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青
2025-02-26 00:13:05
1608文字
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午睡
お兄ちゃんに膝枕して貰うユキちゃんと仲良しナカモト兄弟。モブ視点。
私はこの家で書庫の番を任されている者である。一口に書といっても、この家に置いてあるものは多種多様だ。医学書や兵法書などから子供向けの絵巻物まで、それらの数と状態を確かめ欠けや破損のないように保全するのが、私の役目である。仕事はそれだけではないので、申しつけられれば何でもやりはするが、今日は天気が良いので虫干しがしたい。
ところがいざ書庫の扉を開けると、早速ひとつふたつ欠けがあった。五巻で揃いの博物誌が一巻と四巻しかない。二巻目は誰が持ち出したか判明しており、それは私も知っていたので、問題は三と五である。首を捻った所で、五巻目は開いたまま隣の棚の上に乗せられていた。その近くに、他の本も横にして置いてある。
こういう雑な事をするのは大概誰であるか、見当がつかない訳でもない。何故というに前科があるから、だ。察するに二番目の坊ちゃんである。前当主様には血を分けた御子息が三人、総領息子が跡を継いで今や別宅で隠居の身だ。その今の御当主様は父御に似ず落ち着いた控えめな性格で、書物を持ち出すにもこういう出し方はしない。二巻目を持っていったのはこのお人で、私が直接手渡した。家のものなので勝手に持ち出しても悪いという事は無いのだが、何処にあるかは把握しておかねば書庫番として面目が立たない。御当主様は、それを重々理解なさっている。比べて二番目の坊ちゃんは気立ては悪くないが兄上様と比べればやや言動が粗野で、いかにもこういう事をしそうなのだ。確認しておく必要がある。
とは言ったものの、その二番目の姿が見えない。この家は広く、三人の子らもそれぞれ離れと教育係を与えられ、別々に育てられていたくらいである。私は彼らが、市井の子供らのように転げまわって共に遊んでいる所など、ただの一度も見た事がない。一番目と二番目は歳が離れているから余計にそうなのかもしれないが、御家の方針とはいえ薄ら寂しいものだ。
何処へ行ったやら、と途方に暮れていると、そこへひょっと顔を出した者があった。三番目の坊ちゃんだった。確か齢十三になられる筈だが、表情は未だあどけなく細っこい手足は仔狐を思わせる。丁度良かった、と私は兄の行方を知らぬかと声をかけた。
「二の兄上ですか。知っていますよ」
三番目はにこりと笑顔を見せるとこっちこっち、と楽しそうに手招きした。何か面白い事があるのだろうか。
麗らかな春の日だった。暖かな光が差し、庭木の一本一本までうっとりとその陽を浴びているように見えた。
「あっちです」
指差したのは御当主様の居室であった。御長男ではなく次男坊の行方を訊いたのだが、と振り向くと、少年の姿はもう無かった。嘘をつかれる理由も無いので、私は首を傾げつつ、恐る恐る襖を開けた。失礼致します、と言うと、御当主様の姿は縁側にあった。庭に向かって腰を下ろしていたが、振り向いて、人差し指を唇に当てた。
静かに、と唇だけで言う。
私が言われた通りそっと近付くと、その膝の上に頭を乗せて、何とも安らかに眠っている二番目の坊ちゃんの姿があった。傍らに、探していた書物の三巻目もある。前の巻を持っているのが兄だと知って、内容が気になって見に来たのかもしれない。
弟御の寝顔を見つめる御当主様の視線は、春の陽射しの如く穏やかであった。以前はこんな顔をなさる人であったろうか。家を継ぐ前に修行の旅に出て、遠い異国で恋をしてきたというから、そのせいかもしれない。二番目の坊ちゃんも、何処か壁を隔てて兄上を見ていたように思えたが、御自分も旅から帰って何かを得たのだろう。こんな風に素直に甘えられる日が来るとは、きっと家中の誰もが思わなかったに違いない。
私は書物を回収するのを諦め、そっとその場を後にした。所在は確かめたので何の問題もない。
末っ子が笑っていた理由を知って、私は納得し、そして密かに共に喜んだのであった。
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