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えぬを
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マイディアボーイ
バキサム+シャロン
ネイゲルの残した薬の影響で子供化するサム
と、ネジが外れるバッキーと嗜め役シャロン
アラートが鳴った。サムに何かあった時のエマージェンシーコールだ。コールの主は、シャロンだった。
サムの言う〝コネ〟により政府機関に返り咲いた彼女は表立って調査出来ない任務をたびたび秘密裏にサムとバッキーに依頼してくる。最近の慣例だ。
大した仕事ではない、と振り分けられた今回の任務は、ネイゲルの研究結果の残務処理だった。
サム本人ではなく、同行しているシャロンからのコールであることに、バッキーの血の気が引いた。サムを喪うようなことがあれば、自分は狂う自信がある。そんな自信などない方がよほどいいのだが、自分のことは自分が一番分かっている。相棒であり親友であり、その先の少し進んだ、未だ名の付けられない感情を互いに抱き始めた矢先だ。ウィンターソルジャーを経て、今は模索している最中の自分のしるべはサムだけだ。すぐに通話を押す。
「サムは」
『命に別状はない。サムは生きてる。でも、ちょっとややこしいとにな』
「すぐ行く。地図を送れ」
電話の向こうのシャロンは冷静だ。一番聞きたいことだけを簡潔に伝えてくれる。
事情を聞かされるよりもこの目で確かめなくては納得も理解もできない。
サムが無事なのかこの目で確かめなくては。
バッキーはバイクにまたがると、法定速度をゆうに越えて送られた目的地を目指した。
◇
シャロンが送ってきた地図は、とある政府機関の研究所だった。
エレベータを待つ時間ももどかしく、受付を振り切ってバッキーは目的の部屋を目指した。廊下を曲がると、部屋の前で腕を組んだシャロンが見える。
「シャロン!サムは!?」
「バッキー、落ち着いて!あなたたちは戻っていいわ。彼はバーンズ軍曹よ」
バッキーを追いかけてきたセキュリティガードたちが、シャロンの注進に慌ててバッキーの顔を確認し、やがてその場から去っていく。
もどかしげに部屋の扉を開けようと、シャロンを押しのける勢いのバッキーに対し、いたく真剣な眼差しでシャロンがバッキーの腕を掴み静止した。
「落ち着いて。お願い。怖がらせないで」
懇願と戸惑いを含むそれに、バッキーが些か冷静さを取り戻す。
「怪我は」
「してない。命に別状はないって言ったでしょ」
「
……
〝ややこしい〟って」
「最後まで聞かなかったのはあなた」
一旦大きくため息を吐いたシャロンは、そっと扉を開けてバッキーを促した。
「とにかく怖がらせないで。大きな声もダメ。あと、笑顔で。ね」
「
……
は?」
開け放たれた扉の向こう、椅子に腰かけたその人物を見て、バッキーは目を見開いた。
大きめのシャツを腕まくりし、細い腕から伸びる小さな両手でマグカップを握る先の丸い爪。足のつかない椅子の下には、脱げてしまったのだろう、大人サイズのルームシューズが二足落ちていた。シャツの裾から見える太ももとまろい膝小僧に、バッキーにも見覚えのある傷跡があった。
「
……
だぁれ?」
「
……
サ」
「え?あれ?もしかしてばーんずぐんそぅ!?」
少年が身軽に椅子から飛び降り、素足のまま、とてとてと駆けて来る。少年の背に羽が見えた。見間違いじゃない。あとなんかキラキラしてるように見えた。少なくともバッキーには。
「なんだあれ、天使か」
「ちょっとバッキー、しっかりして!」
バッキーの近くまで駆けてきた少年は、尚も星が散ったようなキラキラとした目でバッキーを見上げてきた。
くらりとした。バッキーは倒れそうになる自分を奮い立たせ、見開いた目をそのまま、少年の顔をじっとみつめた。サムだ。
「ばーんずぐんそぅでしょ?おれ、がっこうのじゅぎょうでならったし、みたことあるよ!」
憧れのヒーローに出会えたかのように後ろ手に腕を組んではにかみながら見上げる少年の仕草に心臓が止まりかけたバッキーは、心の赴くままに少年を抱き上げた。
「ぅわ!」
「ちょっとバッキー、いきなり何してんのよ!」
「なんだこの可愛いいきもの」
「バッキー!本音!漏れてる!」
シャロンの言葉も意に介さず、バッキーは抱き上げた少年を覗き込んだ。
褐色の艶めく肌、美しい色の瞳、長いまつ毛とぷくりとした唇。バッキーの愛する全てのパーツを凝縮した少年がそこにいた。
「
……
サム?」
「ばーんずぐんそぅ、なんでおれのことしってるの?」
覗き込んで傾げて問いかけたのとは逆の方向に、こてん、と首を傾げたその愛らしさに再度バッキーの心臓が止まりかけた。
「
……
ネイゲルの残していた中途半端な出来損ない新薬のせい。一緒に残務処理してた職員が落としたそれをサムが被っちゃって
…
身体的に若返っちゃったの。今、研究者たちが大慌てで元に戻す方法探してるから
……
」
シャロンの言を上の空で聞いていたバッキーの腕の中、少年がやがてもぞもぞと動き出した。潤んだ目でバッキーを見つめてくる。
「おれ、もう七さいだよ、ばーんずぐんそぅ
……
はずかしぃから、ぉ、おろして」
その可愛らしい懇願にバッキーは腕に力を込めた。
「降ろさないし離さないしこのまま帰ろう俺と暮らそう二人きりで生きよう、サム」
「ちょっとちょっとちょっと!」
「シャロン、安心しろ、サムは俺が育ててこのまま結婚す」
「どこが安心!?未成年!犯罪!ていうか降ろしてあげて!」
「嫌だ!」
仇かのようにシャロンを睨みつけ、サムを抱き上げたまま一向に降ろそうとはしないバッキーに、頭痛がしてきたシャロンが尚も怒鳴った。
「サムが怖がるでしょ!保護者が必要な年齢よ!?もぅ、さっさと降ろしてあげて!」
「配偶者?」
「保護者 !」
色ボケし始めたバッキーの腕からサムを取り返そうとシャロンが腕を伸ばし、渡すまいとバッキーがサムを尚も抱きしめる。と。そこでバッキーは気付いた。
「
……
サム、お前、下着は
……
?」
「
……
、っ」
バッキーの腕に抱かれたまま、振り回され目を回していた少年ははたと我に返り、シャツの前見頃を掴んで下を隠す仕草をする。
「こんな小さい子の服がこんなとこにあると思う?今職員に買いに行かせてるとこよ」
ため息と共に告げられたそれに、シャツ越しの臀部の小ささと柔らかさに衝撃を受けたバッキーは、目尻に涙を溜めて恥ずかしげにシャツの裾を握る少年──サム──を見下ろし、よろけた。そして、震える手でサムを降ろすと膝をついた。
「すいませんでした」
とてつもない罪悪感に苛まれたらしいバッキーのその仕草を眺め、シャロンが何だっけこれ、ジャパニーズドゲザだっけなどと思考していると、にわかに廊下が騒がしくなった。
シャロンが呼び立てた一番の目的の人物が着いたらしい。ノックに返事をすれば、一人の女性が入ってくる。
「
……
サム
……
?」
幼い少年を見て、サラは驚いたように名を呼んだ。サムが喜色を表し、サラに抱きついた。
「マム!」
足元に抱きついて来た幼いサムを見下ろし、やがてサラは優しげに微笑んだ。
「
……
サミー、もぅ大丈夫よ」
そう言ってシャロンから事情を聞かされていたらしいサラは、幼い弟を抱き上げる。
「サミー、ママが来たからにはもう大丈夫。別のお部屋でお医者様に怪我がないか見てもらってから帰りましょ」
「うん!」
サムを抱き上げたまま、肝の据わりすぎたサムの姉は、職員と共に研究棟へと向かった。別の職員が薬の効果は時間が経てば消える、とシャロンとバッキーに告げて、サラとサムの後を追った。
「
……
バッキー、頭は冷えた?」
「冷えた
……
」
「あなたサムのことになると見境なくなるのどうにかしてよね」
「
……
自覚はしてる」
「じゃあ重症ね」
シャロンがいずこかにコールする。サラは医者と言ったが、それは研究者のことで、鎮静剤を打って休ませた後、時間が経てばサムは元に戻るらしい、と、携帯電話越しに確認する。
「さ、バッキー、私たちも行きましょ」
「戻る前に写真撮りたいけどだめか」
呆れたため息を吐いたシャロンが肩をすくめる。
「写真よりもなによりもプロポーズはちゃんと本人が元に戻った時に伝えなさいよね」
〝伝えられるもんならとうにしてる〟、とのバッキーのぼやきを背に、シャロンは部屋を後にした。
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