かわゆい、かわゆいと、三日月宗近が鶴丸国永を指してそう評すことがある。鶴丸国永からすればなんてことのない当たり前の振る舞いを見て、かわゆいなあと笑うのだ。
太刀として千年近く、付喪神として審神者にまつろい肉の身を得てからは、それと比べれば随分短い。けれども鶴丸国永は自身を見返してみて、とても三日月宗近の言うような形容がおのれにふさわしいとは思えなかった。
まねごとでも肉体は男性を模していて、そして鶴丸国永はこういう性格で、だからかわいらしいと言われても手放しには喜べない。畢竟そうして楽しげに三日月宗近が笑うたび、対する鶴丸国永は仏頂面をぷいっと背けることになる。
「君はひどいやつだ三日月。こんな男前を捕まえてかわゆいかわゆいと、まるきり犬猫を愛でるような扱いじゃあないか」
「おや」
横でしゅらりと衣擦れがする。どうせ三日月宗近が、袖で口元を覆って笑っているのだろう。目で確かめなくとも鶴丸国永はありありとその様子を虚空に描くことができる。
「そんなつもりではなかったのだが」
「どうだかな」
あぐらの上に頬杖をつく。
大きく障子の開け放たれた部屋からは、庭園の奥、まろぶように駆け回る短刀たちの影が見えた。しばしば明るい笑声が弾けて、なんとものどかな世界である。
「ああいう奴らに言うならわかるがね」
稚いもの、小さく柔らかなものは総じて微笑ましくかわいらしい。……もっとも短刀たちのかわいらしさなど、戦闘となれば瞬時に吹き飛ぶほどのものではあるのだが。
「うん、そうだなあ」
「俺はあいつらと同列かい?」
ちらと振り返る。三日月宗近はやはり袖を唇へあててにこにこしていた。
長い睫毛に縁どられた瞳が瞬くと、その表面にとろけるような光が踊る。ふっくら微笑む三日月宗近は、珍しく目尻にこちらをからかうような色を乗せていた。
「俺はおまえ以外のものにかわゆいと言ったことはないぞ、鶴や」
「……うん?」
とびきりの遊び場を見つけた童の顔だ。そんな表情なら鶴丸国永のほうがよほど得意だというのに、似合わぬ面で三日月宗近は首をななめにする。
「おまえは俺によく笑うと言うが、俺からすればおまえのほうこそ常に笑っている。くるくると目まぐるしく変わった表情がすべて笑顔の上に戻ってくる」
そういうところを見ていると、と、鶴丸国永の目を攫う微笑みを浮かべて三日月宗近が呟いた。ふわりと浮いた手が鶴丸国永の額を撫でる。
「かわゆい、と言いたくなるのさ。とても好もしい」
とてものんびり笑う三日月宗近を直視していられなくて再び庭へ視線を逃がす。きっと今ひどい面をしている。
なぜなら三日月宗近の触れる額が、自覚できるほどに熱いのだ。
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