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やまだ
2015-08-29 20:09:34
1560文字
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つるみかワンドロお題「勝負」
とばっちり加州くん
「そら、加州。好きなところに石を置け」
碁盤を挟んで対峙するのは平安の名刀、鶴丸国永である。片膝を立てたところに肘を乗せ、楽しそうににやにやしている。
「俺と君では力量に差がありすぎるからなあ。うん、九子くれてやる」
「うわ、鶴丸さん感じ悪い」
加州清光が半目で睨んでも、永きを生きる陽気な太刀は涼しい顔だ。
「拗ねるなよ。事実だろう」
しれっとそんなことを言って、帯に挟んでいた扇子をひらく。口元が隠れても飴玉のような瞳はにんまり笑んでいた。
たまにぽかりと、刀剣屋敷にはこうして出陣も遠征もできない空白の時が訪れる。審神者の力による時間移動ができなくなるのだ。
監督役の小狐が言うには、定期的に各時代を繋ぐ門の調整をする義務があるのだそうだ。この本丸では、その間は刀剣たちも自由に過ごしてよいことになっている。審神者とともに溜まった書類仕事を片付けるものもいれば、庭で遊ぶものもいるし、この時間を鍛錬に充てるものももちろんいる。ちなみに加州清光は、部屋でのんびり髪の手入れをする、予定、だった。
私室へ向かう廊下の途中で鶴丸国永に捕まりさえしなければ、今ごろ熱心に髪を椿油で梳いていただろう。
ぱちんぱちんと碁盤へ黒石を置いていきながら、なんとなく嘆息してしまう加州清光だ。
「
……
もー、いつもみたいに三日月さんとか鶯丸さんと打てばいいじゃん。遊んでもらえなかったの?」
「おや、言うな、加州」
暑くもないのに扇子をひるがえし、からからと鶴丸国永は笑う。藍の地に金蒔絵で桜花の描かれた優美な扇子は、あまり彼の持ち物らしくない。はっきり言わせてもらえば彼の白装束と合わせるには少々色味が強すぎる。
「鶯丸はあるじ殿と茶の時間でな。あれは茶を飲むのを邪魔するとすこぶる機嫌が悪くなる」
「三日月さんは?」
「さて、厠かな」
品のないことをさらりと言う片手の先が白い碁石をいらっている。もう片方がふわりと揺らした扇子の扇面に、背後から音もなく伸びた指先が留まった。
「やあ、驚いた。どこぞへ忘れたと思った扇子がこんなところで使われている」
三日月宗近である。
にこにこと、常と変わらぬ美しい微笑をたたえた三日月宗近は、そのまま鶴丸国永の手から扇子を抜きとり静かに閉じる。うん、と振り仰ぐ鶴丸国永の額をその扇子でごく軽く叩き、黒石の並ぶ碁盤を眺めてゆるく瞬いた。
「加州が黒石か。鶴丸が相手では九子でも分が悪かろう」
「
……
三日月さんまでそういうこと言う?」
「はっは。拗ねるな拗ねるな」
朗らかに笑いながら三日月宗近は加州清光の隣へ座した。微かに白檀と、それに混じって伽羅の香りがする。伽羅を好んで使うのは鶴丸国永のはずだ。
数回瞬く加州清光の顔を覗きこみ、三日月宗近はふっくらと目を細めた。
「力量差に腐らず果敢に立ち向かうその意気やよし。この三日月宗近が助勢しようぞ」
「そりゃないぜ三日月、君相手に九子は手強すぎる」
「俺だけではない。俺と加州、だな」
大袈裟にかぶりを振る鶴丸国永を、三日月宗近は機嫌よさそうに見守っていて、その彼の耳もとに加州清光は赤い虫さされを見つける。
扇子と、重なった香と、小さな虫さされが繋がりかけたところで項垂れた。
日の高い時分から睦まじいことだ。
「
……
ねえ、もう俺部屋に帰りたい」
なぜだか凄まじい疲労が肩にのしかかっている。
半ば以上本気の呟きだったのだが、都合のいいときに急に老けこむ平安の太刀どもは、それをすっかり聞こえなかったふりで加州清光に碁石を持たせるのだ。
遊ばれているのか、それともこれはこれでかわいがられているのだろうか。
どちらにせよ早くこの場から逃げだしたいと、加州清光は音高く碁盤に黒石を叩きつけるのだった。
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