やまだ
2015-05-29 23:01:31
1777文字
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つるみかワンドロお題「秘密」


 縁側でひとりで緑茶を啜っていると、いつの間にか三日月宗近が茶菓子を抱えて現れる。
 そのままふたりでろくな会話もなく茶を飲んでいると、どこからか鶴丸国永がひょっこり姿を見せて、鶯丸と三日月宗近の間にどかりと座るのだ。彼がやって来ると縁側は途端に賑やかになる。
 ひとりの時間も、三日月宗近と過ごす静寂も、三日月宗近と鶴丸国永とともに歓談することも、すべて等しく鶯丸は好んでいる。だから今日も今日とて盆の上には湯呑みがふたつ余分に伏せられていて、そしてじきにどちらも熱い緑茶で満たされた。
「鶯丸、君は酒は好まないのか」
 三日月宗近の持ってきた大きな饅頭を綺麗に三等分させて、鶴丸国永はさっそくそのうちのひとつを頬張る。残りを懐紙に取り分けながら、鶯丸はゆるやかに瞬いた。
「好きか嫌いかで考えたことがない。まあ、茶のほうが俺の好みなのだろうとは思うが」
「そういえば、鶯丸とはあまり杯を交わした記憶がないなあ。鶴ばかりだ」
 のんびりと湯呑みで指先を温める三日月宗近は、こう見えて宵っ張りだ。たびたび明け方近くまで鶴丸国永とささやかな酒宴に興じていると聞く。
 しかしこの三日月宗近と鶴丸国永、仲がよい。兄弟のように、友のように、師弟のように、その場その場で顔を変えどもどちらかの傍にどちらかがいるという絵図は変わらない。
 まったく性質の違うような彼らだが、鶴丸国永を三日月宗近が諌め、三日月宗近を鶴丸国永があやす、そのつり合いが実に見事なのだった。
「鶴丸国永とだけで飲むのは退屈か、三日月宗近」
「逆さ。賑やかで賑やかで、酒を楽しむ隙がない」
「そりゃ言いすぎだろう三日月」
 鶴丸国永が唇をへの字にして、三日月宗近がころころ笑う。するとじきに鶴丸国永の機嫌も治っている。その流水のような変化を見て鶯丸もつい目を細めてしまうのだ。
「まあ、気が向いたら顔を出してくれ」
 言葉で湯気を散らしつつ、鶴丸国永が少し眉を寄せる。
「三日月が最近謎かけをしてくるんだが、悔しいことに分が悪い。助勢してもらえると助かる」
「へえ? どんな謎だ」
「鶯丸」
 やんわりと鶯丸を引き留めるのは、目を伏せて緑茶を啜る三日月宗近だ。彼がこんなかたちで会話に割りこんでくるのは珍しい。
「他愛ない遊興だ。おまえを煩わせるほどのものではないよ」
「その他愛ない遊興とやらに、俺は十日も悩んでいるんだがな三日月」
「おまえはいいのさ。あれはおまえへの謎だからなあ鶴」
 にこりと笑う三日月宗近といったら鶯丸でさえ身惚れるような姿なのだが、それを向けられたほうの鶴丸国永はちょっと唇を尖らせるだけだ。肩を竦めるとその顔であっさり鶯丸を振り返り、おまけとばかりに頬を膨らませてみせる。幼いような仕草でも、この男がやればそれなりに見えるのだからおもしろい。
「意地が悪いと思わないか? 俺が悩んでいるのをひたすらにこにこと眺めているんだぜ、三日月は」
「それで」
 苦笑して湯呑みを膝に置く。まるで短刀たちの相手をしているような気分になってきた。
「どんな謎なんだ、鶴丸国永」
「鶯丸――
「月が美しいなと言うんだ、三日月が。それだけ言って、さあこの謎を解いてみよと言う」
 視界の端で三日月宗近が顔を背けたようだ。
 鶴丸国永は鶯丸がこの謎を解くと信じきって疑わぬ目をしている。
 さて鶯丸はと言えば、笑声を放つのを必死に耐えているところだった。
 謎というようなものではない。いつだったかにどこかで聞いたそれは、三日月宗近が選ぶにしてはいささか若い使い回しだ。この鷹揚とした男がどこでこんな言葉を知ったのかも、逆にあちこち飛び回る鶴丸国永が知らずにいるのも、どちらも鶯丸にとっては意外なことだ。
 けれどもやはり、微笑ましい。
 ふっと笑って再び湯呑みを持ち上げる。
「さてさて。三日月宗近の言うとおり、これはおまえが自分自身で解かねばならない謎だな。鶴丸国永」
「鶯丸まで三日月と揃って意地悪か?」
「心外だ」
 静かに苦笑している三日月宗近の湯呑みへ茶を足してやりながら、鶯丸は静かに瞬いた。きっと仏頂面でいるだろう鶴丸国永へ、笑みとともに振り返る。
「きっとこの謎を解いたとき、おまえは俺と三日月宗近に感謝するさ。あのとき答えを聞かずにいてよかった、とな」