 ふぅん……モアナに決まった相手がいないのだって、男からの誘いをことごとく断ってたからだって? なんでだよ、巻き毛ちゃんだって花盛りの娘だ、大いに楽しめばいいじゃあないか。……ほう! 年頃の男の子と遊ぶよりも、海に出て俺との旅を思い出す時間の方が大切だったから!?」
「あー! わああぁーー!」
 
 モアナはついにマウイの小指を握りしめると、ぐいと大きな手のひらごと自分の腹に押し付けた。ぺちん! と音を立て、小さな相棒が隠される。
 モアナは耳まで真っ赤に染め上げながら、精一杯首をそらして、蚊の鳴くような声でつぶやいた。
……やっぱりこの子、あなたと一緒にいたほうがいいみたい……



「うわ」
 偶然通りがかったケレは、思わず声を上げた。マウイ達に声をかける勇気までは出ず、かといって通り過ぎることもできず、遠巻きに視線を送りながら、なぜか満面の笑みで二人を描いているモニに問いかける。
……あいつは、なんでモアナの腹に手を当てている?」
 ついに身籠らせたか? と怪訝な顔をするケレに、モニが元気よく答えた。
「タトゥーのマウイが、モアナのおなかに家出しちゃったんだって」
「なんだって?」
「タトゥーのマウイが、モアナのおなかに家出しちゃったんだって」
「はぁ……
 二回聞いても意味が分からない。そもそもあのタトゥー、マウイの外に出られたのかとか、どうすればモアナの腹に移動できるんだとか、なんでモアナはあんなに照れてるんだとか、色々聞きたいことはあったがとりあえず、
「で、刺青の家出が、どうすればその”懐妊を喜ぶ男女の図”になるんだ?」
 と、モニの絵を指さした。今の二人を描いたらしいが、そのようにしか見えない。
「なんか、モアナには刺青を動かせないから、刺青を返したければマウイの手で取ってもらうしかないみたいだよ」
「ふぅん……
 全く腑に落ちないが、とりあえず見なかったことにしてやろう。肩をすくめて立ち去ろうとした時、破裂するようにモアナの笑い声が響き渡った。



「あっはははははは! ちょ、ちょっと、なにこれ、っふふ、くすぐったいって!」
 悲鳴にも似た大爆笑を上げながら、べしべしとマウイの手を引っぱたく。その下から、刺青のマウイがほうぼうの体で這い出てきた。
 普段は本体以上に紳士的な彼だが、今は主人の手から逃れるのに必死でモアナを気づかう余裕が無いらしい。無理やり連れ戻されてはたまらないとばかりに、モアナの腹面をよじのぼり始めた。
 焦ったのはマウイの方だ。
「待て待て待てちっこいの、お前どこに隠れるつもりだ!?」
 モアナは笑うのに忙しくて気づいていないが、小さな相棒はとんでもない場所に逃げ込もうとしている。つまり、ただでさえ面積を狭めている服の下に。
「やめろォ! それ以上見るな!」
 俺だってまだ見てないのに! と、絶叫にも近い声を上げながら、小さな相棒の暴走を止めようとする。だがいくらマウイといえども、タトゥーを止めるには物理的につまみあげるしかない。
 つまりそれは、モアナの体を直接撫でまわすことになるわけで。
「きゃっ!? ま、マウイ! ちょっとまって、いくらあなたが相手でも、こういうのはちゃんと順序を踏んでから……ひゃっ!? ほ、ほんとにそれ以上うえは駄目! ……し、したはもっと、だめぇぇーッ!」



「うわ」
 偶然通りかかった第二弾のロトは、思わず声を上げた。さしもの彼女もマウイ達に声をかけるほど無神経ではなく、かといって通り過ぎることもできず、あきれ顔でマウイ達を眺めているケレに問いかける。
「手籠めにでもされてるのかと思った。どういう状況、アレ」
「モアナに家出したタトゥーが暴れているんだと」
「え、なんて?」
「モアナに家出したタトゥーが暴れているんだと」
「へぇ……そうなんだ」
 天才のロトでも、何が「そう」なのかはいまいち理解できなかったが。
 笑い転げたモアナはもはや立っていられないらしく、転がってじたばたともがいているようだ。ようだ、というのは、その上に巨大な半神がすっぽりと覆いかぶさって、モアナがほとんど隠れてしまっているからだ。半神の脇の下あたりからモアナの手足が見え隠れするときもあり、そのおかげでかろうじて組みしかれていることが分かる。さすがに脱がせてまではいないはずだが、パレオも激しくめくれあがっているだろう、時折見える足はむき出しの素肌だ。顔は当然見えないが、きゃんきゃんという喚き声は間違いなくモアナのものである。

「で、モニは何描いてるの? ……うわ」
 何気なくモニの手元を覗き込むと、そこに描かれていたのは、
「なにこれ、春画?」
「もちろん、あの二人さ!」
 特徴をとらえつつもうまく簡略化されたその絵は、たしかに今の二人を描いたものなのだろうが、事案にしか見えない。描いている本人はそのことに気づいていない様子で、嬉々としてバリバリと描きなぐり続けている。
「すごいよ、インスピレーションが無限に湧いてくる! あの二人を見ているだけでどんどん筆が進む!」
……で、どうするつもり、その絵」
「もちろん、皆に見せるよ! 二人が最高のベスティーってこと、モトゥヌイの子供たちにも知ってもらわなきゃね!」
「え、性教育でもすんの?」
 と、ロトがこぼした瞬間。
 バチィ! という破裂音もかくやという音をたて、モニの持つ春画にどデカい穴が開く。穴からは釣り針が突き出し、ひゅ、とモニの目前で鮮やかに回旋して、樹皮布を絡めとっていった。
 何が起きたのかと瞬きをするモニを、神をも射殺しかねない目が睨みつけている。マウイが釣り針を投げて、例の絵を回収していったらしい。
 はらり、と、モニの眉毛が数本落ちる。時が止まること、数瞬。

 マウイはハッとした目でモアナ(こちらからは見えない)を見下ろすと、
「おいおいおい、そこだけはマジでシャレにならない──」
「ふぁっ!? やっ……マウイ、わたしほんと、まだ心の準備が──まずはお父さんとお母さんに紹介してから──」

 再び焦ったように取っ組み合う二人を見て、モニの目に徐々に光が戻る。
「マウイぃー……すっっっごいもの、見ちゃった……
 マウイ! マウイ! マウイ! ほんとカッコいいーッ!」
 イッツソーアメジーング! と大はしゃぎするモニに、ケレがげんなりと呟く。
……あれを食らってもめげないのか……お前には感心するよ」
「え、だってまさしく神業だよ! さっきの、ケレも見たでしょ!?」
 と、眉毛の一部ハゲたモニが、目をキラキラさせてまくしたてる。
「この距離であのコントロール力! 僕に当てなかったのもすごいけど、樹皮布だってちゃんと余白のところを突き刺して、絵を壊さないようにしていったんだよ!」
 しゅごい……まるで透視能力でもあるみたい……とうっとり呟く。

……で、その後生大事に回収していった春画をどうするんだろうね、あの神様」
 純粋なる疑問をぶつけるロトに、男性歴ン十年のケレは
「そりゃあ、自分で」
 使うんだろ、と言いかけて、ロトもまた年若い娘であることを思いだし、「……処理するんだろ」言い直したが、これも大して意味は変わらんなとひやりとする。なかなか最低である。
「ふぅん? だったら最初から絵を破いちゃえばいいのに、まだるっこしいことするね」
 幸いロトには伝わらなかったようで、ほっと溜息を。何はともあれ──と、風と海の半神を見やり、皮肉気に口の端を歪ませた。

……まだまだ”若い”な、3000歳」