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ムラタ
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ヴェラン
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媚薬チョコネタ
ヴェラン
妄想ツイに毛が生えた程度です
「アップルパイ」
稀代の錬金術師はランスロットにそう告げた。
錬金術師の祖であるカリオストロとできるならば太いつながりを持ちたいのはどこの国も同じことだ。そんな心積りと同じ騎空団にいたよしみもあって、ランスロットはカリオストロにフェードラッヘでしか手に入らないような素材が必要な時はできるかぎり工面するとは前々から約束していた。
フェードラッヘの近くにきていたカリオストロ達が面会を求めて来たときに、何か入り用なのかとランスロットも思ってはいたのだ。でも要求されたのは全く想像の範疇から外れていた。
一度目の要求がランスロットの毛髪で、二度目の要求がヴェインの手作り菓子。フェードラッヘでしか手に入らない素材と言えばその通りなのだが。
「ランスロットさんの彼氏が焼いたアップルパイ、クラリスが美味しい美味しいって言うからカリオストロも食べてみたくってぇ」
「その彼氏というのはヴェインのことですか」
聞き馴染みのない言葉にランスロットは首を傾げた。
「そうだよ、違うのか?」
先ほどまでのあどけない少女のように振る舞っていたカリオストロが、急に凄みのある声で喋り出した。そちらの方が素なのだろう。いちいち発言の意図を図る必要がなくて、話しやすいので特に問題はない。
問題があるのはその質問の内容だ。少し考えてランスロットは正直に答えた。
「俺とヴェインは思っているような関係じゃないですよ」
ランスロットはヴェインに特別な感情を抱いているが、ふたりの関係はどこまでいっても仲のいい幼馴染であり、相棒であり、友達だった。
それでも長年の慕情は隠し切れないようで、こうして妙な誤解を受けることがあった。
「ふん、どっちでもいいが、クラリスたちもまた食べたいって言うから頼んだぜ」
「ヴェインに伝えておきます」
きっとむべなくヴェインは了承するのだろうと思ったが、次の日にはあっという間にヴェインの作ったアップルパイの入ったカゴがランスロットの手元にやってきた。
ヴェインは出来上がったアップルパイを、そのままカリオストロの元に運ぶと申し出たが、なんとなくふたりを相対させるのは良くないような気がしてランスロットが出向くことにした。
「これ、アップルパイのお礼♡ チョコレート作りすぎちゃって」
そういってカリオストロのか細い手から渡されたのは両方の手のひらに収まるサイズの包み箱だった。リボンが二重に巻かれた可愛らしいラッピングが施されている。そういえば、もうすぐバレンタインの時期だ。意外な返礼品をランスロットがまじまじと見つめていると、カリオストロはしなを作ってとんでもないことを言った。
「だけど、これはただのチョコレートじゃないよ。好きな人を自分に夢中にさせるお薬が入ってるの、ヴェインにちゃんと渡してねっ」
「そんなのヴェインが困りますって」
ヴェインはこんなもの渡されたら困惑するだろう。喜んで受け取る姿は想像もできない。
ランスロットが思わず返そうとすると、カリオストロは腕を組んだまま意に介した様子もない。
「試作品でそんなに強い作用はないから安心して使っていいぞ」
誰に向けた言葉なのか、スカートをひらりと翻すと、カリオストロはそのままウロボロスに乗って立ち去って行った。
リビングのテーブルに、ランスロットはそれをずいと差し出した。どう説明してもヴェインを困惑させてしまうだろう。ランスロットが口をつぐんでいると、ヴェインはその包み箱の隣に二人分のマグカップを置いて、リボンを解いた。だから、ランスロットは慌ててそれが何なのか説明するしかなかった。
「ランちゃん、今なんて言ったの?」
「これがカリオストロ殿からもらった惚れ薬だ」
「うわぁ!」
ヴェインは思った通り悲鳴を上げた。蓋を開けてみれば惚れ薬とやらは綺麗に作られたチョコレート菓子にしか見えなくて、それが余計にそら恐ろしく見えた。おまけに、ひとつひとつが異なる飾りを施されて、数えると十粒もある。
「そんなに強力な薬ではないそうだ」
「でも、カリオストロさんが作った本物の惚れ薬なんだろ」
「チョコではなく薬品だから三ヶ月は持つと言っていたから、多分本物だろう
……
」
「こんなのお茶請けには絶対できないぜ」
ヴェインはマグカップを傾けながらぼやいた。本人は困り切っているのだろうが、眉根を寄せるその表情が結構好きだなとランスロットは呑気に考える。
「ヴェインは好きな子とかいないのか」
おまけに、ランスロットはヴェインのことが好きだったけれど、幼馴染の兄貴分としての振る舞いが染みついているので、ついつい余計なことを聞いてしまう。
「好きな子って、げほっ、ごほっ」
ヴェインは想像の何倍も動揺して、口に含んだお茶でむせてしまった。素直な彼らしいわかりやすい反応だ。
意中の相手がいるとはっきり言われたら傷つくだろうと思っていたが、意外に思う方が先に来た。ヴェインの思い人に全くぴんとこないからだ。
「好きな子がいても、こんなのどうしようもないよな」
「ランちゃんは俺の好きな人って誰だか分かってるの?」
「いや、心当たりの人物が思いつかないと思っていたところだ」
「知らないんだ
……
」
ランスロットが素直に答えると、ヴェインがすっかり黙ってしまったので、リビングに少しだけ気まずい静寂が訪れた。
その空気を打ち破るように、寝ていたはずのムートがぴょんと机の上に飛び乗ってきた。チョコレートが気になるのか、箱の近くをうろうろと伺っている。
「だーめ、チョコはあげられないんだよ。それにこれはもーっと危ないものなんだからな」
ヴェインがさっと箱を持ち上げても、ムートはめげずに箱の中身を気にしている。どうにもあぶなげである。
「それ、早めに処分した方がいいんじゃない?」
「俺もそう思う。お菓子にしか見えないから、丸ごとそのまま捨てるのもしのびないけどな~」
確かに食品をそのまま捨てることには抵抗がある。いかがわしい贈り物とはいえ、贈り物には違いがない。
「じゃあ、俺がひとつもらうよ」
ランスロットは箱の隅に収まっていたいちばん地味な顔をしているチョコレートを一つ摘み上げるとそのまま口に入れた。
途端、ムートがにゃあと抗議のような声を上げる。それにワンテンポ遅れて、ヴェインが叫んだ。
「えっ?
……
あーーー!!」
「味も普通のチョコだな」
確認するようにもぐもぐと咀嚼してみると、ヴェインはランスロットの肩を掴んだ。
「ランちゃん、そんなの食べちゃダメだって!ぺってしなよ!」
「もう飲み込んでしまった」
「嘘だろ」
ヴェインに掴まれたその衝動でごくりと嚥下してしまったのだが、顔面蒼白になったヴェインにランスロットはとても指摘できなかった。
「今のところ何ともないぞ
……
あっ」
ヴェインは緊張したようにランスロットの顔を覗き込んだ。
「ランちゃん?」
「惚れ薬ってそういうことか
……
体が熱い」
体がぽかぽかしてきたと思ったら、強い酒を飲んだ時のように、胸の拍動が早くなり、かっと全身が熱くなった。それから下半身にゆるやかに血流が集まっているのを確認して、ランスロットはその薬が何だったのか正しく理解した。
「ランちゃん、どうしたの?」
「これ、精力剤だ」
ヴェインはまるでランスロットが毒でも飲み干したような悲壮な顔をしている。
「ランちゃん、なんでそんなの食べちゃうんだよ」
「強い薬じゃないと言っていたから、それに」
「それに?」
「惚れ薬なら、俺はヴェインのことが好きだから平気だと思ったんだよ」
実際多少の惚れ薬であれば、ランスロットの長年の片思いの前に霞むと思ったのだ。精力剤や催淫剤の類だとは思いもよらなかった。
酒と同じように水でもたくさん飲んで寝ていれば治るだろうか。こんなに熱でくらくらしていたら、部屋に戻る前に酔っ払いみたいに足がもつれそうだ。
「ランちゃん!」
「うん」
「ランちゃん、今なんて言ったの」
「自分の部屋に戻るから、肩を貸してくれ?」
「そんなの一言も言ってなかったよ!」
「今から言おうと思ってたんだ、部屋に戻るよ」
ランスロットが立ち上がると、ヴェインも並ぶようにすくっと起立した。そして、肩を貸してくれるどころか、ランスロットを引き止めるように抱きしめた。ヴェインの逞しい腕に囲われるとまた心臓は不思議な動きをした。
「ランちゃんは俺のこと好きなの?」
熱にぼやけ始めた頭で、やっとランスロットは己の失言に気がついた。
「知らなかったのか?」
だけど、ランスロットはいっそ開き直ったように聞き直した。これも、薬の作用によるものだろう。
ランスロットがヴェインをどう思ってるかなんて、話題にしたことはなかったけれど、なんとなく伝わっていると思っていた。他人にも察せられるくらいなのだから。
「ずっと、そうだったらいいなあと思ってたけど」
ヴェインの腕にさらに力が込められて、声がもっと近いところで響いてくる。ヴェインの吐息が耳にかかるだけで、背筋がぞくぞくして甘く痺れるので、その言葉の意味を深く考えることまではできなかった。
「ランちゃん、大好きだよ」
ぼんやりしているランスロットにヴェインはいちばんわかりやすい言葉でそう告げた。
ランスロットが返事をする前に、唇に柔らかなものが押し付けられる。ランスロットのものより肉厚な唇だった。密着した胸からはどくどくとヴェインの鼓動が伝わってくる。あまりに長い時間それが続けられるから、息が苦しくて、腕から逃れるように体をゆするとヴェインの唇はやっと離れていた。
息を整えながらランスロットが顔を上げる。するとヴェインの視線と真正面からぶつかった。
ランスロットの呼吸は乱れに乱れて、顔は馬鹿みたいに熱くなって、生理的な涙まで浮かんでいる。酷い顔をしているだろうと袖口で顔を乱暴に擦ると、ヴェインがそれを優しく制した。
その瞳はいつもの明るいみどり色をしていたけれど、その奥でぎらぎらと燃えていた。怪しい薬を飲んだのはランスロットなのに、ヴェインの方が熱に浮かされているようだ。
自然とランスロットが半歩後ろに下がるとテーブルにぶつかった。ヴェインはそれを追いかけるようにランスロットにもう一度キスをした。
そして、そのままヴェインの手がするりと、シャツの下から入り込んでくる。皮膚の厚い大きな手で優しくさすられると、触れたところがじんと痺れた。
「ランちゃんのお腹、すごくあつい」
「そんなふうに触ったら、だめだ」
「なんで?」
だめだと言っているのに、ヴェインの手は奔放に動いた。脇腹をなでられ、胸をやわやわと揉まれると、電流が流れたみたいに全身がびりびりと痺れた。後ろにテーブルがなかったら、まともに立っていることもできなかっただろう。
「変になる」
「変ってどんなふうに」
「どんなって」
尋ねたのはヴェインなのに、ランスロットに答える隙は与えられず、絶えずキスが降り注いでくる。いやらしさは感じられない、慈しむようなそんなキスなのに、ヴェインの右手はランスロットのはだかの胸をいじくっている。
薬の作用で火照っていた体は、さらに熱が上がって全身にじっとりと汗をかかせた。期待で全身が溶けてしまいそうだ。
鼻から抜ける自分の声がどんどん大きくなる。いよいよ限界が近い。
そう思ったとき、ムートがにゃあにゃあと猛然と鳴き始めた。やきもちを焼いているときの声だった。可哀想に思いながらも、お互い離れることができずにいると、ムートはヴェインの背中に飛び乗ってきた。
不意をつかれたヴェインがランスロットから少し体を離すと、ムートは満足したようににゃあんと鳴いて、机の上に降り立った。机の上にはチョコが広げられたままだったが、ムートはすっかり興味を失ったようで、リビングの定位置であるクッションの上に戻って行った。
小休止を与えられると、ランスロットは自分の体から怪しい熱がすっかり消え去っていることに気がついた。強い薬ではないというのはどうやら本当らしい。でも、それをわざわざヴェインに伝えるつもりはなかった。激しい動悸は無くなっていたが、心臓はまだどきどきしている。頬も熱い。
「ランちゃん、場所変えた方がいいかも」
それに何より、ランスロットの指先をヴェインがぎゅっと握ってきたからだ。
リビングを立ち去る前に、テーブルに広げられたままのチョコが目に入った。
「ムートにいたずらされる前に、このチョコ処分しないと
……
」
「すぐに捨てなくてもいいんじゃない」
ひとつだけ欠けた美しく並んだチョコレート。
ヴェインはその包み箱にふたをすると、さっさと戸棚に閉まった。
なぜだかヴェインの考えてることが伝わってきて、ランスロットは赤い頬のまま俯いた。
かくして、カリオストロの贈り物はヴェインの手元に渡ったのだった。
2025.2.25
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