九條もぐ
2025-03-01 10:00:00
12676文字
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桜と美しいきみ

伊剣WEBオンリー展示品①
カルデア軸の伊剣が花見デートすることになるが、とある人物が一緒にやろうと言い出し…

※剣は性別不詳ですが、女物の着物を着るシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
※マスターはぐだ男です。
※色んな鯖が出てきますが、全員口調迷子です。

 漂白化した地球には四季がないだが、暦的には春を迎えようとしている。春の季節になると桜が咲き誇り美しい風景を堪能できる。そんなある日、タケルはマスターである少年の部屋に訪れこんな話をしていた。

「ハナミ?ハナミとはなんなんだ、リツカ」
「やっぱ知らないか桜ぐらい、分かるよね?」
「うむ、解るぞ」
「ちょうど桜が満開になった時にねお弁当とか持って桜を見ながらやる宴みたいなものだよ」
「ふむふむ

 相変わらず知らないことが多すぎるタケルは、同じ日本生まれのマスター・立香から花見のことを聞かされていた。というのも立香がタケルの隣で「ああ花見がやりたいなぁ」と独り言を呟いたのがきっかけだ。

「まだカルデアに来る前は、家族とよくやってたからさぁ桜が咲く時期にしかできない宴だから」
「そうなのかイオリは、知ってるのか?」
「どうだろ花見自体は平安時代から行われてるらしいけどああいった事に興味なさそうじゃん、伊織」
「それはあり得るな」
「でしょ?」
………

 立香以上に伊織の性格を知るタケルは、苦虫を噛み潰したような表情を浮べた。クリスマスなど知らない行事も多いが、剣のこと以外無頓着な伊織は興味ないことは知らないのだ。そんな複雑そうな表情を浮べたタケルを見た立香は、ニヤニヤといたずらっ子のような表情を浮べた。

「はは~んさては、伊織と花見したいのか〜?」
「なっ!?」
「どうなの〜?」
「っあ、当たりだ」

 タケルは立香の言葉にタケルは顔を真っ赤にさせた。伊織の前では絶対に怒ったり拗ねたりするが流石に立香の前では素直に白状した。

「ぐぬぬバレてたとは」
「いや、バレバレだって〜」

 タケルはぐぬぬと唸るも、立香に更に突かれ茹でタコのように顔が真っ赤になる。タケルは伊織と色んなことを体験したいから、季節の行事ごとを参加しているのだ。しかし一つだけ不安があった。

「い、イオリと、色んなことを体験したいただ、その
誰かに邪魔されたくない、って訳だね」
「っうん」

 花見などの宴となると、他のサーヴァントが伊織を取り囲むのではないかという不安があるのだ。やはり恋人と二人っきりで楽しみたいのが本音なのだろうと思った立香は、タケルの肩をポンと叩いた。

「なら、俺がなんとかしてあげるから伊織を誘ってきなよ!」
「よ、良いのか?これは、私の
「ワガママだなんて思ってないよ!邪魔されそうになったら、俺が何とかするさ」
「そうかありがとう、リツカ!では、イオリを誘ってくる!!」
「うん、いってらっしゃーい」

 タケルは可愛らしい笑顔を浮べたながら立香に頭を下げ、伊織を誘うためにそのまま伊織の部屋へと向かった。立香は楽しそうにするタケルを優しく見送り、色々と準備するために動き出したのだった。

 ◇

「イオリ〜」
セイバー、戻ってきたのか?」
「うむ!イオリも、今戻ったのか?」
「ああ、今しがた部屋に戻ったばかりだ」

 伊織の部屋に着いたタケルは、先ほどまでシュミレーションルームで鍛錬していた伊織が部屋にいて安心した。タケルは少しソワソワしながら伊織に近づいた。

「どうしたセイバー随分と落ち着かないようだが」
「イオリ、一つ聞きたいのだが
「なんだ?」
「きみは、ハナミというのを知ってるか?」
「ハナミああ、花見か。無論だ、むしろ桜が咲いた頃によくカヤと一緒にやっていたよ」
「そう、だったのか
(あの子なら、あり得るな。鍛錬ばかりに明け暮れるイオリに春の風情を感じさせたいという気持ちが)

 伊織の妹・カヤの兄想いの性格をよく知るタケルは、カヤに引っ張られながら花見へ向かう伊織の姿が簡単に想像できた。タケルは伊織の目をまっすぐ見ながら口を開く。

「イオリ私と、ハナミをやらぬか?」
「どうしたんだ急に」
「私は、ハナミというのを知らぬ。今日、リツカから初めて聞かされたからな
なるほど、それでやってみたくなったのか?」
「うむだが、私はきみと二人だけでやりたいんだ!」
……

 伊織はタケルの顔を見る、どことなく顔が赤くほんのりと目を潤ませている。これはいわゆる花見という名の逢引の誘いだ。普段であれば恥ずかしくてできないのに、今は恥ずかしさを堪えながら誘ってくれてるのだ。こんなにいじらしくて可愛らしいお誘いを断ることなど、伊織にはできなかった。

では、食堂の者に握り飯や団子辺りを拵えて貰わないとだな」
「えっ、良いのか?」
「当たり前だ、普段このような誘いをしないお前からの誘いだ。無下にできるはずがない」

 伊織は立ち上がり、タケルに近づいて頭をポンと優しく撫でる。

「それにお前が生きていた時代には花見という風習はないしな大いに花見を楽しんで貰わないとだな」
「イオリっやったー!!」

 タケルは両腕を上に上げながら喜びを体現していた。そのまま伊織に抱きつき上目遣いで伊織を見ながら「大好きだそっ、イオリっ!!」と微笑みながらそう云った。伊織はそんなタケルを直視できずその上で顔まで赤くし、「解った解った」と云いながら頭を撫でてやった。

 *****

チュチュン、その事ならこの紅閻魔がご主人からの依頼を承っているのでち」
「いつの間に」
「リツカのヤツ

 伊織とタケルが花見に持って行くものを食堂班に準備してもらおうと食堂に行くや否や既に立香から依頼を受けた紅閻魔が、色々と準備をしていた。

「タケル様は初めての花見ということで腕によりをかけお弁当を作ってるでち!」
「わざわざすまないな、女将殿」
「構わないでちよ!」
「本当にありがとう、ベニエンマ!!」

 出来たら部屋に届けると云われた伊織とタケルは、一旦部屋に戻ることにした。

「ふふふっ
「楽しそうだな、セイバー」
「当たり前だ、イオリと初めてのハナミなのだぞ?楽しみで仕方ないのだ!」
「まったく
(だが、楽しそうで何よりだな)

 初めての花見が花見デートというのもあり、タケルは嬉しそうに前を歩く。よほど嬉しいのかアホ毛もぴょこぴょこと揺れている。

「おやおや〜?これはこれは、宮本伊織殿とヤマトタケル殿ではないですか〜?」
「謙信殿
「はいっ、越後の軍神・謙信ちゃんです!」

 伊織とタケルの目の前に現れたのは、ルーラーの上杉謙信。伊織は何度も手合わをしてもらってるがタケルはこの取っつきにくい謙信が苦手だ。先ほどまで楽しそうに微笑んでいたタケルから笑顔が消え、何やら警戒している。

「な、何用だ、ケンシン」
「まぁまぁ、そんなに警戒なさらないでくださいよ〜。お二方これから宴をなさるようだと聞きましてね
「う、宴?」
「何を云っておる!私とイオリはハナミをするだけで

 タケルは怪訝そうな表情で謙信に噛み付くも、謙信は気にもせずノンノンと云いながら指を振った。

「何を仰るのやら花見とて、立派な宴なのですぞ?」
「むぅ~」
「落ち着け、セイバー」
「これを聞いて新撰組の面々も混ざりたいと申していたのですが何しろ、あのヤマトタケル殿が絡むからと言ってという訳で謙信ちゃんが直接参った次第です!」
「謙信殿もしや、花見を一緒にしたい、ということか?」
「なっ!?」

 伊織は謙信が言いたい事を理解したのか、それを謙信に問う。しかしタケルからしたらとんだ邪魔者でしかないのだ。謙信は笑顔で「流石は伊織殿!!お話が早いですね!」と大喜びだ。

「そういうことですので、ここは私らも一緒に
「駄目だ駄目だ!!わ、私はイオリと二人っきりでハナミがしたいのだ!!リツカにも許可を貰っておる、きみたちはきみたちだけでやってくれ!!」
「そんなつれないことを言わないでくださいよ〜、タケル殿はもう少し交流を深めた方がよろしいですよ?皆で酒を飲みながらパーッと語りましょうよ〜」
「余計なお世話だ!!」
「落ち着けセイバー、別に一緒に来たって花見には変わりないだろ?」
「っ!!」

 伊織の無神経な言の葉にタケルは傷つき、今にも泣き出しそうなぐらい涙が溢れていた。伊織からしたらただの花見かもしれないが、タケルからしたら恋人との逢引と同じだ。

らぬ」
「どうしたセイ
「ハナミはやらぬ!!きみは勝手に此奴らと行けば良いだろっ!!」
「なっ!?」
「へっ、そんな泣くほどですかっ!?」

 タケルの言の葉に鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になる伊織と謙信。部外者の謙信からしたらたかがそんなことでとなるが、タケルは違ったのだ。タケルは涙が溢れないよう我慢しながらまた叫ぶ。

「私はっ私はっ!!イオリとハナミでぇとしたかっただけなのにっ!!」
「っ!!」
「バカッ!!」

 タケルはバカと叫んだ瞬間、涙が溢れてしまいその場から走り去ってしまった。伊織は声を掛けることができず、そのまま立ち尽くしてしまった。謙信もタケルの言の葉に「えっデート?えっ??」と戸惑いの声を上げていた。そんな時

「うわぁ、最悪じゃんマスターさ〜ん、コイツらヤマトタケル泣かしたぁ〜。ぐっ様ぁ〜、コイツらどうしますぅ〜」
「「えっ」」

 この気怠げな喋り方はと思った伊織と謙信は同時に振り向く。ドン引きした様子の徐福と呆れた表情を浮べた虞美人そして、般若のような表情を浮べた立香が立っていたのだ。

「まっ、マスター!?」
「ひぇっ、めちゃくちゃ怒ってませんか!?」
徐福ちゃんと先輩はタケルを追いかけて」
「はぁ〜い」
「このバカの処理はお前に任せるわよでも

 虞美人はズカズカと伊織の隣まで行きパァアンと響き渡るような平手打ちをかました。

「っ!?」
「お前もいい加減にしなさいよ!!タケルがどんな思いをしてるのか分かってる!?」
「っ
「タケルからしたら、たかが花見じゃないの!!大切な恋人と過ごす大切な時間なのよ!?お前とタケルのために紅ちゃんが丹精込めてお弁当作ってくれてるのよ、コイツらと酒飲むためじゃないの!!いい加減にタケルの気持ちを考えなさいよ、この剣バカ朴念仁!!」
「そーだ、そーだ」

 虞美人は怒りを伊織にぶつけるだけぶつけ、徐福を連れタケルを追いかけて行った。そして般若の顔の立香は伊織に近寄り今度は立香から腹に強烈な拳を一つ入れられた。

「ぐふっ!?」

 伊織は腹を抱えながらその場に倒れ込む。謙信も立香の気迫に怯えているが謙信には強烈な片手チョップを頭に入れた。

「いっっったぁああっ!!」

 謙信も情けない声をあげながらその場に座り込む。怒りMAXの立香は誰にも止められないそれはここに居るサーヴァントが全員知ってることだ。

伊織」
「は、はいっ」
「俺、何回も言ってるよね?タケルを泣かすなって
………

 伊織はダラダラと冷や汗を流しながら黙り込むしかない。これまでも伊織の朴念仁発言でタケルを泣かしてるため、言い返すことができないのだ。何も言えない伊織を庇うように謙信が口を開いた。

「あのっ、マスタータケル殿はもっと交流を深めるべきかとほ、ほら、あのお方は人付き合いが苦手ですし

 確かにヤマトタケルは人付き合いが苦手なサーヴァントだ。気心知れた伊織や正雪ならまだしも、他に対しては基本的に無愛想で近寄るなオーラを放つ。虞美人は似た境遇があるということで意気投合し、良き相談相手になっているがそれ以外はからっきしだ。しかし、そこが問題ではない。タケルは伊織と花見デートがしたいのを知ってるから、誰も邪魔するなと警告したのだが結果これだ。

俺言ったよね、タケルが伊織と何かしたいって言う時は他言無用だって」
はい」
「俺せっかくカルデアの皆と花見計画してたのにもちろん、伊織とタケルは別行動で!!」
「「え゛っ」」
何をしてくれんだ、このおバカ者がぁああ!!」

 廊下中に普段温厚でぶちギレする事のない藤丸立香の怒号が響き渡り宮本伊織と上杉謙信の公開処刑の幕が開かれたのだった。

 ◇

 一方のタケルは、カルデアに来た時に与えられた自室に逃げ込みえぐえぐと泣いていた。その際にフォウくんが付いてきたようで、タケルの肩に乗り泣いているタケルの頬をペロペロと舐めていたのだ。逃げ場など分かっていた虞美人はタケルの部屋に着いてすぐにタケルを慰めることにした。

「いい加減に泣き止みなさいよ、ほら鼻水」
「ふーん」
「フォウ(泣き止んでよ、タケル)」

 廊下で外の様子を伺っていた徐福は、顔面真っ青になりながら部屋に入ってきた。

「うわぁマスターさんめちゃくちゃぶちギレしてますよぉあれはマシュちゃんでも止められないかなぁ」
「無理でしょうね、普段キレないヤツがキレるととんでもないからね」
「っひっく」
悪いけど、宮本伊織に一発平手打ち入れたわ。流石に無神経すぎ」
「っほんとはっ、イオリとっ、ハナミっ、ひっく、したかったのにぃバカぁ」
「もう泣かないの!分かってるから

 一向に泣き止まないタケルの頭をよしよしと撫でるしかできない虞美人。徐福もタケルに駆け寄り小さくなる背中を擦るしかできないでいた。

 虞美人らが部屋に来て数分ぐらい経つが、タケルは一向に泣き止まないでいた。よほど伊織の言の葉にショックを受けているようで、泣き止むことができないようだ。

「ひっく、どうせイオリはっ、っく、わたしのことなどっ、どうでもっ、いいんだっ、ひっく」
「それって本人がそう言ったとか?そんなことしたらマスターさんの逆鱗に触れるだけなのにぃ?」
確かに後輩がバーサーカーになって暴れるだけね。とにかく、少し落ち着きなさいよアンタは辛い片想い期間があったから自信ないかもしれないけど」

 タケルの片想い期間はまさに盈月の儀の最中からで、カルデアに来て周りの支えがあり伊織と両想いになった。伊織と二人で色んなことがしたい、だから邪魔して欲しくなかったのだ。だと云うのに、空気を読まない謙信らによって邪魔され伊織のあの発言だ。自信をなくしてしまうのも云うまでもないのだ。

「おーい、いるかー?」
「ふぇ?」
「この声は
「セタンタだ、マスターからの頼まれごとで来たんだ」

 泣き止まないタケルを慰めてる時にセタンタが訪問してきた。よく伊織とタケルをからかってはいるが、伊織に色々と忠告を入れてくれている一人だ。タケルの代わりに徐福が部屋の扉を開けると、何やら桶らしきものを持ったセタンタがいた。

「あーあ、こりゃまた派手に泣いてんじゃねぇか。目が真っ赤だ」
ご覧の通り泣き止まないのよ」
「だと思ったから水を入れた桶とタオルを持ってきて正解だったな。これでまず目を冷やしな」

 セタンタは近くの机に桶を置き、タオルを水に浸し固く絞ってからタケルに手渡す。タケルはぶっきらぼうにありがとうと云ってタオルを受け取り、目元に押し付けた。

「まったくあの呑んべぇ連中め空気読めなさすぎだろあっ、新撰組連中は俺とアーサ王とシャルルマーニュで絞めといた」
「で、上杉謙信は未だに後輩にシバかれてるという訳ね宮本伊織と一緒に」
「伊織なら紅閻魔の女将にこっ酷くシバかれてたわマジで斬りかかるぐらいにな」
「紅ちゃんを怒らせたのね
「そんな事より、マスターさんの用件ってなんなんだよ」
「これじゃあ用件どころじゃねぇよ、まず泣き止ませないと動けねぇわ」

 徐福の疑問にセタンタはタケルが泣き止まないと動けないと云った。どうやら何処かに連れてこいとのことらしい。

「っハナミはしない」
「落ち着けって、元々マスターはあの呑んべぇ連中が騒ぐだろうからカルデア全体で花見大会しようぜって言ってたんだよ。もちろん、アンタと伊織は完全別行動でな」
へっ?」
「だっていうのに、あの呑んべぇ連中がマスターがいなくなった瞬間にバカ騒ぎして、上杉謙信が「なら私が伊織殿らに交渉してきましょう!!」とかほざいてよ
「それを徐福経由で後輩の耳に入ったから私らが追いかけて来たって訳よ。元々後輩はアンタ達の花見デートを邪魔しないよう釘刺してたのよ」
そう、だったのか」

 タケルは立香がなんとかするから伊織を誘ってこいという言の葉を思い出す。立香はちゃんと策を講じていたのだが元々新撰組面々と謙信は立香のタケルに対する待遇には不満を持っていたらしい。立香のお人好しの性格を考えれば理解できるのだが、というのが他のサーヴァントの考えだ。

「あとマスターから伝言タケルは周りの事など気にせず伊織と花見デートしてこいってよ。せっかく準備してくれてんだし、気にせずしてきなよ」
「でも
「伊織はあれだけヤバい奴らにシバかれてるから、大丈夫だって!セイバーに謝りたいってボヤいてたし」
「ボヤくくらいなら泣かすなよ
「ホントに
「フォウ(はぁ)」

 セタンタの言の葉に徐福が正論をぶち撒け、虞美人もフォウくんも呆れた表情を浮べた。タケルはセタンタらの言の葉を聞いて、やっと落ち着いてきたのか涙は止まっていた。

「んで、どうするのタケル」
「何がだ?」
「宮本伊織と花見デートするの?」

 虞美人の問いにタケルは考える。花見というものを知らないから伊織と楽しみたい気持ちが消えていないので、タケルの返答は「したい」だった。

「決まりね」
「けど、目が真っ赤だぞ?」
「うわぁ冷やしてこれって、結構ヤバいじゃん」

 そう、先ほどまで散々泣いていたのでタケルの目元は真っ赤。明らかに泣き腫らした顔なのだ。

「もうちょい冷やしてからハベトロットのとこに連れていくしかねぇなマスターから連れてけって頼まれてるし」
「なるほどね最悪、化粧で誤魔化すしかないわね」
「ぐっ様ぁ少し無謀だと思いますけど〜?」
「どうにかなるわよ

 こうしてタケルを部屋から連れ出したのはそれから30分後のことだった。まだ目元が赤いが、どうにか誤魔化しが効くほどまで赤みが引いたのでそのままハベトロットが待つ衣装工房へ連れて行ったのだった。

 *****

「待ってたよって目元真っ赤じゃないか!?」
「これでもマシになった方よこれよりもっと酷かったんだから」
「「うんうん」」

 工房でタケルらを待っていたハベトロットはタケルの顔を見るなり目元の腫れを見てひっくり返る勢いの大声を上げた。だがここでうだうだしている暇はないためハベトロットは奥から着物らしきものを持ってきた。

「これって女物の着物じゃない」
「うーん、これでも結構悩んだんだよ?タケル性別不詳だしさ
「まぁ、確かに」
「えっ、性別不詳ぉ!?美人だから女の人かと思ったマシュちゃんも美人って言ってたし」
「オイオイ

 などとタケル本人を放置して呑気に話し込むカルデア一行。すると「失礼する」と凛とした声が工房に響き渡る。タケルの顔馴染みである由井正雪だった。

「マスターからの言伝で参ったのだが
「ああ、正雪。今さっき来たばかりなんだ
「そうだったのか
ユイ」
「っ、たっ、タケル殿!?その目元は
「遅れた理由がこれでよほんの30分前まで泣いていたんだよ」

 正雪も泣き腫らしたタケルの顔を見るなりあたふたと慌て始めた。セタンタも遅れた理由を正雪に説明すると、正雪は頭を抱えた。

伊織殿、またそのようなことを」
「あの王様コンビは今度シバくってハッキリ言ってたな」
「伊織殿の件はさておき、マスターがまだかと心配しておる。伊織殿も心配しているとのことだ」
イオリ」
「ほらタケルはそんな顔をしない!さぁ、着替えるよ」

 タケルはハベトロットの小さな手に引っ張られ奥の更衣室に連れて行かれた。しかし、小さなハベトロットでは着物の着付けが難しいようで正雪も手伝うことになった。

 更衣室に連れられて数分後、タケルは白と薄い水色を基調とした着物姿で出てきた。性別不詳ではあるが、整った容姿のお陰で由緒正しき武家の娘のような姿だった。

「よく似合ってるじゃない」
「うぅ動きにくい」
「致し方ない、着物はそういうものなのだ」

 よほど動きにくいのか、タケルは正雪に支えられながら歩いていた。普段の姿が動きやすい格好なため苦労してるようだ。

「あとは髪型と化粧ね徐福、手伝いなさい」
「はいっ、ぐっ様の命ならなんなりと!!」
「だっ、大丈夫なんだろうな
「下手なことはさせないわよ、とりあえずそこに座りなさい。あと髪留めも解いて」
「う、うむ

 タケルは不安げな表情を浮かべながら椅子に腰掛ける。その際に髪留めを解き、三つ編みを解いて髪を下ろした。虞美人は櫛で髪を丁寧に解いて、後ろで纏め上げる。解けないよう白のリボンで髪を留め、タケルの第二再臨時の髪型にした。

「うん、こっちがしっくりくるわね」
「バッチリだね!あとはその目元だね」
「ちょっと顔を触るわよ、目を閉じておとなしくしなさいよ」
「うん

 タケルはおとなしく虞美人の指示に従い目を閉じる。顔に何か塗られてる感覚があるが、気にしないようにした。そして「開けていいわよ」と声がかかり、目を開けると目の前には鏡がありほんのり化粧を施された自分の姿が映された。

……
「目元の赤みは何とかなったわね」
「性別不詳ってのが嘘に思える出来栄えだな」
「すごいあのお侍さん、こんな美人を毎回泣かしてるとか趣味悪いなぁ」
「あはは
伊織殿にも講義を受けさせるべきか」

 タケルの姿に各々の感想を述べるが、タケルは黙ったままだ。きっと伊織の反応を考えているのだろうと察した虞美人はタケルの額に軽くデコピンを入れた。

「いてっ、何をするグビジン」
「考えても仕方ないじゃない、今はデートのことを考えなさい。紅ちゃんも張り切ってたし」
うん」
「それじゃあ、シュミレーションルームに向かうわよ」
「やっとここまで来たかマスターも待ちくたびれてるだろうから、急ごうぜ」

 タケルは虞美人と正雪に支えられながら花見会場になっているシュミレーションルームへと向かったのだった。

 ◇

「やっと来たってめっちゃ綺麗!!」
「マスターに言われた通り、タケルに似合いそうな着物を見繕ったからね〜」
「さっすがハベにゃん!!でも目がほんのり赤いや」
すまないリツカ、私の」
「だからワガママだなんて思ってないよ、だから心配しないでよ」

 会場に着くと立香は外で待っていた。立香に謝ろうとするタケルに立香は唇に人差し指を立てて止めた。

「さて、みんな待ちくたびれてるから始めよっか!」
「おうよ!!」
「私はタケルを連れて行くわ、奥の方にいるでしょアイツ」
「うん」
「じゃあ、行くわよ」
「うむ

 タケルは立香らと別れ、虞美人と共に伊織の元に向かうことになった

 一方の伊織は大きな桜の木の下で胡座をかきながらタケルを待っていた。横には紅閻魔が伊織とタケルのために用意した弁当があった。

(セイバー)

 伊織もタケルの誘いを解ってはいたのに、謙信につられて失言をしてしまったことを反省していた。立香と紅閻魔にこっ酷く叱られ頭を冷やしたのだがこのまま来なかったらどうしようかと考えていた。

 その頃、タケルは虞美人に連れられ伊織の近くに来ていた。

「ここからはアンタ一人で行きなさい」
……
「まだ不安なの?」
うん」
また変なことを言われたら後輩に言いなさい、その時は一発酷い目に合わせて貰った方がいいわ」
相解った」
「頑張って、タケル」

 虞美人は不安げなタケルの背中を押し、その場を後にした。タケルは意を決して伊織の元に歩み寄り

「っイオリっ!!」

 と伊織の名を叫んだ。伊織もその声に反応し顔を上げると白と薄い水色を基調とした綺麗な着物を身に纏ったタケルが目の前にいた。

「っセイバー

 伊織は立ち上がり、タケルを見た。タケルはおぼつかない足取りでゆっくりと伊織の元に歩み寄る。伊織も慣れない格好をするタケルに歩み寄る。

「イオリ

 タケルは伊織に何かを云いかけた時だった慣れない格好が故に足が絡まり、タケルはそのまま地面に倒れかけた。

「っ!?」
「っ、セイバー!!」

 タケルは倒れると思って目を固く閉じた。しかし、地面に倒れることなく何かに支えられたのを感じたタケルは目をゆっくり開く。しっかりとした伊織の腕がタケルを支えていたのだ。

「大丈夫か?」
「っう、うん

 タケルは思わず顔を赤くしてそっぽを向く。伊織も間近でタケルの顔を見てほんのりと頬を赤く染めた。伊織はゆっくりとタケルを正面に立たせ、赤くなったタケルの頬に触れこちらに向かせた。薄っすらと化粧の施された顔は、未だに赤いままだった。それでも着物姿と合わさり美しくも愛らしいと思った。

よく似合ってるよ、セイバー」
「っ、そ、そうか
「セイバー先刻はすまなかった」
「えっ」
「お前から誘ってくれたのに無下にするようなことを云って
「っ、ほっ、本当だぞ、私は悲しかったんだからな」
すまない」
「でも許す、私もあんなことを云って、すまなかった
「セイバー

 伊織はタケルの目元に触れた。化粧で誤魔化してはいるがまだほんのり赤いかなり泣かせてしまったと深く反省した。するとふわっと少し強めの風が吹き桜が舞い上がる。大きな桜の木から桜が舞っていて幻想的な風景にタケルは心奪われていた。

いつ見ても、桜は綺麗だな」
「ああ
(桜を見つめるお前も美しいよ)

 桜を見つめるタケルの横顔があまりにも儚く美しく見えた。伊織はそのままタケルを抱きしめた。

「っ、イオリ?」
「セイバー好きだ」
「っうんっ、私も、好きだぞイオリ」

 タケルは伊織の言の葉が嬉しくなり、目を潤ませる。そんなタケルが愛おしくてたまらない伊織は、自然とタケルとの距離が縮まる。タケルは何されるのか理解したのか、そのまま目を閉じ伊織からの口づけを受け入れたのだった。

 *****

 しばらく自分たちの世界に入っていた伊織とタケルは、タケルの腹の虫によって現実に引き戻された。伊織は苦笑いを浮かべながらタケルの手を引き桜の木の下へ連れていきそのまま腰掛けた。伊織は紅閻魔から渡された弁当の封を解き、弁当箱を広げた。

「うわぁ!!」
「これはまた

 おにぎりに卵焼き、唐揚げなど定番のものが敷き詰められていたがおにぎり以外はカルデアに来てから初めて口にしたものばかりだ。どれも伊織とタケルがお気に召したおかずばかりで、タケルの目はキラキラと輝いていた。

「早く、早く食べよう!!」
「解ったから」

 伊織は取り皿にタケルの食べたいものを一つずつ乗せ、タケルに手渡す。伊織も取り皿に食べたいものを取り、そのまま二人は手を合わせ食事を開始した。

「う〜〜〜ん、美味いっ、やはりベニエンマのお手製ベントウは格別だな!!」
「そうだなどれも俺たちが気に入ったものばかりなのも驚いたが」
「ふふっ、それだけ私たちのことをよく見ておるのだろう!」

 タケルは幸せそうな表情を浮かべながら弁当を堪能していた。先刻まで泣きぐじゃっていたとは思えないタケルに優しい笑みを浮かべながら見ていた。するとタケルは伊織の目の前に卵焼きを差し出してきた。

「セイバー?」
「あーんっというヤツだ!」
「いや、自分で食べられる
「遠慮するでない、ほらあーん」
「あ、あーん

 いつの間に覚えてきたのだろうと思ったが、受け入れるしかないと思った伊織は卵焼きを頬張った。ほんのりと甘さがあり、出汁の風味がきいた卵焼きが口いっぱいに広がる。タケルは満足げな笑顔を浮かべながら「美味いか?」と聞いてきた。伊織は頷くと、タケルは更に嬉しそうな笑顔を浮かべていた。やられっぱなしは癪なので、伊織は唐揚げを一つ取り今度はタケルに差し出した。

「えっ!?」

 タケルはやられると考えてなかったのか、顔がまた真っ赤になっていた。

「お前だってしてきただろ?」
「うぅ
「ほらあーん」
「っあ、あーん

 意地悪な笑みを浮べた伊織に押されたタケルは、顔を赤くしたまま唐揚げを口の中に入れた。恥ずかしさのあまり味がよく分からないでいた。

「美味いか?」
「う、美味いが結構、恥ずかしいな
「はははっ」

 こんな風に花見をしたのは初めてだった伊織は、新鮮な気持ちだった。こんな風に花見をするのも悪くないて思ったのだった。

 弁当を堪能した二人は、桜の木に寄りかかりながら桜を眺めていた。

花見、どうだった?」
うん、とても良いものだった」
「それは良かった」

 伊織は静かに重ねられていたタケルの手を優しく握りしめた。伊織に手を握られタケルも一瞬驚くが、そのまま握り返した。

「イオリまたハナミをやろう」
「ああ今度は、こうはならぬようにするよ」
約束だからな!」

 タケルは頬をほんのりと赤くしながら、伊織に微笑む。伊織もタケルの笑顔につられ優しい笑みを浮かべたのだった。

 ◇

 ─花見デート翌日、由井正雪の部屋にて─

「あのもう、許してください正雪先生ぃ」
「何を云っておる!貴殿らは我がマスターの御心を理解されておらぬ不届き者だ!!貴殿らの行いは我が信念に反する、この由井正雪がしっかり性根を叩き直してやろう!!」

 今回の騒動の発端となった新撰組一同と上杉謙信は、どうやら正雪の怒りを買ったようで正雪からみっちりと武士の心得を叩き込まれていた。ちなみに

「しょ、正雪なぜ、俺まで

 タケルを泣かした伊織も一緒だった。タケルは飽きれた様子で正雪の後ろから見守っていた。

「宮本伊織殿貴殿は何度ヤマトタケル殿の御気持ちを踏み躙れば気が済む!!」
反論の余地も、ない」
「今後このような事が起きぬよう、貴殿も私の鍛錬を受けてもらうぞ」
……

 伊織は苦虫を噛み潰したような表情だった。その時にタケルの方を見たが

「少しは反省するのだな、剣バカ朴念仁」
「っ薄情者ぉ」
「無駄口を叩くでない!!」
「「「「ひぇええええ」」」」
「ぐぅ
ぷぷぷっ、ざまーみろ」

 こうして由井正雪からのありがたい講義を受けた新撰組と謙信は、二度と伊織とタケルのことには口出さないと心に決めた。そして伊織は数日間、タケルの機嫌取りに奮闘することになったのであった。