ぐるさん
2025-02-25 23:54:26
3682文字
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2.15 ふみりかワンドロ <逆視点>

ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2025.2.15お題を拝借したお話の逆視点です。

「はい、理解。これあげる」

 ある日の昼下がり、俺は部屋でくつろぐ理解に、あるプレゼントを手渡した。

「これは……花束ですか?」
「うん」

 俺が理解に手渡したのは、白を基調にした小さな花束。それを見た理解は、申し訳なさそうに俺に尋ねた。

「あの、言いにくいのですが、今日って何かありました……?」
「いや、特に無いよ」

きっと、記念日とかイベントとか、大事な事を見落としていたんじゃないかと思ったのだろう。しかし、不安が解けたような表情を浮かべたのも束の間、次に理解は不思議そうな表情を浮かべて花束を見つめる。本当、分かりやすい。そこが可愛い所でもあるけれど。

「何か、出先で見かけて綺麗だと思ったからさ」
「えっ!?」

案の定、俺の言葉に理解は、何で自分の心の内が分かったのかと言いたげ表情で声を上げる。

「俺が花を綺麗だって思うの、そんなに以外?」
「え、あ、いや、そういう訳ではなくて……その、あんまり急だったので驚いてしまったというか、今日何かあったかと焦ってしまったというか……
「確かに。俺も理解から急に花束渡されたら、そう思うかも」
「でしょう!」
「でも、こういう日があってもいいんじゃない?」
「こういう日、とは?」
「何でもない日に花を送る日。ほら、なんて言うか、恋人っぽい、みたいな?」

今更だけど、ちょっとキザだっただろうか?でも、花束と俺の顔を交互に見ながらふわりと笑う理解の笑顔を見ると、そんな心配も薄れていく。

「ふふっ。そう言われると、確かにそうかもしれないですね」
「でしょ?」
「改めてありがとうございます、ふみやさん。大事に飾らせて頂きますね!」
「うん。そうしてくれると俺も嬉しい」

◇◇

 時は流れて夜。風呂から上がってリビングに向かうと、何やら皆が騒がしい。

扉を開けると大きな花束を持ったテラが皆に囲まれている。どうやら、自分の夢ために退社する社員が今日までの感謝を込めて渡してくれたようだった。

冷凍庫からアイスを取り出しテラが話しているのを眺めていると、話題は花言葉へと移っていく。何でも、その花束は見た目だけではなく、花言葉の意味も考えられた物であるらしい。

「花言葉か……

思わず零れた言葉は、誰の耳に入ることなく床に吸い込まれる。

昼間、俺が理解に渡した花はどのような意味を持っていたのだろうか。花束を買った時も渡した時も考えなかった事が、何だか無性に気になり始めてくる。

スウェットのポケットに入れていたスマホを取り出し、馴染みのブラウザを開く。

えぇっと、花言葉……花の名前はゼラニウム、だったかな?え、色によっても意味が変わる?それならゼラニウム、白、花言葉……

アイスを齧りながら検索結果を確認する。だが、これによってとんでもない事実に気づいてしまった。自分はもしかしたら、理解とんでもない物を贈ってしまったかもしれない、と。

急いでリビングを飛び出し、理解の部屋の扉を開ける。

「理解!」 
「ふみやさん!?ノックも無しに急に入るなんてぶつかったら危ないでしょう!それに、廊下はもっと静かに——
「悪い、今それどころじゃない。昼間渡した花束ってどこにある?」
「はぁ?」
「あ、あった。ちょっと借りる」

理解の小言を受け流しながら部屋を見渡すと、目当ての花束が飾られた花瓶を机上に発見した。

「ちょ、ちょっと!一体どうしたんですかふみやさん!というかソレどうするつもりですか?」
「捨てる」
「捨てる!?」

この様子だと理解はまだ、花言葉に気がついていないようだ。不要な誤解を生み出していない事に安心して部屋を出ようとすると、理解は俺の腕をガッシリ掴んで邪魔をする。

「いやいやいやちょっと待ちなさい!」
「待たない」
「待て!そもそも一度人に渡した物を許可なく回収しようとするな!」
「いや、それは……
「理由があるなら言え!今ここで!」

こうなった理解は止まらない。鋭い眉と目をより一層吊り上げ、紅い瞳で俺をキッと睨みつける。気づけば手の中の花瓶も取られて、俺は目を逸らしながら立つ事しか出来ない。

俺は、お前にそんな顔をさせるつもりはなかったんだけどな。なかったんだけど、このまま黙ってやり過ごせるような状況でもない。でも、正直に言って理解が悲しい気持ちになったりしたら……どれだけ考えても良い感じの言い訳は思いつかなくて、結局正直に打ち明ける事にした。

「花言葉が……
「花言葉?」
「ゼラニウムの花言葉が、『真の友情』みたいで……
「それが?良い言葉じゃないですか?」
「それに、白いゼラニウムになると、『偽り』『優柔不断』『貴方の愛を信じない』になるらしくて……
「それはちょっと嫌ですけど……貴方まさかそんな理由で捨てようとしてたんですか!?花には何の罪も無いのに!?」
「うっ、いや、あの、それは……

俺の話を聞いて驚愕する理解を見て、恥ずかしさが込み上げる。冷静に考えてみれば、誰が言い始めたかも分からない意味付けに振り回されて大騒ぎするなんて、穴があったら入りたい位だ。

……でも、いくら何でも理解も言い過ぎじゃない?こっちが折角気にしてるのに。恥ずかしすぎて捻れた心は、思わず拗ねた言葉を口から零す。

「でも、だって、嫌じゃん。せっかく綺麗だと思って、お前にも見せたいと思って買ってきた花が、不吉な意味を持ってるなんて」
「それは……
「それに、恋人同士なのに『真の友情』とか、友達に戻りたいみたいで、それも、嫌」
「それはちょっと邪推というか、曲解しすぎでは?」
「そうかもしれないけど、でも俺は嫌だと思ったし、理解が少しでもそう勘違いしたら悲しい。だから捨てる」
「気持ちは分かりましたけど、いくら何でもそこまでしなくても……
「じゃあ、その理由は?」
「理由?」
「理解が捨てたくない理由。俺が捨てちゃいけない理由。だって理解が最初に言っただろ?理由があるなら言えって」

我ながらガキみたいな我儘を言っていると思う。昼間あんなに格好つけたのに、情けないとも思う。

でも、こればっかりは譲れない。理解が少しでも悲しいと思うかもしれない物、寂しいと感じるかもしれない物を、その手元に残しておくのは、贈った側として放ってはおけない。

そんな俺の気持ちが分かったのか、理解は真剣な眼差しで、改めて俺に向き直る。

「ならばお答えします。ふみやさんが花束を捨ててはいけない理由を。ちなみに大きく分けて二つあります」
「うん」
「一つ目は、単に私が気にしてないからです」
「気にしてないっていう証拠は?俺を止める為に嘘ついてない?」
「私が嘘なんてつく訳ないでしょう。証拠に関しましては、この花の花言葉を知らなかった、調べるという発想がなかったからですね」
「本当に?」
「えぇ、本当です。ふみやさんに教えてもらうまでは」

スラスラと喋る理解を、疑いの目でじっくりと見つめる。だが、理解は一切引かないどころか、こちらの瞳をジッと見つめ返してくる。

流石にここまで堂々としておいて嘘をついている、というのは考えにくい。一つ目の理由に関しては認めてもいいだろう。

「それじゃあ、二つ目の理由は?」
「二つ目は、ふみやさんにお花を頂いた事が、とっても嬉しかったからです」

花瓶を抱えた理解が、花々を見ながらふわりと微笑む。

「ふみやさんが何処かで見つけた綺麗な物を、私にも見せたいと思ってくれたその気持ちが、私は本当に嬉しかった」
「!」
「そんな嬉しい気持ちを与えてくれたふみやさん自身の手で、その象徴とも言える花が捨てられてしまうのは、私には耐えられない。だから、どうか考え直して下さい。ふみやさん」
……理解」

 気がついた時には、理解の事を抱きしめていた。

「えぇっ!?ちょっ、ふみやさん!?」
「ごめん、理解」
「ふみやさん?」
「勝手に花捨てようとして、ごめん」

俺は一体、何をしていたのだろうか。理解を悲しませないと行動した結果、逆に理解を悲しませてしまった。流石に申し訳なくて顔が見れず、グリグリと理解の首元に顔を埋める。

「怒ってないから大丈夫ですよ。……しいて言えば、最初に理由を言って欲しかった位ですかね?」
「悪い……ていうか恥っず……何か俺、めちゃくちゃ空回りしてたかも……
「別にそこまで悲観する事ないと思いますけど……

うじうじとする俺の頭を、理解は優しく撫でる。それは温かくて心地よいけれど、このまま終わるのは、ちょっと引っかかる。

「よし、決めた」
「な、何をですか?」
「この花は捨てない。でも、このままだと俺がモヤモヤするから、リベンジさせて」
「リベンジ?」
「うん。今度はちゃんと意味を調べてプレゼントするから、もう一回受け取って欲しい」


 ——数日後、九十九本の薔薇を携え理解の部屋を訪れた話は、また別の所で。