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やまだ
2015-05-01 23:04:45
1625文字
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つるみかワンドロ参加
宵の紗幕を掬いあげるように、ひらりひらりと扇子が泳ぐ。そのたびしゅらりと衣が鳴く。
楽はなく、もちろん唄もない。庭でさざめく虫の音が唯一それらしいが、薄く瞼を伏せる三日月宗近がそれを聞いているかどうか。
天下五剣の舞を肴に飲めるとは、とんだ僥倖にありついたものだ。馥郁とした香りごと杯を干し、鶴丸国永は三日月宗近の気まぐれに感謝する。
「人間のまねごとをするとき、一番性に合うのはなんだい」
厨からこっそり持ち出した酒で月見にしゃれこんで、なんとはなしにそう問うてみたのだ。三日月宗近はゆるく首を傾けて瞬いた。鶴丸国永の言葉を、瞳で咀嚼するような間は嫌ではない。
「もちろん、斬る、というのはなしだぜ。そんなのは俺たちの本性にこそほど近い」
「そうだなあ」
返事か相槌か、のんびり呟いて三日月宗近は杯を唇へ寄せた。
ほのかに酒を輝かせる月光ごと、すうっと飲み干して、長い睫毛を震わせる。いつでも笑顔でいる男だが、はにかむような微笑は珍しかった。
「舞は好きだ」
「へえ?」
ちょっと目をまるくして応じた鶴丸国永の隣で、するりと隠しから抜いた扇子をひらいた三日月宗近が笑っている。
この男にも好き嫌いという区別があるのかと、少々驚いてしまった。大抵のことははっはと笑いながら受け入れてしまうものだから、彼はそういった判断を知らないものとばかり思っていた。
「まあなんというか、君らしいなあ。俺が言えば冗談にしかならんが、君がそう言うと納得しかできん」
「おや」
袖で口元を覆い隠すくせに、穏やかに笑む瞳をごまかそうとはしないのだ。長い睫毛の奥でちいさな三日月が一対、淡くきらめいて鶴丸国永をからかっている。
「おまえこそ舞は得意だろう。鶴」
「俺か?」
「戦場で。おまえはいつも苛烈に舞っている」
扇子を星明かりに洗わせながらそんなことを言う。
思わずまじまじと横顔を見つめる鶴丸国永に構わず、杯を置いた三日月宗近は衣擦れの音とともに立ち上がった。つられて上向いた鶴丸国永を見下ろしほのかに唇をほころばせる。
「おまえの舞は美しいからなあ。つい盗み見てしまうのだが、そうだな、詫びにひとさし舞ってみせようか」
そうしてゆらりと指先が動いた瞬間から、三日月宗近自身が楽となり唄となり、宵闇の畳が舞台と化した。
目も逸らせずに鶴丸国永はただ酒を飲んでいる。
おのれで好むと言うだけあって、なるほど足運びから扇子の僅かな傾きまで優美極まりない。とびきり整った容姿の男が薄く笑みながらゆるゆると舞うさまは、人とも刀剣とも異なる迫力があり、つい鶴丸国永はぞくりと背筋を震わせた。
酒に濡れた唇をぺろりとやって、笑う。
「
……
君の舞か、これが」
杯を置く。その手で暗がりを探り、おのれの太刀を引き寄せる。
とろりと微笑んで舞いつづける三日月宗近へ、片膝立ちに抜刀する。
「驚いた」
裂けた扇子をはらりと捨て、のんびりと三日月宗近は目尻を下げた。
鶴丸国永も刃を引き戻しつつ立ち上がり、ちっとも驚いていない面へ肩を竦める。
「戦場の俺を美しいと言ったな。三日月」
「うむ」
「そいつは俺の台詞だ。刃とともに舞ってこそ君は映える」
はは、と三日月宗近は笑った。その目がさりげなく自分の太刀を確かめたのを鶴丸国永は見た。
「斬るのが得意だと答えるのはなしと、そう言ったのはおまえだろう」
「そうだったかな」
うそぶく間に三日月宗近も太刀をとっている。なめらかに抜き放たれた刀身が濡れたように潤み、鶴丸国永へ向けられる。
まだ酔うほどではないが、浮かれている。頬で笑って促した。
「だがこいつも舞だ。どうだいひとさし」
「構わんよ。俺もなあ、鶴」
扇子よりもよほどなめらかに太刀を滑らせ、三日月宗近は首をななめにする。
とろけるような微笑が刃の向こうに咲いている。
「一度、間近におまえの舞を見てみたいと思っていた」
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