大きな仕事が一つ終わり、ようやくいつもの副業に戻ってきた。副業と言いつつ、収入としては主たる仕事にあたる。副業と呼んでいるのは、己が何者であり何者と呼ばれたいのかという自認の問題でしかない。
定期的に本業に注力する時間があるから、会社員は難しかった。フリーランスは性に合っている。本業が行き詰まったら副業で息抜きをする。副業に飽きたら本業に戻る。その繰り返しだ。
安定した生活をしている同居人のおかげで、なんとか仕事を失わずに済んでいる。信じられないという顔をされるが、否定はされない。
結果、なんだかんだうまくやっている。
揉めたのは、ピーマンの肉詰めの具を鍋用のつくねで済ませたらゆずが入っていて怒られた時くらいだろうか。俺はいいと思ったんだけどね、ゆず入りのピーマンの肉詰め。
きっと酢豚にパイナップルが入っていても怒るタイプなんだろう。
「今日の器はどれにする?」
本業で作った器が家にはたくさんある。使用感を確かめなければ、売り込むことができないからだ。
「この前みたいな、女が描かれているやつは嫌だぜ。しかも、裸の」
「いや、あれは実用性を考えてのものではなくて、展示会とかに出すようの見た目の美しさとか技巧を見てもらうためのものだから……」
しかも、過去の名作のオマージュだ。たまに実用性皆無の器を作ることも許して欲しい。
「まあ、それ以外ならなんでもいいってこと」
黒い艶のある漆の器を前にすると、彼は緊張してしまうらしい。器なのだから、もう少し気軽に使って欲しいと思っている。
漆器にジャンクフードを盛り付けたり家庭料理を盛り付けたりしてもいいのだ。だからそういう風に使うようにしている。確かに電子レンジや食洗機は向いていないのだが器は器なのだから、もっと気軽に使ってくれていいはずだ。
同居人の心を変えられたら、俺の本業の未来はもう少し明るいのではないだろうか。
「この後の予定は?」
今日のこのあとというような短期的な話ではなく、もう少し長い範囲での話だ。
「ついに作る器のデザインを考えて、その間に仕事が入ったらそっちに取り掛かるかな」
「窓口開けたか?」
「……わすれてた」
「しっかりしろよ。宣伝もしときな」
頼りになる同居人のおかげで、来ない仕事を待たなくても良くなった。
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