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えぬを
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Sam's pancakes
バキサム
サムのパンケーキ屋さん
スティーブとワンダの会話に嫉妬するバッキー
「サムのパンケーキが食べたい
……
」
「
……
それ、この間の任務の後、ナターシャも言ってた」
「
……
え?あれ?僕声に出してた?」
うんうんとワンダは勢いよく首を縦に振った。
アベンジャーズの任務だ。ワンダの特殊能力が必要だったため、最前線でキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースとバディを組んだ。最前線といえど、超人兵士であるスティーブが最も動き回り盾を投げ、跳んで跳ねて指揮をして、ワンダはその補助をしただけ。能力が高かろうが、ワンダはアベンジャーズとしてはまだまだ半人前だ。
同じく新たなアベンジャーズの一員として指名されたファルコンことサム・ウィルソンは、戦闘経験でいえばワンダより遥かあり、彼は既に単独で任務にあたっている。人当たりのいい空飛ぶ元軍人の彼の顔を思い浮かべ、その名が出てきたことにワンダは首を傾げた。
「『サム』って言うパンケーキのメーカー?」
あはは、とスティーブが笑う。
「違うよ、サムが作ってくれるパンケーキのことだ」
ワンダはその大きな瞳をぱちくりと瞬かせ、スティーブを見上げた。メットを脱いだスティーブの後にワンダは小走りに続く。それを見てスティーブが歩幅を緩め、ワンダはそれを面映く思った。迎えのヘリが遥か遠くに見える。
「僕とナターシャがヒドラの策略で追い詰められた時のことなんだけど
……
いや、そう考えると僕いつも何かに追われてるな?」
何を今更、とワンダは思ったが、口には出さなかった。遺恨ある意味ではなく、眼前に佇むスーパーヒーローは、信念の赴くままに進むので、敵が多い。ヴィランではなく、それは時として国であったり政治であったり一般人であったり。
正しいかどうかで考えたなら、彼の行動は正しいのだろう、嫉妬を覚えるほどに。
いつだって選択は正しく、この人が間違うことはないのだろう。それが、ワンダにとっては正しくないことも。
今回の任務の相手は最後の足掻きで建物を爆破した。ワンダの力で振りかぶるコンクリート片からは逃れられたけれど、直後巻き起こった砂埃には防御が間に合わず盛大に砂を浴びた。敵は既に沈黙していて、砂のシャワーを浴び、砂利を纏ったままスティーブが任務完了の報告をし、迎えが来る手筈になってはいたのだが。
草臥れたようにその場にしゃがんだスティーブが発したのが、件のパンケーキだ。
「あの時僕らは僕ら以外の誰を信じたらいいか分からない状況で」
あの時も僕ら砂まみれだったんだけど、とスティーブは笑う。
「匿ってくれたサムが、シャワー浴びた僕らに出してくれたのがパンケーキ」
「すごくおいしかった、とか?」
「いや、普通」
ナターシャも〝サムのパンケーキが食べたい〟と、しみじみ呟いていた。あれは無意識だった。アベンジャーズの美しい元スパイが、魅惑的な唇を尖らせて、ぼんやりと呟いたのが珍しかったのを覚えている。
「焦げてるとこもあったし中が生焼けのとこもあった。でもね、あの時食べたパンケーキの味を、僕は一生忘れない」
──きっとナターシャも。
遠い目をしてキャプテン・アメリカが言う。
過酷な戦闘、命のやり取り、裏切りや、敵わぬ絶大な権力。そして、孤独。
誰を信じていいのか何をすべきか迷うことが、眼前の英雄にもあるのだと唐突にワンダは悟った。
──あのドアを一歩でも出たら、お前もアベンジャーズだ。
恩人の言葉が脳裏に蘇る。犯した過ちを皆がこうして少しずつ修復している。
ベッドの下、不発弾を睨み付け、震えながら耐えた時は世界に二人ぼっちだった。そしてワンダは一人ぼっちになったと同時に、すべきことを見出した。
ホバリングの音が近くなる。
振り返るとヘリが旋回して着陸するところだ。後部のドアが大きく開く。
思わずワンダは、あ、と口に出していた。スティーブも同じく。二人で顔を見合わせて笑う。
「何だよ二人して俺の顔見た途端に笑うなんて。任務は大成功ってことか?
……
の割に、砂埃だらけじゃないか。おい怪我とかしてないか?」
優しげな翼持つ人が笑う。別任務の帰り、連絡を受けて迎えにきた、と朗らかに言う。
スティーブが盾を背に背負い、ワンダをエスコートするように誘導する。過たず理解したワンダは頬に砂をつけたまま笑って強請るのだ。
「ねぇ、サム。私もサムのパンケーキ食べてみたい」
◇
『──ってことがあってね』
「
…………
ス」
『まぁいいから聞けよバック、最後まで聞けよ。あの後僕らアベンジャーズの基地に戻って強請ってサムにパンケーキ作ってもらって食べたんだよ。味は普通だけどやっぱりまた食べたくなるんだ。でね、ワンダもサムのパンケーキ大好きになっちゃって』
「
……
」
『あのサムのパンケーキをこれから一番食べることのできる幸運なやつに腹が立ったからとりあえず言っとこうかと』
「
……
今んとこサムのパンケーキ一番食べさせてもらったやつ誰なんだ」
『ナターシャ』
「
……
意外だ」
『次点でワンダ』
「お前じゃないんだな」
ふふん、とバッキーが勝ち誇ったように笑う。勝てていないのだが。
『
……
いつの間にか抜かれちゃったんだよでもその次は僕』
──じゃあなクソ野郎どうか幸せに。
ぶつ、とスティーブの捨て台詞と共に唐突にオンラインの通話が切れた。
キッチンからサムが両腕に皿を抱えて戻ってきたからだ。
「スティーブは?」
「疲れたから一旦休むって。ご老体だからな」
「俺も話したかったのに」
口を尖らせたサムがテーブルにことり、と皿を置く。
「
……
何で」
「は?」
「何でシリアル?」
「あ?シリアル嫌いか?他に何もないぞ?嫌なら食うなよ」
「いや違うそうじゃなくて」
──アベンジャーズメンバーのあんな蜜月を聞かされたばかりでまさかパンケーキ以外が出てくるなんて思わないだろ。
「うわお前すごいめつきわるおになってんぞ何だどうした」
サムが、若干身を引いて嫌そうな顔でバッキーの顔を指差してくる。
「
……
俺もお前のパンケーキが食いたかったんだよ」
サムの指差す人差し指を機械の手で掴み取り、そのままバッキーは唇を寄せた。ちゅ、とリップ音の響いたそれに慌ててサムは腕を引こうとするが、微かな駆動音を立てる腕は並大抵の力では到底敵わず、サムは手を取られたままだ。
「
……
お前、スティーブから何か聞いたんだな?」
「サムのパンケーキ屋がアベンジャーズで大人気だって。あんな話し聞いたら食いたくなるだろ。食わせて」
作って、と強請るような請うようなバッキーの声音に、昨夜の空気を思い出して思わずサムは早口で叫んだ。
「無理に決まってんだろ腰痛くて長く立ってられないんだから!」
叫んだ後にしまった、と、サムはにやけたご尊顔のハンサムフェイスを睨みつけた。
「なら責任取ってやる。戻ろう」
腕を引かれ、サムは抵抗虚しく再度寝室へと引きずられていく。
「し、シリアルふやける!」
最後の抵抗の言葉が我ながら情けない、とサムは思うも、振り返ったバッキーの顔は満面の笑みだった。
「ふやけてようがどろどろだろうがなまだろうがお前ならなんでもいいぞ、俺は」
「お、お前、それ朝食のことだよな
……
!?」
ばたん、と静かに寝室のドアが閉まった。
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