溶けかけ。
2025-02-26 21:20:41
936文字
Public ほぼ日刊
 

子守歌

子守歌を歌う🌧️と💧のお話。
※子ども捏造注意

 柔らかな歌声にヌヴィレットは目を覚ました。どうやらうたた寝をしてしまったらしい。
 午後の陽光が差し込む窓辺は暖かく、如何に厳格なヌヴィレットを以てして抗えられない魅力を放っている。まして、それが久々にとった長期休暇であるのなら尚更だ。
「フリーナ?」
 ヌヴィレットは歌声を辿りながら、最愛の妻を探す。リビングから始まり、物置、キッチン、裏庭……家中を歩き回り、やっとのことで彼はフリーナを見つけ出した。
「ここにいたのか」
 家の中で最も光が差し込むように設計された子供部屋──そこに、彼女はいた。大きめのゆりかごを歌に合わせてゆらゆらと揺らしながら、フリーナはこくり、こくりと船を漕いでいた。
「──っと……
 ぐらり、と傾いた華奢な身体の間に腕を滑り込ませる。間一髪、床との接触は免れたようだ。
「んぅ……? やぁ……ヌヴィ、レット……
 今にも離岸しそうな船を必死に繋ぎ止めながら、フリーナはしぱしぱと海のような双眸を瞬かせた。いつもは猫のようにつり上がった眦をとろんと垂れさせる彼女の声もどこか眠気を含んでいて、聞いているだけで眠くなってくる。
「代わろう。少し寝てくるといい」
「んー……だいじょうぶ……それより、キミこそもっとや、す……
 最後の言葉は空気に馴染み、健やかな寝息に変わっていった。
 ヌヴィレットは腕の中で安心しきった表情をして眠るフリーナを抱き上げると二段ベッドの下の段に寝かせて毛布を掛けた。
 お守りの途中で寝入ってしまう彼女のために下の段だけはいつでも横になれるように整えられていた。
「君を休ませるためにとった休暇だったのだが」
 ヌヴィレットは指先でフリーナの黒々とした隈を撫でる。メイクすらままならない肌は酷く荒れ、引っ掛かりを覚えた。
「いつもありがとう」
 どんな姿でもヌヴィレットは構わない。寧ろ、どんな姿でも美しいとすら思う。
「もっと休め──だなどと……休みが必要なのは君であろうに」
 ヌヴィレットが口遊む。
 目が覚めたときにフリーナが歌っていた子守歌を。
「当然のことだけど、歌ってもらったことがないんだ──子守歌。だから、子どもたちには沢山歌ってあげたいな」と眉を下げて笑っていた彼女のために。