yoshi_R_K
2025-02-25 07:37:02
3922文字
Public あんスタカプなし
 

あの日見た偶像

2020.9.23にPrivatterで投稿していた燐音と千秋の話の呼称を修正しました。
カプなしです。

過去捏造。全部捏造。

「もしかしててめぇら、失敗したことがねぇのか?」
 己すらも救おうとするヒーローに、責め立てるように声を荒げる。
 もはや八つ当たりだった。アイドルというものに夢を見て裏切られて、都合のいい駒だと利用されて。それでもアイドルを捨てきれなかった自分と、目の前のこいつと何が違ったのだろうか。
「世界で一番愛するものに拒絶されたことは?逆に世界で一番愛するものを踏みにじっちまったことは?」
 赤い服を纏った彼は、ずっとこちらへ合わせていた視線をすっと下げて、傍にいた彼の相棒でもギリギリ聞き取れるかというレベルの声量でぼそりとつぶやいた。
……あるとも」
 その姿に、いつか見た眼鏡の少年が重なって見えた。


◆◆

 二年前、事務所に入り、正統派アイドルとして活動していたころ。業界に入ってアイドルの表も裏も見せられて、それでもアイドルが好きな気持ちは変えられなくてそのギャップに疲れていた。
 あまり治安が良くないと噂されている繁華街を一人で歩いて、溜息を吐く。弟を一人故郷に残してまで飛び出してきたのに、まるで結果が残せていない。そんな己に反吐が出た。
 一時期は有名だった夢ノ咲も、どんどん腐っていっていると聞く。もうこの業界は衰退の一途をたどっていくのだろうか。
 もう一度溜息を吐こうとしたとき、誰かの歌声が聞こえた。こんなところで聞こえるには少々違和感のある、元気のいい歌声だ。その声を辿ると、不良のたまり場として名高い地下ライブハウスにたどり着く。
 この声の主はどうしてこんなところで歌っているのだろうか。好奇心に任せてライブハウスへと降りていく。
 そこでは、一人の眼鏡の少年がステージに立って歌い、客席で不良のなりそこないみたいな奴らが囃し立て、馬鹿にして笑っていた。
 彼らはこの近くにある夢ノ咲の制服を着ているから、きっとアイドルなのだろう。だというのに、気の弱そうな少年をステージに立たせてそれを馬鹿にして笑っている。
 やはりアイドルはもう落ちぶれてしまったのだろう。落胆しながら、ステージで歌い続ける少年へと視線を向ける。
 彼は、独りで、しかもこんなに馬鹿にされているというのにアイドルらしい歌とパフォーマンスを披露している。決して上手いわけではない、しかしどこか惹かれるような歌声だった。
 ステージの上ではアイドルだと言わんばかりに歌い続け、客を楽しませようと精一杯になるその姿は、過去に憧れたアイドルそのものだった。
 彼が生まれたのがこの時代でなければきっともっと多くの観客に囲まれるアイドルになっていたであろうに。そう思うとやるせなくて、ただひたすらに歌い続ける少年を見る。
 一瞬、目が合った。部外者が入ってきたことに気が付いたのだろうか、彼はにこりと笑って控えめなウインクをこちらに向けた。
 ああ、こいつは本気でアイドルをやっているんだ。そう思わされてしまった。だって、必死にアイドルにしがみついている己と同じだったから。

 そのあと、同じ制服の誰かが乱入して観客もみんな混ぜこぜの騒ぎになってすぐに立ち去ったが、眼鏡の奥に見えた瞳が焼き付いて離れなかった。


 それから一年。結局大して売れなかった燐音は業界から干されて、仕事もなく街をうろついていた。世の中はクリスマスに染まり、年末にはアイドルの祭典であるSSも待ち構えている。
 ニキはバイトに出かけてしまったし、手持ちの金もない。街中にひしめくクリスマスに浮かれる気にもなれず、寒空の下ポケットに手を入れながら歩いていた。
「ご通行中の皆さん!メリークリスマス!」
 そんな中、突如響いたのは大きく元気のいい声だった。寒さも吹き飛ばしてしまいそうな声に思わず顔を上げると、赤いサンタの衣装を身にまとった青年が声を張り上げていた。
 なんでもこれからライブをやるらしい。よく見れば回りにも黄色いサンタや緑のサンタがいて、ステージとして作られたスペースは少し狭そうだ。
 赤の衣装をまとった彼は、去年ライブハウスでみた彼とよく似ていた。だが、眼鏡をかけていないし、自信なさげに丸まっていた背中はぴんと伸びている。
 やがて黄色と緑がどこかへ消え、青いサンタと二人きりで歌い出す。その歌声は、やはりあの日聞いたものと似ていて、しかし随分と違っていた。
(ああ、お前は、成功したのか)
 あんなに馬鹿にされて、きっとあの場だけではなかっただろう、ずっといじめられて。それでも前を向いて、この場所に立っているのか。
 しばらくして二人以外のサンタも勢ぞろいして、双子のトナカイまで現れて賑やかになる。それを仕切っているのは赤い青年で、その様は太陽のように眩しい。
 楽しそうに歌う彼らを見ていることができず、燐音は踵を返した。


◇◇

「お前は、間違ってしまった俺なんだ」
 その言葉に、燐音は「なにを勝手なことを」とはいえなかった。
 同じことを考えたことがある。あの日仲間たちと楽しそうに歌う彼の姿を見て、あれは成功した自分なのではないかと思ってしまった。
 眼鏡の少年の面影は、隣にいた相棒に呼ばれすぐに霧散する。すぐにヒーローの顔になると、早くいけと促してきた。
 お人好しの彼は、それでも自分の世界で踏ん張ってここに立っているのだろう。それはやはり、酷く眩しかった。
 己の愛したアイドルが、目の前にいた。



◇◇


「おおーい、天城先輩ー!」
「うげっ……
 ぶんぶんと手を振って、そこら中に響きわたる声で燐音を呼ぶのは、あの日散々傷つけた相手だった。駆け寄ってくる千秋に、狭いビルの中では逃げ場もなく深い溜息を吐きながら彼を待つ。
 『MDM』でなんとか丸く収まったとはいえ、散々暴れ回った『Crazy:B』は周りから疎まれる存在だった。特に『流星隊』はわざわざ捏造画像まで作られた被害者だ。普通であれば、ビルの中で見かけたからと言って挨拶をするような中ではない。
 しかし千秋は、燐音を見つけては周りにも聞こえる声で呼び駆け寄ってくるのだ。
「なンか用かよ、ヒーロークン」
「いや特に用はない。見かけたから挨拶をしようと思ってな!」
 ニッ、と笑う千秋はあまりにも眩しく、げんなりとした表情で彼をみる。
「あのさァ守沢クン。俺がてめェらになにしたのか覚えてンのか?」
「うむ、もちろんだ!」
「じゃなんで俺っちにわざわざ話しかけにくんだよ」
 正直、この男のことは苦手だ。それを滲ませながら言ってやれば千秋はきょとんとこちらを見上げた。
「知り合いを見かけたら挨拶するだろう?」
 半分くらい予想していた答えが返ってきて燐音は脱力する。あれだけのことをされておいて、その上で普通に接してくる精神がわからない。
 頭を抱えたくなっていると、千秋はニコニコとした顔を少し緩めて、内緒話でもするように声を潜めた。
「まあ、俺が天城先輩と話したいのもあるんだが」
「ハァ?」
 意味が分からない。それをそのまま態度に出せば、千秋は覚えてないか、と少し残念そうに呟いた。
「二年前、ライブハウスに来ていただろう?」
「は、」
「その後も、たまに公園でのヒーローショウとかも見ていただろう?イヴイヴライブのときも、」
「は、いや、なん」
「ファンの顔は覚えているからな!」
 いや別にファンじゃねえし!!
 そう言おうとして、しかし喉に何かが引っかかったように上手く声が出ない。覚えているのか、と言いたいのはこっちの方だ。
「ま、さか、ライブで見たことあるから助けたとかってつまんねぇオチじゃねェだろうな」
「いや、そんなことはないぞ。おまえが俺たちのライブに来ていなくても、俺は同じ行動をしたはずだ」
「ハッ、ヒーローだもンなァ?」
「ああ!ヒーローだからな!」
 大きく頷いて肯定した千秋は、すぐに視線を逸らしたかと思うと小さく笑う。自嘲気味なそれは、先ほどまで快活に笑っていた彼には似つかわしくない。
「そう言えたら良かったんだが……。なんというか、俺のわがままでもあるんだ」
「ああ?」
 す、と顔をあげた千秋は、その目に燐音を映して肩を竦める。
「あの時、「間違ってしまった俺」だと言っただろう。だから、あの日に立ち上がれなかったかも知れない俺を重ねて、救うことで俺を救おうとしたんだ」
……でも、アンタは立ち上がったんだろ」
 俺とは違って。そう言ってやれば千秋はゆるりと首を振る。
「たまたま、立ち上がらせてくれた人がいたんだ。それに、その後一緒に歩いてくれた奴がいたから。俺一人では、無理だった」
 寂しそうに揺れる瞳は、間違いなくあの日に眼鏡の奥にあった瞳だった。
 もしもあの時、ニキに出会わなければ燐音はそのまま野垂れ死んでいたかも知れない。きっと彼にも、それと似た運命でもあったのだろう。
「ギャハハっ!散々ヒーローぶってくれたってのに、今更弱音かよぉ」
「う……。す、すまない……
「そこで素直に謝っちまうとこが純だよなァヒーロー」
 む、と頬を膨らませるところは年相応で、こんな奴に救われてしまったのかと思うと笑いがこみ上げてくる。
 ただのいじめられっ子だった少年が、たったの二年で自分たちを救ってしまう立派なヒーローになったのかと思うと、下を向いて歩いてきたこの二年もなんだか無駄ではなかったような気がしてくる。
 ああまた、ヒーローに救われてしまった。
「ま、今後も期待してるぜェ。チアキチくん」
 陰ながら応援してる、なんて言葉は飲み込んで、ひらっと手を振ってから背中を向けた。


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