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スサ
2025-02-24 22:44:32
5532文字
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【ゲタ水】お役所で働いてるゲタくん(新婚さんのゲタ水)※新刊
※もうちょい長いサンプルは支部にあります→
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24173192
水は団地妻っぽいけど昼間は喫茶店をしてるので団地妻とも違うな…という話。ゲタくんがとあるお役所でとある仕事をしています。ゲタ水は新婚さんです。前に書き出していたのがしっくりこなかったので、これで進めています。
「ただいま帰りましたァ」
ガチャリとドアを開けながら声をかける。新築ではないが、むしろ古い方がなじみがあっていいのだと、このほど求婚に頷いてくれた人は笑っていた。それに水回りや壁などは補修が入って新築のようにさえ見える。職員住宅ということを思えば条件は良いのではないだろうか。
「おかえり、今日はニラ玉と
…
」
キッチンからひょいっと顔を出し、答えてくれる人。ゲタ吉は顔いっぱいで笑って、水木さん、と言うや突進する勢いで彼に近づき、ぎゅっと抱きしめた。
「おい、靴ひっくり返って
…
、まったく、ナリばっかり大きくなってもガキみたいだな」
抱きしめられた方は呆れた声で小言をくれたが、水木さん、水木さん、と言って大型犬のように体をこすりつけてくる方は全く気にしている様子がない。聞こえないということはないだろうが、怒られるまで至っていないから気にしていないのだろう。
仕上げとばかり出迎えてくれた黒髪の人の頬にむちゅうと吸い付くようにキスして、ただいま帰りました、ともう一度言う。抱きしめて、上からにこにこのぞき込んでくる若い男に、抱きしめられた男の方は結局ため息をつき苦笑した。
「
……
おかえり。ごくろうさん」
──田中ゲタ吉。それは世を忍ぶ仮の名である。
様々な経緯から、青年はゲタ吉の名でとある省庁に勤務している。先に言ってしまうと青年は人間ではない。またの名を、いや、本当の名を鬼太郎と言う。人呼んでゲゲゲの鬼太郎、といえば、有名な都市伝説だ。つまりゲタ吉は、その伝説の生きる姿である。
「おいしいです、水木さん」
「ん」
ニラ玉とメンチカツ、ほうれん草のゴマ和え。二日目のきんぴらゴボウ。それに白いご飯と味噌汁。味噌汁の具は豆腐とわかめ。それが今夜の田中家の献立。晩酌は週末だけにしているから、今日はなし。
そう多くもない品数だけれど、ゲタ吉は本当に美味しそうに頬張っていて、メンチカツを手作りしたのは無駄ではなかった、と作った方の顔もほころぶ──。
ふたりは元々、養父とその養い子だった。であるから、水木は元来、ゲタ吉に対して親としての(育ての、ではあるが)情しか持ち合わせていなかった。そうでなかったのは鬼太郎──ゲタ吉の方だ。妖怪と人間の間で時に仲裁、時に制裁、時に友好の架け橋となってきた彼もゆるやかに成長し、青年のような見かけまで育ったわけだが、そうして大人になって思ったことは、水木と一生一緒にいたいということだった。
水木は元々人間だ。今となっては、人間だった、と言うべき事態に陥っているが。妖怪の世界に望むと望まざるとに関わらず近づき過ぎてしまった彼は、いつの間にか年をとらなくなっていた。本人に言わせれば前髪が少し後退したとか目尻に皺ができたとのことだが、周りから見たらどこも変わらぬ美男子のままである。むしろ今となっては、一時期色を失っていた髪の色が戻ったこともあり、若返っているくらいだ。本来百を超えている年齢で、未だ三十代半ばくらい(もっと若く見えないこともない)の見た目をしている以上、本人も「俺も年をとっている」とは強く主張できない。
鬼太郎を育て、その実父である目玉のおやじを友として過ごす間にできた妖怪との縁。それらを伝手に、水木は経歴を少々ごまかし、職を転々としていた。鬼太郎は一度水木の家を出たが
―
成長速度が違っており、周りから奇異の目で見られ始めていたこと、いよいよ霊力やら何やらが大きく育ちすぎて周囲にトラブルを起こし始めていたことから
―
縁を切ったわけではない(水木の方では今生の別れと思っていたようだが)こともあり、水木の様子は把握していたし、時々顔も出していた。家を出て初めて顔を出した時の水木の驚きと、その後の喜びが爆発したような顔を見てしまったら、もうだめで。絶対この人をお嫁さんにする、と勝手に心に誓ってしまった。人間の婚姻については知っていたが、それはそれで、これはこれ。
幽霊族の成長は人間とは違うので、おやじいわく結構な駆け足で鬼太郎は成長し、水木の背を追い越したところで初めてのプロポーズをした。その頃は学ランを着て学生を装っていて、まだゲタ吉という仮の名を使い出す前だった。
「あなたの背も追い越しました。あなたより強くなった。結婚してください」
真摯な求婚だったと思う。ゲタ吉としても。
だが寝耳に水だった水木は、目をまん丸にして固まった。それから無言で自分の頬をたたき、それでも足りぬとばかり、目の前の義息の鼻をつまんだ。
「いててて」
「
………
夢じゃないのか」
「なんで僕でまで確かめたんですか」
自分の鼻をつまむ手を取り上げてのぞきこめば、水木は困惑したまま首を傾げた。なんとなく、という答えからしても、彼はずっと混乱しているようだった。
「
……
もしかして気づいてなかったんですか?」
「なにに?」
「
…
ぼく、すごくあからさまだってずっと皆に言われてたんですけど」
「なにが?」
「
……
。水木さんが、好きだって」
「
…
? 俺も好きだぞ」
「じゃあ!」
目を輝かせた鬼太郎に、水木は父性どころか母性の溢れた顔をする。嫌な予感しかしなかった。
「だって、おまえは俺のかわいい鬼太郎だから。そうだろ?」
「
…………
っ」
鬼太郎は頭を抱えた。突如として歯ぎしりした養い子に水木は目を丸くしていた。
「鬼太郎。結婚っていうのは、あー、その、愛し合う男女が
…
」
「それは人間の話でしょ」
「じゃあ、妖怪の結婚は違うのか」
「いや、わしと妻は愛し合っておったぞ!」
それまで静観していた目玉がぴょこりと息子の髪の間から出てきて、挙手までして言った。
「だよな」
水木はそれに頷いてしまう。鬼太郎の手がむんずと実父を掴んだ。
「父さんはちょっと黙っててもらえますか」
「むぐぐ」
「こら鬼太郎、おやじさんは丁寧に扱わないとだめだろ」
水木に注意され、鬼太郎はまた悔しげに歯ぎしりする。しかしそれでも言われたとおり実父を自分の頭に戻したのはえらい。水木はその一連の動作には頓着しない様子で、昔より長めの鬼太郎の髪にそっと触れた。どきん、と鬼太郎の胸が跳ねる。
「色、変わってきたなあ」
「へ? あ、はあ
…
」
昔はクルミや栗のようにつやつやした茶色だった髪が、今は随分色を薄くしている。それがなんだか寂しいような、しかし懐かしくもあるような
…
。
「おやじに似てきたのかなあ」
「
………
」
細めた目の先に映っているのが自分ではないようだ、と思ったらだめだった。鬼太郎はぐい、と水木の手を掴み、「おい」と咎める声を無視して抱きしめていた。
「僕を見て」
「見てるだろ」
「違う、僕じゃない、僕じゃなかった」
「
………
」
水木は困った顔で、亜麻色に近い髪の合間の友を見る。どうするんだ、これ、と。見られた方は黙って首を振る。
「もう! 僕の頭の上で何やってるんですか!」
父親同士の声なき会話に気づいたようで、鬼太郎は頭を上げた。ころん、と目玉が下に落ちる。
「ゲゲ郎っ」
慌てて水木は手を伸ばしたが、目玉はころりんと転がり落ち
…
だが勿論無事だった。ほっと胸をなで下ろした水木だったが、恨みがましい義息の目を見て黙った。さすがに茶化して良いかどうかはわかる。
「僕諦めませんから」
「
………
」
水木は弱り切って、ただ呻いた。どうしてこんなことにと思っても、どうしようもなかった。
──という最初の失敗から数えて幾年月、とうとう水木が根負けして頷いてくれたのは最近の話だ。さすがに自分の年のとらなさを認めざるを得ず、人の理から外れてしまったのなら人の世の倫理や法を引っ張り出すのも難しく、結局、真剣な愛情というやつにほだされてしまったのだ。そうとしか言いようがない。鬼太郎は変わらず一途に愛を告げてくれていて、頷いてもいいか、という気持ちに水木をさせた。まさに雨だれ石を穿つ。
最初の求婚の後からゲタ吉の名で高校に通い、そうしてとうとう近頃就職まで決めたことで、やっと水木と実父の許しが下りたともいえる。これは就職先が決まった理由と密接な関わりがあるのだが、職場からかなり近い職員寮に住むことにもなった。つまり職も家も手に入れたわけだ。持ち家じゃないですけど、と少し卑下したように言ったゲタ吉にまぶしげに目を細め、水木ははにかんだものだ。おまえは立派だ、自慢の息子で
…
、そして、今日からは自慢の連れ合いだよ、と小さな声で言ってくれた。水木さん、と感極まって抱きつけば、頭をぽんぽんと撫でてくれる手があやすようなそれだったことは、若干不満だったけれど。
この生活に至るまでのことを脳裏に思い浮かべながら、ゲタ吉はそろそろ空になりそうな茶碗に二杯目を盛っていいかどうかをしばし悩んだ。
「おかわりは? いいのか?」
と、そんな葛藤はお見通しなのだろう、水木がくすくす笑いながら聞いてくれる。ゲタ吉は軽く耳をかいて、おかわりしたいです、と言いながら席を立つ。よそるくらい自分でできる。
…
が。
「あ」
「座ってていい」
水木がひょいと茶碗を奪うと、炊飯ジャーの前に立つ。伴侶となったからといって、ゲタ吉はそんな風に世話をしてもらうつもりはない。何なら逆にゲタ吉が水木の世話をしたいのだ。
…
それができるのは、限られた状況だけになっているのが現状だ。
「いいって。働いてきたんだからな。旦那さま」
こんもり白飯をよそって、水木はゲタ吉の前に茶碗を置く。その目はにこにこと笑っていて、言葉とは裏腹、小さな頃の義息を可愛がっていた頃の顔だ、とゲタ吉はピンとくる。愛されていることは確かなのだけれど
…
。
去って行く手のひらをゲタ吉は捕まえた。大きくてしっかりした、頼もしい手。だけれども、今ではすっかり、ゲタ吉が上から握りしめてしまえるくらいになってしまった。水木が動きを止める。視線が合う。
「
………
あの、」
「
……
週末だけの約束だ」
ふい、と水木が目をそらす。少しだけ怒ったような声は、怒っているのではなく照れているのだとわかる。頬の高い所と、耳の先がほんのりと赤い。
──身持ちが堅い、という言い方がこの場合も当てはまるかわからないが、水木がゲタ吉に体を許してくれるようになったのは、彼が求婚に頷いてくれた後だ。当たり前と言えば当たり前ではある。それまでは義理の親子、養父と養子が二人の関係性だったわけだから。鬼太郎──ゲタ吉は、無理矢理に彼の意思を押し曲げるようなことはよしとしなかったし。
「ちゃんと覚えてるし、守ります、でも
…
、最後までしなければ、
…
だめですか? 水木さんに触りたい」
「
…………
」
水木がうつむいた。
…
余談だが、人間の婚姻の関係をそのまま踏襲しているわけではなかったので、水木は水木のままだ。そもそも田中も本名ではないし。水木ゲタ吉になろうかな、とゲタ吉が真面目に言ったことはあったけれど、ややこしいから田中のままでいいだろう、と水木に言われて田中を名乗ったままだ。
「
…
だめ?」
水木の手をきゅっと握り、輪郭をたどるように撫で、上目遣いに聞く。そういう風に甘えられることに水木が弱いのを知っている。
水木は日中喫茶店を営業している。小さな個人経営の店で、下町で細々開いている店だ。働いているのは水木だけで、時々ヘルプに入るのは妖怪か、妖怪の血を引く半妖の子どもなど、訳ありの者達。水木がオーナーだし、開店もゆっくり目だけれど、その仕事に響くのだと言われればゲタ吉が我慢するしかない。
…
その実、就職してまだ間もないのに週に何回もなんて仕事に響いたらどうする、という水木からゲタ吉への心配の成分の方が多かったりもする。
まあとにかく、週末、金曜夜か土曜夜、許されているのはそこだけ。連休や何か、多少変動があることもあるけれど。
「
…………
」
黙り込んだ水木の顔は、赤い。もうそんなに照れることはないだろうにと思う反面、こういう反応を見せてくれるのがゲタ吉は舞い上がりそうな程嬉しい。
ちゅ、と水木の手の甲にキスをする。とどめになったかどうか。
「
……
おかわりしたからには、全部残さず食えよ」
やがて口を開いた水木から出てきたのは、直接には閨事には関わりのないことだった。
しかしゲタ吉には、もちろんこれが照れ隠しだとわかっていた。
「もちろん! 僕、水木さんのごはん大好きです!」
「
……
調子がいいんだから」
はあ、とため息をつき、水木が手を引き抜こうとする。ゲタ吉は逆らわずに離したけれど、そのかわり、椅子から伸び上がって水木の額にキスをした。今の身長差なら全くたやすいことだ。
…
この光景を幼い日の自分が見たら怒り狂うかも知れない。未来の自分に。
「洗い物、僕がしときます。
…
水木さんはもう食べないんですか?」
椅子を離れようとする気配を感じて先に尋ねれば、ああ、と曖昧に頷いた後、水木はじろりと睨んでくる。完全に照れ隠しで、うなじが赤くなっている。この人は今本当に自分のものなのだと思って、許されるなら今すぐお姫様ように抱き上げ寝室へ直行したい程舞い上がっていた。気持ちが。
「
……
そうだよ。あんまり食べると、
…
、なんでもない。洗っとけよ」
イーッ、と子どもっぽく口の端を引っ張るようにして威嚇してから、水木はゲタ吉を振りほどいた。やっぱりうなじは赤く、耳の後ろも赤く、
…
いい匂いがした。ゲタ吉は食い入るようにその後ろ姿を見つめながら、かわいすぎるだろと今にも叫び出しそうな唇を必死で噛み続けた。
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