RINGO
2025-02-23 23:24:31
1182文字
Public 境界の灯
 

境界の灯12


……フィオナ、やっぱり駄目だった。」
 ノックされた扉を開くと、目の前にはモフモフがいた。
 だが、いつものような余裕そうな表情はない。
 いつもの軽口は影を潜めている。
 事情の知らない人間が見れば、エリオットと間違えそうなほど気落ちした顔つきだった。
(モフモフがこんな顔するなんて……
 フィオナは、一瞬だけ悲痛な顔をするが、すぐに口を開いた。
「中、入って。」
 彼女は、だらりと垂れた彼の腕を引いて自分の部屋へ入れた。

……昨日、言っていたことだよね?」
 フィオナは、モフモフを心配そうに見つめる。
……とりあえず、フィオナがやっていたことを思い出して、朝挨拶したんだよ。」
 ソファーに座ったモフモフは、項垂れて、ため息をついた。
「そしたら、最初は寝ぼけて挨拶を返してくれたんだが……すぐ目が覚めて、怯えられた。」
「そっか……
……エリオットが怯えるのは当然かもしれないけど、彼も彼なりに努力をしてくれている……私は、なんて言葉を掛ければいいんだろう。)
 言葉が見つからず、フィオナは黙ってしまう。

 先に口を開いたのは、モフモフだった。
 隣に座るフィオナの手を彼の大きな手が包む。
「フィオナ、やっぱりコイツの事教えてくれよ。……俺は何も知らないんだ、コイツの事。」
 低く、押し殺した声で言ったが、微かに震えていた。
 モフモフは、フィオナの手を強く握る。
 必死な形相に、フィオナは驚いた。
 昨日求められた時とは違い、やられたからやり返す。という事ではなく本気で知りたがっているという事が表情から分かった。

……でも。)

 怯えているというエリオットの事を、自分が彼に教えても良いのだろうか。
 でも、もしかしたら、その情報で彼とエリオットとの関係が少しは前進するかもしれない。
 フィオナは、迷う。
 助けを求める様に手を握る彼の力になりたい。
 けれど、エリオットの事が心配な気持ちも、どちらも本当に思っていることだから。
(けど、こんなに辛そうな彼も見たくないよ……
 そんな彼女の心情を察したのか、モフモフは一瞬眉を顰めるが、唇を嚙みしめて目を逸らす。
……なら、写真だけで良い。それならエリオットにも言い訳しやすいだろ?」
 そう言った彼の声はどこか乾いていた。

――……やっぱり、お前もエリオットの事が大事なんだよな)

 わずかに肩を落として、目を伏せる。
 彼は、口を歪めて無理に笑みを浮かべた。
 フィオナの手を握っていた手から力が抜けた。

 その表情を見たフィオナは、彼が何かをあきらめた事に気づいた。
 震える口をわずかに開く。
 はっきりとした判断ができなかった自分が情けなくなった。
……ごめんなさい。」
 泣きそうになるのを堪えて、彼女は小さく、呟くように言った。