ねぶくろ
2025-02-23 22:24:50
947文字
Public 一次創作
 

100の言葉で

2月11日にTwitter(現X)に投稿したSSです。(一部修正箇所あり)
全年齢向け創作BL

「『百聞は一見に如かず』と言いますからね。私の並べた100は、貴方の1には届かないんですよ」
 視覚情報には及びません、と吐き出された言葉に曖昧な相槌を打つ。無事に記事が校了したから、と宅飲みに誘ってきたのは彼の方だった。返事に迷って、缶ビールを傾ける。彼は一缶目のチューハイを片手に、赤い顔で口元を歪めた。普段の彼からは考えられない投げやりな声で、「文章表現の巧拙って何なんでしょうね」と呟く。
「上手い文章を書いたら、少しは注意を引けるんでしょうか」
……今だって充分うまいじゃないですか」
 咎めるように言葉をかければ、彼が据わった目でこちらを睨んだ。そのまま、ぐいとチューハイの缶を傾けて、それをこたつの天板に置く。平時は穏やかな物腰の人物だというのに、ひどい荒れようだ。彼はそのまま、つまみの裂きイカに手を伸ばしながら「は貴方とは違うんですよ」と吐き捨てた。
「どれだけ良い文章を書いても、フィードバックでそれに触れられたことなんてありません」
……見る目がないんじゃないですか」
 貴方も、相手も。――飲み込んだ言葉がどう伝わったか、彼が苦く笑った。
「そりゃ、あの人は見る目がないと思いますよ。よりにもよって貴方に熱を上げてるんですから。……まぁ、そんな彼女に思いを寄せている時点で私も大概です」
 モテる男は良いですね、と僻まれて苦笑を返す。ビールの缶を空にして、缶をへこませた。彼が「洗いにくくなるのでやめてください」と顔をしかめる。それを無視して、俺はこたつから立ち上がった。冷蔵庫を物色して、次の銘柄を選び取る。
 再びこたつに足を差し入れれば、彼が爪先でこちらの腿をつっついた。
「実際のところ、どうなんですか? あの人のこと」
 こっちはかなり相談を受けているんですが、と自傷行為のように笑って見せる彼には言葉を返さずに、プルタブを起こす。桃の香りがするサワーで喉を湿して、彼を見た。首筋まで真っ赤に染まった彼を見つめて、頬杖を突く。俺は軽くため息をついて、口を開いた。
「叶わぬ恋はやめた方がいいですよ」
 貴方も、相手も、――俺自身も。
 飲み込んだ言葉をどう受け取ったか、ひた隠しにされた恋情を知らない彼は、口をへの字に歪めてそっぽを向いた。