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やまだ
2015-08-01 18:57:45
1455文字
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つるみかワンドロ お題「朝」
一日の始まりを朝と称する。
太陽が昇り、星は隠れ、深く濃い藍色だった空も徐々に明度を増してゆく。花の蕾はふっくら綻び、梢を見上げればいつの間にか小鳥が集い、睦まじく囀っている。
そして人と同じ肉の体を得ている現在の三日月宗近もまた、朝目覚め日中に働き夜眠る、その繰り返しを常識として身に修めていた。
障子をひらけば世界はまだ薄青い。ひんやり湿った空気が肌を湿すのがこそばゆく、静かに三日月宗近は肩を揺らした。
しばらくそうして静謐な刀剣屋敷を眺めてから室内へ戻る。夜着や寝具を片づけて身なりを整える頃には、日の当たる廊下を行き交う気配が賑やかだ。
朝と夕はできる限り揃って飯を食うのが、この屋敷でもっとも重要な決まりごとのひとつだった。
大台所に刀剣たちがずらりと並び、忙しく箸と口を動かすのだ。毎日それはそれは騒がしく、だが三日月宗近はそんな時間をとても好ましいものとして受け入れている。朝という時間において、二番目に好きな時間だった。
「三日月殿。おはようございます」
やおらに廊下を歩むところへ、傍らから軽やかな声がかかる。にこにこと軽く頭を下げる一期一振は朝から一分の隙もない。
「やあ。一期か」
微笑み返すと一期一振が穏やかに目を細めた。
「よい朝ですなあ」
「うむ、うむ」
薄青い空に太陽がきらめく様子は、見ているだけで気持ちがよい。
もっとも雨なら雨で風情があるし、曇っていれば雲の流れから風を辿ることができるので、三日月宗近は特別どの天気を厭うているわけではないのだ。どんな天候でもよい朝だと言うだろう。
三日月宗近にとって、朝という時間をよいものに変えるもっとも大きな要因は、空の機嫌ではないからだ。
いち兄、と廊下の先で手招く弟たちへとろけるような微笑を浮かべたまま、一期一振はそっと三日月宗近に囁いた。
「鶴丸殿もすぐ参りますよ。先ほど鴬丸殿が叩き起こしておりましたゆえ」
そうか、と笑って足を緩める三日月宗近と、弟たちのもとへ大股で歩む一期一振の歩幅がずれる。
「では、俺はここで待とうかなあ。一期は弟御たちと囲む膳を確保しなければな」
「毎朝それに四苦八苦しております」
嬉しくてたまらぬと言わんばかりの声音を残していった一期一振の背へまた笑い、三日月宗近は手近な壁にもたれかかる。通りすぎる刀剣たちの挨拶のすべてにうむうむと頷いて見送るうち、鴬丸の背後に待ちかねた白羽織をみとめる。
自然と目を細めてしまって、するとすぐに鴬丸が気づいて肩を竦めた。
「早いな、三日月宗近。珍しい」
「逆だろう、鴬丸。珍しく遅い」
「ああ。これのせいでな」
しれっと答える鴬丸の肩の向こうで鶴丸国永がぶすくれている。
「おいおい鴬丸、俺の香炉を蹴倒したのは君の足だったはずだがな」
「まあ細かいことは気にするな。掃除を手伝っただろう」
「そりゃ俺の台詞だぞ
……
」
重たくかぶりを振ってから、ようやく鶴丸国永が三日月宗近を見る。おどけた仕草で両手を掲げ、にっと笑う。
「おはよう三日月。ああ、朝から無駄に動き回って腹が減った」
「おはよう、鶴丸。はっは、さぞ朝飯がうまかろうさ」
そうして三人連れ立って廊下を進みつつ、ほんのりと三日月宗近は目元に笑みを滲ませる。
一日の始まりを朝と称する。
三日月宗近にとってこの時間を何よりもきらめかせてくれるものが、鶴丸国永から告げられる何気ない挨拶なのだと知ったなら、きっと鴬丸も鶴丸国永も盛大に呆れるのだろう。
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