フレーメンちう
2025-02-25 00:16:13
4123文字
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お弁当のおすそわけ

ヨダナP×音声ビマの話です。(ちょっとモブあり)寧ろヨダナP&音声ビマと言っても過言ではない…
ここからヨダナP×音声ビマになれるか…!?

 茹だるような暑さが続き、局の数少ない窓から外を覗けば遠くの景色が蜃気楼で揺らめいている。もう少しだけこの暑さを我慢すれば気温が和らぎ、実りの秋が訪れるだろう。

「ビーマさん! この後予定していた第四スタジオでの収録が、一時間後に変更になりました」
「えっ、何があったんだ?」
 パタパタと小走りに駆けてきた同僚の言葉に、ビーマは目を丸くした。
 今日の収録予定は、様々な酒の肴を嗜みながら、その肴の歴史や成り立ちを解説するトーク番組。まだ実験企画段階の番組な事もあり、タレント一人と自社のアナウンサー一人で構成しているため、収録が押しても融通が利くのだろう。
「ゲストのタレントさんが、遅刻だそうです。乗っていた新幹線が止まっちゃったみたいで……
「あー……防ぎようもない理由だな……
 新幹線で落ち込んでいるあろうタレントとマネージャーに同情しながらも、ビーマは時計に目を向ける。今は十一時半。収録が終わる頃には五時を過ぎるだろう。
「なぁ、昼飯食ったか?」
「収録後に食べようとしてたのでまだですね。あ、収録遅れるなら、今のうちに食べてた方が良いか……
 コンビニでおにぎりでも買ってこようかと悩む同僚に、ビーマは満面の笑みを向ける。
「俺の弁当分けてやるよ」
「えっ、それだとビーマさんの食べる分が減っちゃうじゃないですか。いっぱい食べるのに」
 ビーマからの申し出に少々驚いた。
 外のロケに行った時に見たビーマの食欲を思い出す。ラーメン大盛り、チャーハン一人前、餃子四皿とレバニラ炒め。それらをペロリと平らげていた。楽しんで綺麗に食べきる事もあり、フードファイトの企画が全盛期の頃なら、きっと抜擢されていたのだろうと思いながら眺めていた。
「少し多めに持ってきたから遠慮すんな。弁当を持ってくるから、向こうのロビーで待っててくれ」
 申し訳なさそうな同僚の背中を叩くと、ビーマは弁当を取りに共用ロッカールームへと向かった。

 * * *

 ロビーの窓際には、小さなテーブル席が何席も並んでいた。軽い打ち合わせを行ったり、自販機から買ったコーヒーや軽食を摂ったりと、局内や外部のスタッフ達に使われている。その一画で、テーブルを二つ繋げたビーマが大きな水筒を肩に提げながら、大きな重箱を広げていた。
「好きなのを選んでくれ」
 正月のおせちでも滅多に見た事が無い様な大きな四段のお重。
 一つにはラップに包まれた色とりどりな俵型のおにぎりが詰められている。明太子・わかめ・梅しそと混ぜ込みご飯になっている。他のお重は九つの仕切りで区切られ、中には様々なおかずが詰められていた。照り焼きチキン・サンマの佃煮・鶏の唐揚げ・ポテトサラダにひじきの煮物。
 食欲旺盛なビーマ故にわんぱくなおかずが多いと思ったが、ほうれん草のおひたしや、カリフラワーとブロッコリーの蒸し焼きもある。取り分けやすいようにとアルミカップに盛り付けられている事にも驚いた。
 ビーマから手渡された紙皿におにぎりひとつと、おかずを二つ。ウォーターサーバーに備え付けられた紙コップを拝借し、それに注がれたお味噌汁。香りだけで食欲がそそられてしまう。もう少し貰いたいが、これはあくまでもビーマのお弁当だ。鳴りそうになってしまうお腹をグッと堪える。
「ありがとうございます! 頂きますね!」
「おう!」
 嬉しそうにおにぎりを頬張る同僚に、ビーマの口元がほころんでしまう。
 ふと、ビーマはロビーの端に目を向けると、見知った人影がひとつ。薄い紫色髪が揺れ、手元にあるタブレットを忌々しそうにスクロールさせている。
……!」
 従兄弟のドゥリーヨダナだ。ビーマと同じテレビ業界に入ったと聞いていたが、こんな所で見かけるとは思わなかった。確か、暫く前に放送作家になったと聞いていたが、あれから変わりなかったのだろうか。
「ビーマさん、どうしました?」
 一点を真剣に見つめるビーマを不思議に思ったのだろう。不意に声をかけてきた同僚に笑みをかえした。
「いや、知り合いがいてな。ちょっと向こうにも食わせてくるわ」
「了解です! あとは現場で!」
「おう、またな!」
 持ち運びやすいように手早く弁当をまとめると、視線の先へと向かう。
 イライラとした近寄りがたい雰囲気を纏っている所為もあり、ドゥリーヨダナを避けるように周りの席が空いていた。この業界で不機嫌な者に近寄る者など居ない。触らぬ神に祟り無し、なのだ。
「お前がここにいるの珍しいな?」
「ビッ! ビーマ……! 何でお前がここに居るんだ……?!」
 大きな声を上げそうになったドゥリーヨダナは慌てて声を殺しながら、ビーマを睨み付ける。ピリピリとした雰囲気を見せるドゥリーヨダナに臆する事無く、隣のテーブルへ弁当を置いた。
「仕事だからに決まってんだろ」

 ドゥリーヨダナに会うのは久しぶりだ。放送作家になったからといって、同じテレビ業界とはでも職種も所属する会社も違う事もあり、顔を合わせる事は無いだろうと思っていたのだ。
 昔は正月には父方の親戚が集まって顔を合わせていたが、ビーマとドゥリーヨダナは社会人になってからは参加する機会が無くなっていた。
父方が裕福だった事もあり、普段はお目にかかれないような美味しい料理がいくつも並び、料理に興味が湧いたきっかけだった気がする。

 ふと、ドゥリーヨダナのタブレットの陰にあったゼリー飲料に視線を落とす。結構食に煩いと思っていたが、ドゥリーヨダナがゼリー飲料を手にしていた事に少々驚いた。口に合わないものは突き返し、美味いものしか食わない印象があったため、ドゥリーヨダナにとっては腹を膨らますだけで美味くも無いであろうゼリー飲料を飲んでいる事に違和感を覚える。
「飯、まだなんだろ?」
 昼が近いのにそれを飲んでいるという事は、きっと昼食を食べる暇がないのだろう。ビーマは弁当を載せたテーブルをドゥリーヨダナが使っているテーブルへと付けると、テキパキと広げる。
「な~に勝手な事をしておる!」
「良いだろ。俺も食うし、差し入れだ。仕事場のみんなからは結構好評なんだぜ?」
 ゼリー飲料の空容器を近くのゴミ箱に捨て、ドゥリーヨダナの食事スペースを作る。ドゥリーヨダナの返事を待たずに重箱を広げれば、少々呆れ顔をしたドゥリーヨダナが見つめてきた。今にも止めろと言い出しそうだが、他にも昼食をとるスタッフがいる事もあって強く言えないのだろう。それに、止めろと言われたとしても、ビーマも昼食を取らなければならないため止める気はさらさらなかった。
「さて……
 同僚と同じように好きな物を選ばせようかと思った。だが、ドゥリーヨダナの事だ、意固地になって「要らない」と突っぱねるだろう。
 ビーマはおにぎりをドゥリーヨダナに手渡し、紙皿へおかずを次々と乗せていった。プチトマトとモッツァレラチーズのサラダ・蒸し鶏のバジルソースがけ・ほうれん草とベーコンのバターソテー。紙皿から溢れそうになりながらも、使い捨てのフォークを添えてドゥリーヨダナの前へと置くと、紙コップへ味噌汁を注いだ。
「味噌汁と洋食はちょっと合わないだろうが、そこは気にするな。ゼリーを飲むより、腹持ち良いだろ?」
「少しは食い合わせを考えろ。料理好きなのに配慮はないのか?」
「料理は趣味でやってんだから、美味けりゃ何でも良いんだよ」
 いいから食え。と、今にも言わんばかりの表情を向けてくるビーマに圧され、ドゥリーヨダナはおにぎりの包みを剥がして齧り付いた。
 程よい塩加減とピリッとした辛子明太子の味わいが、口の中に広がる。
「んむ……
 米と明太子だけを丸めただけなのに美味い。以前、企画のネタを探しに立ち寄った、人気のおにぎり屋と同等の美味さがある。

 思い返してみれば、正月に集まった際に小学生だったビーマが手料理を作った事があった。調理実習が楽しかったらしく、大勢の親戚に食べさせたかったのだろう。習った出汁巻き卵を大量に作り、親戚全員に振る舞っていた。
 美味い料理が揃う中、出汁巻き卵を作って出すのかと呆れた。だが、食べてみれば確かに美味しかった記憶がある。大人達から「美味しいね」と褒められているビーマが悔しくて、ドゥリーヨダナ自身は何の感想も言わなかったが。

 ほんの少しだけ苦くも青臭い思い出を振り返りながら、味噌汁を啜る。具は入っていないが、しっかりとした煎り子の出汁が利いており、味噌汁単品だとしても充分飲めそうだ。
 味噌汁の後でも比較的合いそうなほうれん草とベーコンのソテーを一口頬張る。ほんの少し歯ごたえの残るほうれん草に、ベーコンの脂とバターのまろやかさ絡む。その後を追う様に胡椒の辛さが味を締め、添え物になりそうな惣菜なのにも関わらず主菜の様なしっかりとした美味さがある。
 あの出汁巻き卵に比べて、随分と美味くなった。ちょっとした店を開けるのでは、と思ってしまう程だ。大人になった今ならば、多少なりとも褒めてやっても構わない。
「美味いか? ドゥリーヨダナ」
 人懐っこい笑みを浮かべるビーマに、ドゥリーヨダナは眉間に皺を寄せる。味噌汁で口を潤し、ビーマへ視線を向けた。
「まぁ……悪くないな」
「そうか! 口に合って良かったぜ! もっと食うか?」
「要らん。食いすぎたら眠気で頭が回らなくなるわ」
「じゃあ梅しそのおにぎりやるよ。また小腹が空いたときに食えばいいだろ?」
 ビーマは満面の笑みを浮かべながらポケットの中からハンカチを取り出すと、梅しそのおにぎり二つを包む。ドゥリーヨダナに差し出すと、渋々と手を伸ばしてきた。
 断られるだろうと思ったが、意外にも受け取ってくれたドゥリーヨダナに、ビーマの口元がほころんでしまった。
 
 良い意味でも悪い意味でも一目置かれているドゥリーヨダナに対し、物怖じせずに話しかけるビーマ。ロビーに居たスタッフ達伝いに、「度胸と体格が比例している音声マンのビーマ」と、暫くの間は局内で話題のネタとなっていた。