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黒竹
2025-03-01 18:32:02
7663文字
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少女☆歌劇レヴュースタァライト
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花を奏でるひとつの玩具
C96発行ふたかお合同誌『ひだまりにさくらめくふたりで』に寄稿した短編
星見純那が己の性格を言い表す時、いの一番に出てくるのが「生真面目」である。俳優育成科における三大悲劇のひとつであるなどと自分で言うくらいなので、それはもう筋金入りだ。ルールは守るべきだし風紀を乱してはいけない。乱れるのは大場ななの寝相と神楽ひかりのクローゼットだけで十分である。いや本心を言えばそこももう少しなんとかならないかと思ってはいるが、できるだけ彼女たちの自主性を尊重したい純那だ。後者については露崎まひるの頑張りにも期待している。
しかしながら、寮の共有スペースにやって来た純那が見出したものは、そのどちらでもないのに乱れていた。乱れているというか、荒んでいると言ったほうが正しいかもしれない。エンジェルリングがくっきり浮かんだ天色の髪とは対照的な、じっとりと濁った目でどこをともなく見ている。彼女はただ一定のリズムで息を吸ったり吐いたりしているだけだったが、発せられているオーラは驚きの澱みっぷりである。
荒んでいる彼女は口ずさんでいる。使われているのは喉ではなくガラスのおもちゃだ。
ぽぺん、ぺぽん、と、彼女が咥えている細長い筒に息を吹き込むと、その先の半円になった空洞の底が乾いた音を立てる。音はきれいだがそれを生み出している空気は平穏ではない。
ソファに怠惰な姿勢で寝そべり、ぽぺんと手元で鳴らす姿は、近寄りがたいと同時にどこか頼りない。
軽く眉を上げる。不穏な光景に遭遇したわりには、純那の心は凪のように静かだった。喜怒哀楽のどれも浮かばず、まっ平らな心で、またか、と思うだけである。両手で胸に抱えていたテキストとノート、それから筆記用具の入った愛用のペンケースを持ち上げ直して空いている椅子に腰かける。
テキストを広げ、シャープペンシルの芯を繰り出したところで、ぽぺんと左斜め前で音がはじけた。顔を上げる。「びいどろ、だっけ。それ」クラスメイトの口に咥えられているおもちゃを見ながら言う。艷やかな唇をガラスから離した花柳香子が、つまらなそうな視線を純那に向けてくる。「そういう目で人を見るの、良くないわよ」学級委員長として、また友人として忠告するが、香子の視線は変化しなかった。「まったく」思わず口をついて出たのは呆れ声だった。
「子どもみたいに拗ねないの」
「拗ねとらんもん」
「今日は石動さんがどうしたの?」
びいどろが強く、ぱきんと鳴った。
「なんで双葉はんが出てくるん」
「花柳さんの機嫌が悪いからに決まってるでしょう。あなたが怒る相手なんて石動さんくらいじゃない」
純那はそれほど深く考えてはいなかったが、その言葉通り、花柳香子の興味の範囲は狭い。上機嫌になるケースはそれなりに見られるのだが、逆のパターンの原因はほぼ石動双葉と言っても良い。別に双葉が無神経だとか言動に問題があるとかいう話ではない。ただただ、香子が心を動かすほど興味のある相手が彼女くらいしかいないということである。
びいどろに息を吹き込んでも、底のごく薄い部分しか音は鳴らない。そういう光景に似ている。
いつまでも人見知りしているのもどうかと思うが、香子も、そして双葉もそれで不満はなさそうなので、あまり深くは立ち入らない純那だった。
だからさっきの質問も、半ばおせっかい、半ば興味本位だ。近くでぽぺんぺぽんと鳴らされていると気が散るというのもある。
「モーターショー、とかいうのに行かはったわ」
「ああ、そういうの好きそうよね」
なるほど、香子がここにいるわけである。双葉の方は自分でメンテナンスをするくらいバイクに愛着をいだいているが、他方の彼女は学校まで運んでくれる便利な乗り物といった程度の認識でしかない。大した興味を示さなかったから双葉は一人で出かけたのだろう。
置いていかれて不機嫌になるくらいなら興味がなくても一緒に行けばいいのに、と思うが、口にはしない純那だ。
ソファに寝転がっている香子の脚は人形じみて白い。
「で、星見はんはなにしに来はったん? 勉強なら部屋でしたらええんちゃうの?」
「ななが舞台創造科の子たちと電話で相談しながら脚本を書いてるの。邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「はい?」
香子がきょとんとした目で見つめてきたので、純那はそれを真っ向から受け止めながら「なに?」と尋ねた。
「邪魔って、自分の机で勉強するだけやろ?」
「そうだけど、ほら、集中してる時ってちょっとした音とか気配だけでも気になったりするじゃない。私もななには良いもの書いてほしいし、これくらいは協力するわよ」
朗らかに笑う純那とは対照的に、香子は眉根同士が絡まりそうなくらい寄せて、何一つ理解できないと表情で物語った。
純那は純那で、己にとって当たり前の話しかしていないので、香子がどれほど理解できていないのか読み取ることができず、もう説明は済んだと勝手に会話を切り上げてテキストに向き直った。
「まあ、喧嘩もほどほどにね」
痴話と頭につけなかったのは星見純那の気配りである。
香子は無言だったが、余計なお世話だと抗議するように、ぽぺぽぺぺぽっとびいどろが鳴り響いた。
石動双葉がモーターショーから帰宅し、寮の生徒たちが揃って夕食をとり、各々入浴したりリビングでテレビを見たり予習復習をしたり思い思いにすごす中、花柳香子はベッドに膝立ちになり、クッションを振り回して暴れていた。
「あーもーほんまに! ほんまに腹立たしいわ! 人だけで飽き足らんと機械にまで!」
ばふばふとクッションが双葉の後頭部を往復する。双葉は何度となく襲い来るクッションを避けるでもなく、もらってきたカタログを眺めたりなどしつつ幼い暴力を甘んじて受けている。その合間、気づかれないようにはあと小さくため息をついた。
「この浮気もんー!」
実に心外な言い草だった。人にも機械にも浮気をした覚えなどない。後方白刃取りの要領でクッションを受け止め、そのまま奪い取ってベッドに放った。武器を奪われた香子は徒手空拳で双葉の首にチョークスリーパーを決めてくる。細腕が首に巻きついて、興奮のせいかやや熱を持った吐息が耳にかかった。「大声出すなよ。近所迷惑だろ」香子の両手首を掴み、力尽くではずさせる。
「誰かと一緒にいても怒るし一人で出かけても怒るし、なんなんだよ。どうしたらいいんだ、あたしは」
「うちとおったらええやろ」
「そんなこと言ったって、興味ないとお前来ないだろ。今日みたいに」
それで一人出かけるのが香子の最大の逆鱗であることにも気づかず、双葉はそんなわがままには付き合ってられないと目線で断じる。ぐうう、と香子の喉から奇妙な声がせり上がって、しかしそれを表には出したくないから歯を食いしばってこらえる。
確かに石動双葉は花柳香子を、彼女とともにある時間を大切にしているけれど、それは自分自身を彼女に捧げることを意味しない。
捧げられたらきっともっと楽なのだけれど、そうするには石動双葉は利己的にすぎたし、花柳香子は聡明にすぎた。
愚直になれないからこそ、柔らかいクッションで後頭部を打つことくらいしかできないのだ。もっと愚かならきっと双葉の首を撥ねられた。
銀の皿に乗せられた首へ口づけて、それで満足できるほど、花柳香子は純真ではない。
首の代わりに上掛けで済まされた利己的な努力家は、許されたことに感謝もなく、彼女の狭い視野だけを判じて笑う。それはいびつな安心感だ。
「なにも変わらないんだから、怒るなよ」
どこにいても何をしていても石動双葉の生きる意味は変化しないし、花柳香子の天下のままだし、二人の進む道に戦火はない。
戦争をするには三人いれば充分だと言われるが、二人だけなら起こるのはせいぜい喧嘩程度のものである。ただの喧嘩なら、どうするべきか石動双葉は心得ている。
やり場をなくした香子の腕を引き、寄ってきた頬をするりと撫でる。
「だいたい、あたしがいつ浮気したってんだよ」
「うちに隠れてクロはんと秘密特訓しとったやろ」
「だからあれは」
お前の隣に居続けるためだ、と言いかけたがさすがに面映ゆくなって口を閉ざす。表情を見る限り、伝えたい相手には通じたようなのでごまかしもしない。
香子の腕が双葉の首筋に回る。甘えているというよりは、逃げられないための拘束の意味合いが強い。
鼻先が触れるほどの、慣れ親しんだ至近距離。ごく間近で視線が絡む。
「他にもあるわ。ばななはんの料理手伝ったり、まひるはんと掃除中に仲良う喋ってたり、こないだなんて華恋はんにノート見せてやったやろ。うちには見せてくれんかったくせに」
「判定基準が厳しすぎる
……
」
半ば無意識に、双葉の口から愚痴っぽい独り言が洩れた。
同じ寮で暮らしているのだから、見かけたら手伝うのは当たり前だし、クラスメイトと雑談くらいする。
「星見も一緒にばななを手伝ってたし、掃除の時はまひるの手際がいいからやり方を教えてもらってたんだ。華恋は宿題ちゃんとやってきて、提出前に答え合わせしたいって言うから見せたんだよ。お前は最初からやらずにあたしのノートあてにしてただろ」
石動双葉は花柳香子に甘いが、けして甘やかしすぎはしない。逃避癖のある幼なじみを一人前にするため、彼女の益にならないと思えば心を鬼にして厳しい態度を取るのだが、当の香子はそれが気に入らないらしい。
「知らん」
「あのなあ」
「双葉はんの阿呆。こんな浮気もんもう知りまへん」
頬をふくらませてふいと顔を背ける香子はもう幼馴染の顔をしていなかった。こうなると双葉は弱い。ただでさえ弱いのにさらに弱くなる。
弱みが増える、とも言える。
惚れ込んでいる自覚はあるのだ、いろいろな意味で。
はあーと深く嘆息。横目で行われる観測。それに気づいていながら石動双葉は反則をする。
急襲のように香子を抱きすくめて押し倒す。「悪かった」の一言を待っていた香子は不意をつかれて硬直した。なすすべもない。抵抗のての字もなく、元来持ち合わせていた威光すら失われる。
目を瞠る香子の視線の先には、逆光の中で硬質にきらめく瞳がある。わずかな光でも色とりどりにきらめく、割れたガラスの破片に似た眼。
「最近気づいたんだけど」
「なん
……
」
至近距離で震える声が可愛らしくて、双葉は不謹慎にも笑いそうになった。
「香子ってさ、どんだけ怒っててもあたしに嫌いって言ったことないよな」
どこまで記憶をたどっても、彼女の口から己に対してその言葉が発せられた景色が出てこない。幼いころなら本心でなくともつい口を出てしまってもおかしくないのに、ただの一度も、香子から言われたことがない。
怒ってきたことも、揶揄してきたことも、なんだったら見下してきたことだって何度もある。それなのに、その一言だけが、ない。
香子は言われたことの意味が分からない、という表情で眉を寄せていたが、自分でも心当たりがなかったのか、次第に表情から険が抜けて、代わりに羞恥が目元のあたりに現れた。
「そ、それがどないしたんっ? そんなんたまたまや! 双葉はんのくせに、そんなんでうちに勝ったような気ぃにならんといてっ」
「勝ち負けの話なんかしてないだろ」
的はずれな言い返し方に双葉は思わず苦笑して、なだめるように香子の髪を撫でながら頬を緩めた。
「そういうとこ、可愛いなって言ってるんだよ」
たぶんそう感じるのは石動双葉が持っている弱さのせいで、けれどその弱さは失くさなくていいと思っている。
そして今、茹で上げられたように首から上を赤く染めている花柳香子も、同じ弱さをいつしか得ていた。
見上げてくる双眸はわずかに潤んでおり、唇はこまかく震えている。
「な、な、ななななな」
「ばななだったら多分自分の部屋じゃないか?」
「ちゃうわ! な、なんやいきなり! そないなこと、今まで言うたことなかったくせに!」
「ん? 言ったことなかったっけ」
そうだったろうか? そうかもしれない。立てば芍薬座れば牡丹などともてはやされてきた彼女を、そのとおり美しいとは昔から思っていたが、可愛らしいと感じるようになったのは最近のことだ。
それは別に言えない言葉じゃない。
「なんだ。こんなに照れるんだったらもっと言っておけばよかったな」
赤絵の具を塗りたくったような耳をつまみ、その姿もまた可愛らしいと笑う。香子は悪あがきのように顔をしかめて、ベチベチと双葉の顔を叩いてきた。
「阿呆! 性悪! 卑怯もんー!」
この期に及んでも「嫌い」と言えない彼女はある意味で素直だ。
爪で引っかかれたら危ないので、タイミングを見計らってやめさせる。
掴んだ手に唇を寄せて、指先に触れると、花がしおれるようにおとなしくなった。
「静かに」
びいどろは息を吹き込むと底に薄く張ったガラスがたわんで音を出す。吹き込みが強すぎれば割れてしまうし、弱すぎては音が鳴らない。その匙加減が面白味のひとつでもある。そしてガラス製なので、おもちゃだからと乱雑に扱えばすぐに割れて壊れてしまう。
音が鳴るだけの単純なおもちゃは、それゆえに美しくて繊細である。
小さなひびがたったひとつ入ってしまっただけで台無しになる、子どものための弱いもの。
石動双葉はびいどろを美しいと思う。
ふ、と、香子の口の端から吐息が洩れた。
「
……
変なとこさわらんといて」
「さわってねーよ」
「さわっとるやろ」
「お前の身体に変なところなんてないだろ」
すべらかで透き通ったガラスの筒をそっと撫でれば、ひやりとした表面は触れた先から熱を伝う。
「お前は、頭のてっぺんから足の先まで、あたしが毎日きれいにしてるんだから」
唇を当てて、ふさわしい強さで息を吹けば、熱にうかされたびいどろは聴いたこともないような美しい音で鳴った。
いつもより早く目が覚めた。カーテン越しの外はまだ薄暗い。朝焼けに夜の薄膜が一枚か二枚かかっている、そんな空。薄明の中、部屋の明かりをつけるほどでもない。双葉はそっとベッドを抜ける。身体に残る気だるさは心地よくて、それから少しきまりが悪い。毛布の内側で幼馴染が穏やかな寝息を立てている。寝顔をしばらく眺めてから、夜の名残りを払うように前髪を撫でた。
キッチンでお湯を沸かし、その間に紅茶缶を取り出す。西條クロディーヌがフランス土産に買ってきてくれたものだ。鮮やかなターコイズブルーのパッケージが美しい、有名なブランドのロイヤルブレンドだが石動双葉はそれについての知識を有さない。大場ななが作ってくれるマフィンによく合うことは知っている。そのブランドがイギリスを本拠地としているということよりよほど重要である。
ティーポットに目分量で茶葉を入れ、沸騰直後のお湯をそそぐ。抹茶の点て方は知っていても紅茶のおいしい淹れ方は知らない。知らなくても誰に怒られるわけでもないし、自分ひとりで飲むだけだから構うまい。
カップに紅茶をそそごうとしたところで、背後から何か柔らかいものに包まれた。寝起きのためか少し熱を帯びている身体。紅茶の香りに混じって甘い匂いが双葉の鼻先で揺れる。
軽く振り返り、深い紺碧の髪を視界に入れて、擦り寄せてくる頬を受け止めた。
「悪い、起こしたか?」
「んー
……
」
双葉にはりついたまま、もごもごと口の中だけでなにかを呟く香子。「なんだよ?」文句でもあるのかと、訝るように眉を上げながら双葉が促す。
「また勝手なことしよる」
「ちょっと喉乾いたんだよ。二度寝には中途半端な時間だし、お前も飲むか? 目ぇ覚めるぞ」
「
……
飲む。飲むけど、うちが言うとるのはそういうこととちゃう」
「んー?」
熱っぽい身体と、尖らせた唇と、拗ねた口調。
夜の残滓。
ぽぺん。
香子の指が、いじけた手つきで双葉の頬を挟んだ。
「毎朝、目ぇ覚めて最初に見るんがあんたの顔やないと、いやや」
当たり前に繰り返される毎日。
その始まりの景色にいつだっていなければならないのだから勝手に離れるなと、拗ねた子どもは覇者の命令じみて言う。
糖蜜でくるんだ果物を口いっぱいに押し込まれた気分だった。甘い甘い甘い、どこまでいっても甘さしかないむせ返るような愛情。それは何年もかけて石動双葉の身体にも染み込んでいる。
明らかに増長している愛情を、持て余しもせず許しているのは双葉の方だ。
「まったく、しかたねえなあ」
離そうとしない腕にそっと手を添えて、呆れたポーズでそう応える。
花柳香子は王のためには踊らない。銀の皿に首の乗らない石動双葉は、だから預言者にはなれない。
先の先のその先に、何があるかを語りはしない。
できるのは。
「お前との約束が増えてくばっかりだよ」
それは約束で、束縛で、時々苦しくなって、けれど愛くるしくて、指切りを交わすたびに愛しくなるばかりである。
約束は傷ひとつなく澄んでいた。
紅茶の入ったカップをふたつ携えてリビングのソファに並んで座る。双葉はストレートで、香子はミルクと砂糖が加えられている。寮はまだ静かなものだ。聞こえてくるのは鳥の声くらいで空気の流れもゆるい。とはいえ、それほど待たず鍵開け当番の子が起きてくる時間である。もうすぐまたいつもの賑やかしい日常がやって来る。
カップに口をつけた双葉は、熱い紅茶に覚醒を促されたのか、はたと気づいて顔を上げた。
賑やかしい日常、それは自分たちも無関係ではない。
「香子」
「なんや?」
「お前さ、いつもあたしが起こすまで寝てるだろ? けど今日は自分で起きたんだよな、こんな早い時間に」
「んー?」
さっきの約束。
目覚めて最初に見るためには、どうしたらいい?
「もしかしてお前、たまに寝たふりとかしてるんじゃないだろうな?」
視野の狭さからは考えられないほどの、幼なじみの計算高さと底の奥深さはよく知っている。それから目的を達成しないと気が済まない欲深さも。
花柳香子は甘い甘い紅茶を喉に流し込むと、最奥で光るものを隠すように目を細めて、
「さあ、どないやろなあ」
底の見えない透明な声で嘯いた。
「
……
ったく」
質量のある透明を真正面からは受け止めきれなくて、肩をすくめる動作で不器用にあしらった。
勝ち負けの話ではないのだけれど、その表情とその声を受けるたび、石動双葉はこいつには敵わないなと思うのだ。
その弱さは二人の程よい距離感を生む。
強く握りしめたらガラスは砕けてしまうけれど、掴む加減を間違えなければ、きっといつまでもガラスの玩具は壊れない。
だからずっと石動双葉の手は優しくて。
びいどろはずっと、初めて奏でた音のまま、甘やかに響き続ける。
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