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やまだ
2015-08-02 00:09:51
1451文字
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つるみかワンドロ お題「転寝」
りいんりいんと、庭の草陰から可憐な鳴き声がする。
酒瓶を鷲掴んで飲み比べの相手を求める次郎太刀の口上も、後ろ手に障子を閉じてしまえば随分遠くなる。虫の声に耳を傾けつつ、三日月宗近はそっと簾をかき分けた。
縁石に足を投げ出して、懐手に、軽く俯いた鶴丸国永が目を閉じている。宵も深く、無礼講ということだからお互いに長襦袢であるのだが、日中の白装束と異なって墨色のみを纏う鶴丸国永は、こぼれる髪とうなじの白さが夜闇に際立っていた。
隣へ腰を下ろし、深く静かな呼吸を繰り返す横顔を窺ってみる。
酒が回ったとうそぶいて早々に杯を伏せたのには三日月宗近も驚いたが、いつの間にか宴席を辞していたことにもぎょっとした。酒も大人数での集まりも好む鶴丸国永らしからぬ態度だった。
「そう見つめられちゃあ、穴が開く」
瞼は伏せたまま、ゆるく微笑んだ唇が動く。
「どうした三日月。猩々飲みが席を外すにはいささか早いぜ」
「そう思ってなあ。迎えに来た」
「おやおや」
く、と喉を震わせてからやっと鶴丸国永の睫毛が震えた。きらきらとよく光を含む、望月のようなまなこが三日月宗近を映して笑う。
すっかり普段と同じ表情を晒す鶴丸国永へ、ゆるく首を傾けた。目尻を下げる。
「何があった?」
ふっと鶴丸国永が苦笑した。いたずらがばれて審神者に説教を受けるときのような顔をする。
「少しな。なに、大したことじゃあない」
「おまえが宴会から逃げ出すなどと、充分大したことだろう」
常ならば次郎太刀と一緒になって周囲を賑やかしにかかる男なのだ。気配を厭うて簾の陰に隠れるとは、あまりに鶴丸国永らしからぬ。
そうしてじいっと見つめるうち、鶴丸国永も観念したようだ。三日月宗近の肩へこめかみを置き、ぼうっと虫が歌い競う庭へ目を向ける。
「夢を見る」
ひそりと吐き出された声は小さい。
「薄暗い部屋、透明の壁で密閉されて、ただただ静かな場所でひたすらまどろむ夢だ」
「
……
鶴よ。それは」
「そうさ三日月。夢じゃない。記憶だ。この俺がこうして顕現するまでに過ごしてきた日々そのものだ」
徐々に鶴丸国永が体重をかけてくるので肩が重い。ほとんどしなだれかかるように、鶴丸国永は三日月宗近を杖代わりにする。
「実際どうなんだろうな。実はこの俺こそが夢なんだろうか。君と、気のいい奴らと、あるじ殿とのこの日々は、俺のただの妄想なのかもしれない」
「敵などおらず、ということか」
「そんな気にもなるさ。あまりに目を閉じるたび見るものだから、さすがの俺も参ってしまう」
力なく笑う鶴丸国永の額を撫でる。虫の音を聴きながら、三日月宗近もまた微笑んだ。
「この日々がたとえ夢幻であったとて、鶴」
りいんりいんと虫が鳴いて、背中では仲間たちが大騒ぎして、そのはざまの抜けたような静寂に三日月宗近と鶴丸国永が沈んでいる。
この状態にも夢の中に似た不思議さがあるが、三日月宗近はただ笑う。
「俺には、今傍らにあるおまえこそが総てさ」
視界の隅でまるい頭が身じろいだようだ。
「はは、これでは答えにならんか」
「
……
いや」
笑み含んだ声がする。
「そうだな。君の言うとおりだ」
こめかみを押しつけて、輝く瞳で三日月宗近を仰ぎ、鶴丸国永は庭の虫より楽しげに囁いた。
「飲み直したいな、三日月、君とふたりで」
声なく笑みを深めた三日月宗近の背後では、二名ほど姿を晦ませても気づくものなどないだろうほど、酒宴が盛り上がりをみせている。
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