ガラシャ
2025-02-24 20:35:16
5359文字
Public オメガバース
 

ゆりかごのうた ①

オメガバースのその先を妄想したお話です。pixivですでに投稿しているものになります。
玲二と和也の間に子どもがいて、ふたりで子育てをしている話です。


 ――世界の頂点に立つα、世界を円滑に営むβ、世界の頂点であるαの子を産むΩ第二の性と呼ばれるもので、人間は大きく6タイプに細分化される。
 αが支配し、βが営み、Ωはαを産み育てるそうして世界はそうして成り立っているのだという。

「上位αだ
――ざわりとその場の空気を換えてしまうほどの存在感と威圧感。一年で一番華々しいクリスマスのイルミネーションによりも輝く男。βやΩだけでなく、同じαでさえも惹きつけて止まない。『上位α』とはそういう存在だった。
 ――その男はスマホを右手に、左手にベビーカーをもっていた。大通りを避けるように、やや死角になるところにいるが、その存在感は隠しようがなかった。
 黒いボトムズと仕立ての良いロングコート、その下にはグレイのニットを着込んでいた。シンプルな装いながらも日本人離れした体格にはよく似合っていた。
 その容姿端麗ぶりは目元をサングラスで覆っていても誤魔化しようがなかった。
「あぷっ」
 空色の柔らかそうなブランケットがかけられたベビーカーから声があがる。
「愚図らないで待ってろ。すぐにあいつは帰ってくる」
 スマホから目を離さず素っ気ない言い方だが、慣れたようにベビーカーを押したり引いたりしている。
 家庭的なイメージなどない高見玲二には余りにもミスマッチだ。
「やあああ!やあああ!」
 それでもベビーカーの中からの叫び声は止まらない。玲二がちっと舌打ちをしたところで、玲二の番である高見和也がかけてきた。
「悪い。まさか、おむつ忘れたとは思わなくて」
 その途端、玲二の排他的な雰囲気が消えうせる。唯一の番である和也にαのフェロモンが纏わりついた。強烈な媚薬にさえ感じられるαのフェロモンに包まれても、和也は平然としていた。
――一見すれば男性βと体格的には遜色ない和也だが、その身のしなやかさや纏わりつくやわらかな雰囲気はβでは収まらなかった。殊に和也の存在は顕著にαたちを騒がせる。αだけが感じ取れるΩの匂い和也の匂いは甘く蠱惑的だった。
 上位αのマーキングがなければ、連れ去って囲ってしまいたくなるほどの。自分がαたちを惹きつけていることなど露にも思わない和也は、白いニットにカーキーのベストジャケット、濃い色の細身のデニム姿だった。
 ――2年前、玲二にピッチングされ、和也はβからΩに堕とされた。2回目のヒート時に和也は完全なΩとなり、番登録をおこなった。そしてその二週間後、和也の妊娠がわかったのだ。
「ああ?おっせえよ。こいつ、腹減る前に、下から出したぞ」
 その声に、和也は驚く。
「ええ、うそだろっ。確かに便秘ぎみだって久住のおばさんいってたけど。このタイミング?」
「そりゃあ、2週間も預けてたらな。慣れない環境で緊張してたんだろ。んで、母親であるお前の側にいるんだから、そりゃあなあ」
 彼らの第一子である高見悠二は1年前の冬に生まれた。玲二が20歳、和也が22歳の冬だ。
 思いがけない妊娠であったが、つわりで苦しんだものの、その後は順調に妊娠期間を過ごすことができた。大学院へ進むことを考えていたので、一旦休学した。
 ――その日、久住家で悠二の一歳の誕生日会を催してくれたのだ。久住の伯母が一升餅や御馳走を用意してくれ、伯父や高志、高志の姉と共にわいわいと楽しく祝っていた。
片づけをしていた和也に突如、発情期が来てしまったのだ。通常時は半年ほどで発情期が戻るΩとは違い、元々はベータであった和也は産後全くと言っていいほど発情期がこなかったのだ。もしかしたら、βに戻ってのではないかと和也が気を緩めた矢先のことだった。
 悠二は久住家に預けられ、和也は玲二に伴われて高見家に戻り、そのまま1週間の発情期に入った。発情期中、和也は何もできなくなる。食べることも飲むことも厭わしくなり、ただ玲二に身を任せるままになってしまう。Ωの本能に本能され、ただひたすらαの玲二の精を受けることを求めていた。そして玲二も、そんな和也をひと時も離さなかった。2年近く発情期がなかったこともあり、和也の媚態につられてラット状態になり、和也を犯すことしか頭になかった。激しい交わりが続くと、当然和也の憔悴はひどく、ヒートが明けても1週間ほどは静養するしかなかったのだ。
しかし悠二からすれば突然母親である和也から引き離された状態だ。迎えに行った途端、和也から離れなかった。小さな手でひたすら和也にしがみつき、甘えたように頭をこすり付けてきた。ずっと見ていてくれた久住の伯母は
『ずっとお利口さんだったのに、やっぱり和也くんだと違うのね』
 和也の前では甘えん坊な悠二も、愚図ることもなく大人しかったのだという。
「やっぱり、そうだよな
 仕方ないこととはいえ悠二に寂しい思いをさせたという負い目があり、和也がわずかに落ち込んだ声を上げる。
「ごめんな、悠二
「きゃああ」
 和也がしゃがみこみ我が子の名を呼ぶと、歓声が上がる。悠二は、小さな手でペタペタと和也の頬にふれる。玲二に生き写しの我が子の笑顔に和也も笑顔を見せるが、あたりに漂う匂いにそのまま固まった。
「結構出てそうだなどっかでおむつ変えないと」
「それならこれからカフェにベビールームがある。そこで借りればいい」
 玲二はしゃがみ込んだ和也の腕を掴んで立ちあがらせると、そのまま腰に手を添える。
「ほら、いくぞ」
 片手にベビーカーを持ち、番の腰に手を添えて歩き出す。
人々は街に突如現れた上位αと彼に囲われたΩを羨望の眼差しで見つめるのであった。
αとΩは番登録をすれば、婚姻関係と同等の資格を持つことになる。
彼らはどこからどうみても番だった。

 ――玲二が予約していたカフェは、子連れ大歓迎のオーガニックな野菜をふんだんに使った自然派カフェであった。
 玲二と和也が店に入った途端、空気が変わる。ママ友同志やカップルで訪れている客の視線が一斉に向いたのだ。
 男性同士の番はΩ男性が極端に少ないこともあり珍しい。
その物珍しさに加えて玲二の美貌で常に注目されているので、和也も慣れたものだった。
席に案内されるが、和也は悠二をベビーカーから抱き上げる。
「先に、おむつ変えてくる」
「ああ」
 ベビールームに急ぐ和也の背を見送り、メニュー表に目を落とした。ネットで先に確認していたが、無農薬野菜の離乳食、そして妊婦向けのメニューなどもあった。
玲二がメニュー表を眺めていると、ふたりが戻ってきた。
悠二はよちよちと拙い歩き方ではあるが、和也の手をしっかりと握っている。和也をエスコートでもしているつもりなのだろう。満面の笑みで和也を見上げている。
 ――悠二が歩き出したのは10か月のころだ。
 元々、4000g近い体重で生まれてきており、寝返りもつかまり立ちも早かった。恐らく悠二はαだろう。体格的に恵まれているαは胎児の頃から大きいのは珍しくないのだ。
 男性Ωの妊娠・出産はリスクが大きい。和也も妊娠後期は管理入院という形で久住病院に入院していた。胎児の大きさもあり臨月になったらすぐに帝王切開で悠二を産んだ。
和也の腹には帝王切開に傷が残っているが、あんなに肉の薄い肚が徐々に膨れ、また子を孕んでいたのかと思うと未だに不思議だ。
「ほら、お椅子に座ろうな」
「いやあ、っこ!」
 離れがたいのは和也も一緒だった。2週間もの間、この存在が傍にないなんて、和也はどれほど落ち込んだか
 抱っことせがんでくる悠二を抱き上げて、和也も座った。
「へえ、離乳食も手作りなんだ。手づかみのもある」
 離乳食完了期に入ったこともあり、手づかみの離乳食も食べ始めている。好き嫌いなく、食欲も旺盛だった。
「玲二、決まったか?」
「ああ」
「すいません、注文を」
 店員に和也は悠二の離乳食プレートを伝える。玲二もランチプレートを注文するが、和也は温かい紅茶を注文しただけだった。
「お前はどうするんだ?」
「まだ腹すいてないし、先に、悠二の離乳食食べさせてからにする」
 その台詞に玲二の眉が顰められる。
 元々色白の和也だが、青白く感じるほどだ。久しぶりの外出に疲れているのか見て取れる。
 まもなく、注文したものが運ばれてくる。
「ほら、いただきます」
「しゅ!」
 和也が手を合わせるのをまねて、小さな手を重ね合わせる。
「ちょ!」
「はいはい、これな」
 ハムと食パンがロール状にまかれたサンドイッチを渡すと、上手に食べる。
「ゆっくりたべような。ほらスープも」
 和也が悠二の口元にスプンを持っていくと、パクリと食べた。
 微笑ましい光景に、彼らに注目していた他の客たちもほっこりとした気分になる。
 玲二はその光景を気にも留めず、自分のランチを早いペースで食べていた。しかし、自分の食事を終えると、スープののったマグカップを引き寄せる。
「こっちに悠二をよこせ。俺が食わせる。その間に、メニュー決めて、注文しろ」
 和也は呆気にとられる。時より、こういうことはある。
 ――悠二を妊娠した時、最も懸念したのは玲二が父親の役割をこなさないことだ。麻美の時だってそうだったのだ。腹の子を切り捨てるのではないかと和也は思い当たった。思い悩んだ和也は病院に相談したが、法律の縛りがあり、中絶は難しいとのことだった。
玲二は妊娠後も和也の体を求めた。体の形が変わっても、節度を守りながら。時より、無表情だがふとした時に腹を撫でていた。
ベビーグッズにも惜しみなく金は出していたし、車もファミリーカーに買い替えた。玲二にも父性らしきものがあるのかと、和也は感心したものだ。
 勿論メインは和也だし、自分から進んでというわけではないが、悠二が生まれた後も稀ではあるが夜泣きしている悠二のおむつ交換やミルクを飲ませてくれていた。
「ほら」
「あ、うん」
 膝に抱いていた悠二を玲二の腕に任せる。
「やー!」
 悠二は和也に手を伸ばそうとするが、手にサンドイッチを持たされると、頬張った。
「ほら、今のうちに
「うん……――っ、やっぱり食欲が
 和也はメニュー表を見るが、揚げ物や肉類などのページをめくるが、途端に気持ち悪くなる。
「ちょっと、トイレ
 こみ上げる気持ち悪さに、和也はトイレに駆け込む。番のその様子に、玲二は平然としている。
「スープもくえ」
 そういってスープを悠二に押し付けるが、悠二はぷいっと横を向いた。
 和也の時と正反対の態度だ。
「お前、さては久住家に2週間預けられて恨んでるんだろ」
「あっぷ!」
 玲二の手をぺちぺちと叩く。
「仕方ねえだろ。アイツはヒート中何もできなくなるから、回復も時間がかかるんだ。
 ――それに、お前の弟か妹ができたんだから、これから忙しくなるぜ」
「まっ?」
 父である玲二の言うことを悠二は完全に理解しているのだろう。このポテンシャルの高さから見て、αの可能性は高かった。
 5分ほどして、和也は戻ってくる。
「おかしいな。なんか調子がいまいちなんだよな。発情期終わったのに
 和也はげんなりといった顔をしている。すっかりぬるくなった紅茶を啜り、ため息を吐いた。
「何言ってんだよ。発情期後だからこそ、身に覚えがあるんだろうが」
「ん?」
「だから、二人目だろ?」
「えっ。嘘、だろ?」
 和也は呆然とする。確かに、発情期が終わった後も、体がだるく熱っぽかったのだ。風邪をひいたものだと思っていたが
「嘘なわけあるかよ。仕込んだのはおれなんだぜ。ま、明日にでも病院いって、確かめようぜ」
「あ、うん
「クリスマスプレゼントになったな」
 元々βであった和也には、Ωにある子宮が後天的に作られたため、妊娠はしにくいと診断されていた。悠二ができたのも、ほぼトラブルなく過ごせたのも、奇跡であると。
 玲二の目的は和也をΩにして、自分から離れられなくすることだった。悠二が産まれ、和也は名実ともに玲二の番だ。
 ――春には悠二を保育所にいれて、大学に復学しようと考えていた。大学院にも進むつもりで、ゼミの教授に相談していたのだ。
 それに悠二を預けることができれば、バイトを初めて、玲二に養われている状態から少しでも脱却したいと思っていたのに。
だから、二人目など
 周りのαは玲二の執念の強さだと感じていたが、和也は未だ信じられないという顔をしながらも、自分の腹を見下ろしていた。

 ――客たちは同情の目でΩをみやる。 呆然とした顔で自分の腹を見下ろしているΩにとって、妊娠は思いがけないことなのだろう。
 どうみても20歳をいくつか越えたくらいだ。そんな若い彼が、自分よりいくつか年上の目の前の美貌の上位αの執着を一身に受けている。
 Ωが総じて多産傾向なのは、αがΩを逃がすまいとする執着によるものだ。 ドラマではαとΩの恋物語は美しく描かれている。
 実際のところは、果たして、美しいといえるのだろうか。




∞∞∞

幸せな話かと思いきや、メリバです。