ねぶくろ
2025-02-23 22:30:04
1184文字
Public 一次創作
 

一口大のバウムクーヘンエンド

2月13日にTwitter(現X)に投稿したSSです。 (一部修正箇所あり)
全年齢向け創作BL

「お前を見てると、相手の幸せを願えるって幸せなことなんだなって思うわ」
 お通しの枝豆を摘まみながらそう零せば、草間はテーブルに突っ伏した姿勢のまま、「お前まじで最悪」と呟いた。涙でヘロヘロになった声を無視して、中ジョッキを傾ける。送別会でもしているのか、座敷の方からは爆笑が響き、隣の個室からは女性が愚痴をまくし立てる声が聞こえていた。披露宴会場とは雲泥の騒がしさを誇る居酒屋の店内で、テーブルを挟んだ彼を見遣る。
「相原に好きって言ったことあった?」
 不躾な問いかけに、草間が首を横に振った。ぐずぐずになった顔をおしぼりで拭いて、彼が「ない」と口をへの字に曲げる。そのまま、大して飲めもしないのに頼んだ梅干しサワーをちびりと飲んで、彼が俯いた。
……すげぇ綺麗だった」
 後悔するように吐き出す彼から目を逸らして、枝豆を口に放り込みながら相槌を打つ。
「そうね。綺麗なドレスだった」
……そっちも綺麗だったけど、」
 彼が鼻を啜って、テーブルを濡らした。ぽたりと雫の零れたそこを見つめたまま、彼が言う。
「言えばよかった。……好きだって、そしたら」
「それでも相原はお前を選ばなかったよ」
 相原は、高校時代から付き合っていた二つ年上の男性と入籍した。めでたく結婚式を挙げたこの日に、彼女が掴んだ幸せを否定するような『もしも』を語るのは不謹慎だ。しかして、彼女に思いを寄せていた草間に「祝ってやれ」と言うほど心を鬼にすることも出来ず、ジョッキを片手に引き出物の袋をぼんやりと眺める。
「好きな人見つけて、とっとと結婚して、『馬鹿みたいに泣いた日もあったな』って早く思い出にしちまえよ」
 その時は俺が今日のことをスピーチで面白おかしく語ってやるよ、と笑い飛ばせば、草間は目線を持ち上げた。目元を真っ赤に腫らしながら、「お前にだけは頼まない」とサワーのグラスを傾ける。目を伏せて、草間は「幸せになってほしいって、早く言いたい」と呟いた。
……お前はちゃんと言えるようになるよ。だから、とっとと次の恋に向けて走り出せ」
 今日は奢ってやるから、と励ますように言葉を重ねれば、草間はようやく顔を上げて、かすかに笑った。

          *          *         *

 帰路につく。ひとり暮らしのアパートに帰り着いて、ネクタイを緩めた。洗面所で手洗いうがいをして、息を吐く。リビングで引き出物の紙袋から箱を取り出して、包みをほどけば、そこには有名な洋菓子店のロゴがあしらわれていた。中身はバウムクーヘンらしい。それを眺めて、無表情のまま一つを手に取る。
……俺は、お前の幸せを願ってるよ」
 だから、とっとと次の恋に走り出せ。――付け入る隙なんて、俺に晒すな。
 包装を剥いて、一口齧ったバウムクーヘンは、ひどく甘ったるい味がした。