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望月 鏡翠
2025-02-23 22:24:00
1053文字
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日課
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#1643 「満月」「拾う」「網」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
昔にした約束を、果たしにいくことにした。
どうしてこんな晩年になって思い出したのだろう。その思考を意味がないと止めた。晩年になったから思い出したのだろう。
最近のことを覚えていられないのに、昔のことばかりが思い出されてくる。どうして今まで忘れていたのだろうかというようなことが、ふっと頭の中に湧いてくる。
人生を振り返り、まとめる段階に来たのだ。
あるいは初めから魔法のような力によって、定められていたことなのだろう。
遠い約束という魔法だ。
満月の夜に舟を出した。銀色の光が、波の静かな水面の上に道を敷いている。その上を進むと波のたったところがあとになって残る。
もう戻らぬ道だ。そう思うと恐ろしいような気がした。
まだ、心の準備もついていないし整理もできていない。今すぐに帰るべきなのではないだろうか。
しかし結局、陸には戻らなかった。舟を戻すよりもまっすぐ進み続ける方が楽だったからだ。
沖に進んでも、この辺りはまだ浅い。昼間であれば、海底も見えるだろう。舟に乗せてきた網を、海に投げ込んだ。
しばらく漁をしていない。綺麗に広がるように投げねば、何も取ることができないのだ。もうそんな体力が残っていないから漁師は引退したのに、網は不思議と綺麗に広がって、海の一部を切り取って水の上に持ってきた。
魚影はなかった。海底まで届くほどの大きさもない。
だから何もないはずだ。
しかし、網が何かを拾う気配があった。力を込めて引っ張る。舟が大きく揺れたが、バランスをとりながら踏ん張る。
少しずつ引き上げていく、その間に、海に出るに至った昔の思い出を振り返る。
あの時はまだ、泳ぎ方すら知らぬ子供だった。溺れたときに助けてくれた不思議な生き物。半分は魚で半分は人の姿をしていた。それと約束をしたのだ。
海に慣れて、溺れないようになったら、今度はこちらから会いにいくと。
だが、溺れた直後は海どころか水すら恐ろしく、走行している内にそのときの出来事を、都合のいい夢だと思い込み、やがて忘れた。
年をとりすぎて、夢を昔の思い出だと思ったままの可能性は依然として残っているが、それでもいいのだ。なぜなら、もう年をとりすぎて、溺れたとして悲しむ家族もいないのだから。
引き上げると透明な何かが、ゴトリと船底に転がった。
どうして人は死ぬ間際になると走馬灯が回り、余計なことまで思い出すのだろう。
しかし、思い出した出来事もろともに食われて、舟には骨も残らなかった。
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