nuka_boshi
2022-08-18 13:44:20
2778文字
Public すとぼ関連
 

【StoryBox派生自己解釈二次】魔女達の幕間【にーやんと自己解釈ママさんの日常会話みたいなの】

鳥籠リンちゃんは添えるだけ。
魔女と鳥籠系列シリーズのネタバレを含みます。

 戸惑いながらも、妹を受け入れ始めて早幾月。僕はあれ以来毎日、背中に視線を感じながら過ごしていた。
……なにやってるんですか、母上」
「あらやだ、見つかっちゃった?」
 半ば呆れながら声をかけると、物陰に隠れていた母は「なんでバレたのかしら」と真剣な顔で悩み始める。妹は気付いていなかったのか、母にびっくりしながら僕の服の裾を握りしめた。
「なんで隠れたんですか」
 そう問いかければ、母はぷくっと頬を膨らませて答える。
「だって、二人ばっかり仲が良いんだもの。お母さん、除け者になったみたいで寂しいわ」
「誰も除け者にしてません。家族でしょう、隠れなくても普通に話しかけてくれれば良いじゃないですか」
 僕の言葉に母はきょとんと目を瞬かせて、その後くすくすと笑いだした。――何かおかしな事を言っただろうか。戸惑い妹を見るも、妹もわからないようで首を傾げている。
「ごめんなさい、だって嬉しいんだもの。『家族でしょう』だなんて、レンの方から言ってもらえる日が来るとは思わなかったから」
 僕は居心地の悪さを感じて目を逸らす。まぁ確かに、数ヶ月前までの僕なら、こんな言葉絶対に言わなかっただろう。数ヶ月まで、僕は確かに、この世の全てがどうでもいいと思っていたから。だから、ついこんな事を口にしてしまう。
……母上は、昔の僕をどう思いますか?」
 きっと意味の無い問いだとわかっている。だというのに、母は笑い飛ばすこともせず真剣に考え始める。
「うーん、そうねぇ……どうって改めて聞かれると悩むわね」
「それは……昔の僕が手に負えない問題児だったから……?」
「あはは、そんなわけないじゃない。今も昔も、レンは変わらずお母さんの大好きな自慢の息子よ」
 母は裏表のない笑顔で笑い飛ばす。その言葉に同意するかのように、僕の隣で妹が何度も強く頷いた。
「でもねぇ、レンは自分の事、好きじゃなかったでしょう?」
 その言葉が核心を突いた気がして、僕は息を呑んだ。
「そ、それは……そうかもしれませんが」
「それに自分以外も、好きじゃなかったでしょう?」
 ――ぐうの音も出ない。僕が押し黙ると、母は優しく微笑んだ。
「レンは『魔女』としては、すごく優秀だったわ。でも、だからこそかしら。それがとても辛そうで、寂しそうに見えたから。だから、レンの事大好きなお母さんとしては、なんとかしてあげたいなぁって、ずっとそう思ってたの」
 ――なのに、お母さんじゃ何も出来なくって。もどかしくてねぇ。
 母の言葉に僕はそっと目を逸らす。確かに過去の自分は、母の気持ちを考えることすらなかった。世界が灰色で、何もかもがどうでもよくて。
 ――独りきりの僕の背中を、この人がどんな気持ちで見ていたかだなんて、考えもしなかった。
――でも、今は違うでしょう?」
 母は僕の目を覗き込みながら優しく言った。
「今は、レンも自分や周りを大切に思ってくれてるでしょう? お母さんの大好きな人が、お母さんの大好きな人を好きになってくれて嬉しいなって、そう思うの」
 僕は大きく息を吐き出すと、手で目元を覆う。今自分がどんな顔をしているか、誰にも見せたくなかった。
……あ、のさ。リン。えーと、……喉が渇いたから、お茶を取りにいってもらっていいかな?」
 その言葉を聞いて妹は目を瞬かせて、そしてパッと花開くような笑みを見せる。
「うん! ――あ、あのねっ! 二人にとびきり美味しいお茶を飲んでほしいから! その、しばらく戻らないから大丈夫だよ!」
 妹はそれだけ言うと、パタパタと部屋を飛び出した。きっと二人きりで話をする時間を作ろうと気を利かせたのだろう。相変わらず、周囲をよく見ているものだと思う。扉が完全に閉まりきったのを見計らって、僕は母に向き直る。
……全く、相変わらず貴女は全然魔女らしく無いですね」
 僕の言葉に母は悪戯っぽく笑った。
「そうね、お父さんにもよく言われたわ」
 かつて、この毒気を抜かれる笑顔に苛立ったことが何度もあった。このような体たらくで使命が果たせるものかと、心の内で蔑んだ事すらも。だけど今は――、今は、この優しい笑顔を好ましく思う。
「でも、魔女としてはダメでもお母さんとして合格ならそれで良いのですっ!」
 あどけなく笑う母に、思わずこちらまで笑みが溢れる。
――どうかいつまでも、僕らの母でいてください」
 僕は、知っている。母が何度も、魔女としての使命に苦しんできたことを。
 冷徹な魔女としての仮面を被って、心の中で泣きながら人々に手をかけた事を。
 その手を血で濡らしながら、それでも美しくあろうとするその心がどれだけ気高いか、今なら分かる。
 だから、どうか。願わくば、この人が少しでも『魔女』ではなくありのままの『母』で居れますように。この優しい人が、これ以上傷付かずに済みますように。そう、祈らずにはいられない。
「ふふっ、なぁにそれ? お母さんはいままでだってこれからだって、いつでもリンとレンのお母さんよ!」
 当たり前のように言われて、僕は心中で静かに白旗を上げた。
 ――ああ、やっぱりこの人には敵わないな。
 妹と打ち解けてからというもの、どうも自分はこの笑顔にとても弱い。苦手だとすら感じる。
「さぁ、早くリンも呼んで、お茶にしましょう!」
 苦手だというのに、それが酷く心地よくて。――この時がずっと続けば良いのにと。柄にもなく、そう祈ってしまったのだ。