かにやけんせつ
2025-02-24 02:12:34
3033文字
Public 魔法少女特務機関 Main Story
 

魔法少女特務機関 Fragment.005

#2023/7/13
#Aoi_Cyan


 美雲が持ってきてくれた朝食は、サンドイッチを中心とした洋食であった。冷房の効いた室内である分身体を冷やしすぎないためか、暖かいコーンスープも添えられている。

「お片付け……
「いいからご飯食べる!!片付けはそれから!!」

 怒られて渋々食事を摂る美雲を見て、博士が苦笑いしている。が、そんな博士に翠が「あなたもだから」とため息をついていた。すずらんに聞けば、いつものことみたい、という返事が返ってくる。その様子を眺めていると、ふと博士が詩杏に声をかけてきた。

「ところで詩杏ちゃん、今日の放課後は空いているかい?」
「空いてますけど」
「よかった。魔法少女として戦うための研修を受けてもらいたくてね、いつでもいいんだけどできれば早いほうがいいだろう?だから、君さえよければ、と思うんだ」

 問題がなければ今日の放課後に準備をしておく、と博士は言う。詩杏が頷けば、じゃあそういう予定で、と博士はタブレット端末を操作してどこかへと連絡を取っていた。そうしているうち、灯がサンドイッチの最後のひとくちを飲み込むと立ち上がる。

「ごちそうさま!さて、そろそろ学校行かないと」
「あれ、もうこんな時間。それじゃ、私も学校行ってきます」
「二人とも、行ってらっしゃい!」

 灯に続いて詩杏が立ち上がると、後片付けとかはやっておくから、と美雲と博士が言ってくれる。特務機関、という非日常も一旦は終わりか、と思いつつ、詩杏は借りていた部屋に通学用のリュックを取りに行くと、そのまま灯と一緒に学校へ向かうのであった。



 特務機関という、昨日まで知りもしなかった組織にお泊まりをして、魔法少女にもなって。となれば学校に来てもなにか起こりそうな気がしていたが──そんな詩杏の直感に反して、学校に来ても誰も昨日の夕方から今朝にかけてのことを、詩杏に訊いてくる人はいなかった。

「おはよー、詩杏ちゃん。今日も暑いね~」
「おはよう、みっちゃん」

 詩杏がみっちゃんと呼んだクラスメイトの少女は、山崎みずほ。詩杏と同じ、彩坂学園高等部からの編入組だ。ただ、みずほの編入前──すなわち去年までのこと──を、詩杏は知らない。お互いにとってクラスで一番仲の良い友人ではあるが、付き合いの短さ故か、互いのことを互いにあまり知らない関係でもあるのだ。

「あっ……世界史の教科書忘れてきちゃった。詩杏ちゃん、教科書見せて!」
「いいけど、置き勉すればいいのに……

 そうこう話しているうちに、朝のホームルームが終わり、授業が始まる。みずほが教科書を忘れてきた世界史の授業は、1時限目の授業であった。隣同士の机をくっつけて、一緒に教科書を見る。

「はーい、ちゅうもーく。今日の授業からはテテと人間の暮らしについてやりますよー。じゃあまず、テテが何か説明してもらいましょうか。それじゃあ……教科書忘れてきた山崎さーん?」
「えっ!?えーと……テテはわたし達人間の生活を手助けしてくれる、霊長類の仲間です。単純作業を得意としており、様々な場所でわたし達のために働いてくれています……
「はい、よくできました!とはいえどんな家庭にも1匹はいますし、学校にもたくさんいますから今更説明するまでもありませんね」

 授業を聞きながら、詩杏は思い返す。そういえば特務機関でテテを見たか……否、よく考えてみれば1匹も見かけなかった。だが、先生は「これをみんなに配ってね」と学校のテテにプリントを渡している。足が大きくて獣の耳としっぽを持つ、人間の子どもによく似た見た目の生き物、テテ。人類ひとりに対して3匹くらいはいる、と言われる生物だが、特務機関にいなかったということは特務機関はそれなりに特殊な組織なのかもしれない……

「というわけで上の空の蒼井さん、テテと人類が共生していた一番古い証拠が残っている場所はどこですか?」
「はい、帝国領アズバニア、オラエア村の……
「蒼井さん、アズバニアまででいいですよー」

 ……そう上の空になっていても、しっかり先生に当てられたことに答えられる詩杏であった。



 昼休みになると、詩杏は学園食堂へ食事を摂りに向かう。安い学食だけあって、詩杏の友人であるみずほもよく一緒に利用しているのであった。この日も注文を終えてみずほと同じテーブルにつくと、ふと「相席いいですか?」という声が聞こえてくる。

「あれ、詩杏ちゃんの知り合い?」
「うん、ちょっとね。……さっきぶりだね、灯くん」
「ふふ、さっきぶりです!せっかくだから一緒にご飯って思ったんだけど、お邪魔かな?」

 灯がカツ丼を乗せたお盆を手に首をかしげると、みずほはそんなことないよ、と灯が座るためのスペースを空ける。ちなみに今日のみずほの昼食はきつねうどん、詩杏はざるそばであった。

「それで、灯くんっていうの?多分中等部の子だよね、……なんで?」
「昨日色々あって、まぁ……
「友達の友達って感じ?」

 灯がそう言いつつカツ丼に手をつけると、それを見て詩杏とみずほも一緒に食事に手をつける。みずほの興味は詩杏と灯の関係にあるようであったが、二人が具体的に説明しようとしないのを見て諦めたようだった。

「ちなみにみずほさんは詩杏さんのお友達?」
「うん、お互いクラスで一番の友達って感じかな?だからよく一緒にいるの」
「お互い高等部からの編入組だもんねー。灯くんはどうなの?」

 そう訊かれて、ぼくは小学部から、と灯は答える。彩坂学園は私立校としては学費がリーズナブルな部類なので、小学部から通っているからといって良家の令息令嬢とは限らない。貴族のお坊ちゃまだったら家名くらい聞いたことあるだろうし、と詩杏が灯の身辺について想像を巡らせていると、灯はカツ丼に乗ったトンカツ一切れを口に運びながら首を傾げた。

「お二人は高等部からの編入組ってことは、中学校までは別の学校に?」
「んー、覚えてないや……詩杏ちゃんはどうなの?」
「誤魔化したなー。私は碧羽女学院。でも遠いからやめちゃった」

 詩杏が碧羽女学院の名前を出すと、灯は驚いた顔をする。それも無理はない、碧羽といえば電車で彩坂から一時間以上かかるような街だ。しかも碧羽女学院といえば名門校として全国的に有名な中高一貫校である。そんな学校を、ただ遠いから、だけでやめたのかと灯が訊けば、詩杏は頷く。

「前は近くに住んでたんだけど、色々あって引っ越したからさ。寮に入るのもヤダし、彩坂から通うのも遠くてダルいから高校からこっちって訳」
「碧羽ってことはお嬢様だし頭もいいしって感じでしょ?……ぶっちゃけさ、ここの授業はつまんないとか思わないの?」
「授業がつまらないのは碧羽でもおんなじだからなぁ。どうでもいいよ」

 ほえー、とよくわからなさそうな顔で聞いているみずほを横目に、灯と詩杏が話していると、灯は食べ終わったようで箸を置く。そしてそのままごちそうさまと言ってお盆を持って立ち上がった。

「それじゃ、ぼくはお先に失礼するね。また会えたらお話しよ!」
「うん、またね」
「ま、またね……?」

 詩杏とみずほがそう返事をすると、それじゃ、と灯はお盆を返却口に持っていってから去っていく。しばらくして詩杏とみずほも食事を終えると、同じように食器を返却口に返却してから教室へ戻るのであった。