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沁月
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ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
猫さんに願いを
MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
猫の日。
狩猟から帰ったハ♀を出迎えたのは。
黄昏時の水車小屋の前、狩猟から帰った矢先に一体何事なのかと、里の英雄らしからぬぽかんとした驚きの表情を浮かべる娘。
彼女の視線は、目の前で悪戯っぽく微笑んでいる、自分の師であり最愛の恋人であるウツシを、夢でも見ているような様子で真っ直ぐ捉えていた。
「ウツシ教官
……
? あの、その頭飾りは
……
」
「おかえり、愛弟子! 無事で良かった! 今日はね、猫の日だよー!」
あどけなく朗らかな様子のウツシの頭には彼の髪色と同じ、
青漆色
せいしついろ
の、猫耳がくっついた頭飾りが着けられている。
娘の視線がその飾りに釘付けなことを察したウツシは、猫の手を意識して丸めた両手を掲げ「にゃーん!」と、彼女にますますにこやかに微笑んだ。
「えへへ、どう? さっき子どもたちと遊んでたら、猫の日だからってこのアイルーイヤーの頭飾りを着けられちゃってね! 似合う、なんて言われたから、キミにも見てもらいたくなっちゃって!」
そうでしたか、などと冷静に答えられるような心理状態ではない娘は、無言で、じっとウツシを見つめ続ける。
ふるりと揺れる猫耳を着けた彼の笑顔は愛くるしさに満ちていて、胸が、甘く蕩けてしまいそうで。
「
……
あれ? 愛弟子?」
不思議そうに首を傾げながら、猫耳を揺らして、ウツシが娘の顔を覗き込む。
彼の吐息で空気が揺れたことを感じた娘は、黄昏時でも分かるほど、顔を赤く沸騰させた。
感情の高ぶった影響か、彼を見上げたその目は、少々鋭さを帯びている。
射抜くようにウツシを見つめたまま、娘は彼の大きな強者の手を力強く掴み取った。
「
……
教官。
……
どうぞ中に」
「え? あっ
……
愛弟子? え? え?」
娘から手を握ってくれたことを純粋に喜びつつも、ウツシはそれ以上に彼女の様子がとにかく疑問だった。
何事かと尋ねようとするより先に、彼は娘に手を引かれ、水車小屋の土間へと入って行く。
今の彼女の背中には有無を言わせぬ、妙なほど鋭利で勢いのある貫禄と迫力があった。
「ま、愛弟子? ねえ、どうしたの?」
「
……
教官、ここに座って頂けますか?」
「え?」
告げながらウツシの手を離した娘が、その手で土間の
框
かまち
を示した。
何が何やら全く検討のついていないウツシの頭上には疑問符が浮かび続けたままだが、彼女の願いを断る理由もない。
猫耳を着けたまま「分かった!」と笑顔で答え、彼は素直に、土間に足をつける形で框に座った。
「これでいい? 愛弟子、一体どうしたの?」
目線の高さが立っている自分と同じ程度、いや、それよりも少し低くなってくれたと意識しながら、娘はウツシの顔を上気した表情で、唇を一文字に結び、じっと見つめ続ける。
やがて彼女は妙に緊張気味に、どこか意を決したように、座った彼の前に立った。
「
……
ッ! 失礼、します!」
大仰に宣言した後、娘は両手を広げて、猫耳が着いたウツシの頭を抱きしめるように包み込んだ。
「は、へっ!?」
あまりの驚きと、頬に触れた柔らかな感触から、ウツシの口から間抜けな
頓狂声
とんきょうごえ
が漏れる。
その反応を見た娘の口角は、ゆっくりと上がっていった。
彼女は顔も赤いまま、自分の胸にすっぽりと収まった彼の頭を愛おしそうに、アイルーイヤーの頭飾りごと、両手を滑らせて撫でていく。
手の平全体で優しく撫でたり、指を使って髪を
梳
と
くように撫でたり、何度も何度も、まるで猫を
愛
め
でるように。
「あ、あ
……
! あ、あの
……
愛
……
弟子
……
!?」
「
……
はあ
……
! 癒されます
……
ウツシ教官
……
! 可愛い
……
です
……
!」
「かっ
……
!? うぅ、ま、参ったなぁ
……
」
娘にされるがまま、彼女の胸の中でウツシは顔を真っ赤にしながら「うぅ」と再度、照れたように唸る。
彼はほんの悪戯、子どもたちとの遊びの延長のような感覚、おふざけのつもりで猫耳を着けて、愛する人を出迎えた。
びっくりしたり、何を着けているのかと笑ってくれれば良いと考えていた。大切な最愛の彼女を、過酷な狩猟の疲労や緊張感から少しでも解放できたらと。
だが、娘の反応は、ウツシの予想外。今、自分は抱きしめられて、無抵抗に撫でられ続けている。
(お
……
俺が、びっくりさせられちゃったよ
……
!)
大きく喉仏を震わせ、ごくん、とウツシが息を呑む。
柔らかな娘の体と手の感覚は優しく、温かく、まるで本当に猫になって愛でられているような心地。
(
……
まあ
……
これでも、いっかぁ
……
)
娘の胸の中、彼女に優しく撫でられ続けたまま、ウツシがとろりと目を細める。
これで愛する人が少しでも癒されてくれるのなら、それは願ってもないこと。それならば自分は、彼女が望む猫になろうと。
「
……
んふふ。愛弟子
……
ふみゃあ」
モノマネ技術に
長
た
けたウツシが、娘の胸の中で本物の猫のように、ごろごろと喉を鳴らし始めた。猫を意識して手を丸め「にゃあ」と高めの声で鳴き真似し、その片手で娘の頬を撫でる。
彼女は少し驚いて「ひゃっ」と小さく目を見開いたが、すぐに愛しげに微笑んだ。
「ふふふっ
……
教官ったら、アイルーのモノマネまでお得意なんですね?」
「んにゃあ。ふふふ、みゃあお」
「ふふっ! おっきなアイルーさん!」
幸せそうに笑いながら、娘が更にウツシの頭を、猫耳ごと何度も撫でる。
彼が猫に徹してくれた優しさが嬉しくて、胸の奥はますます甘く、そしてほわりと温かくなって。
「
……
いつも、傍にいてくれて、ありがとうございます。ずーっと、大好きです
……
」
ウツシを抱きしめ、彼の髪を指に絡めたまま、娘が想いを吐息に乗せる。
彼女の言葉に、娘の胸の中で「んふっ」とウツシが小さく笑った。猫ではなく、人の、この世で誰よりも彼女を愛する男の
笑声
しょうせい
。
「これからも、ずっと傍にいるよ。オトモアイルーみたいに、ずっと
……
キミが望んでくれる限り、ね」
そう呟いたウツシに、娘が「幸せ」とぽつりと応えたかと思いきや、ふと、彼女は彼の猫耳を一撫でしてから、寂しげに目を伏せる。
「
……
ずっと
……
。本当に、ずっと
……
ずっと一緒にいられたらいいのに
……
」
「いられるさ」
間髪入れずに断言したウツシが突然、ぐい、と娘の腕を引いて自分の膝の上に乗せてしまう。
驚く彼女を正面から真っ直ぐ見つめながら、今度はウツシが愛しい人に片手を伸ばし、その頭をさらりと撫でて。
「知ってるかい、愛弟子」
「
……
何をです?」
「アイルーとも異なる猫という生き物はね
……
とても不思議な生き物なんだ」
ゆっくりと、ウツシが娘に顔を近づける。吐息が触れ合い、互いの熱が交わり、互いの
生
せい
を確信して、安堵できる距離。
ふっ、とウツシが愛しげに目を細める。
「猫はね──妖怪にだって、なれちゃうんだ。だから、ずーっと
……
一緒」
「
……
!」
ぱち、ぱち、と何度か目を
瞬
まばた
かせた後、娘は眉を下げ、どこか泣きそうな、けれど満たされたように笑みを浮かべて。
「それなら
……
嬉しい
……
!」
静かにそう呟き、彼女は正面からウツシにしがみつくように抱きついた。
娘の背に両腕を回し「愛してる」とウツシが囁く。
──我が愛弟子よ、最愛の人よ
……
!
──キミが共にいることを望んでくれるなら、俺は、人という
種
しゅ
を超えてでも、キミと共に
……
「
……
愛してるよ、愛弟子」
柔らかで穏やかな、確信と決意に満ちた想いの溢れるウツシの低い囁きに、娘は「私も」と応えながら、更に強く彼を抱きしめる。
彼女の手がもう一度だけ、大きく、ゆっくりと、ウツシの頭を猫耳の頭飾りごと撫でていった。
「私も、大好き
……
愛しています、ウツシ教官」
優しく微笑んだ娘は、そっとウツシの頭の猫耳の頭飾りに手を伸ばすと、それを滑らせるようにして外してしまう。
「あっ」
人に戻った彼の
驚声
きょうせい
を聞きながら、娘は流れるように自分の頭に猫耳の頭飾りを着け「ふふふっ」と笑みを
溢
こぼ
した。水車小屋前に立っていたウツシのように、悪戯っぽく微笑んで。
「おそろいです。これで絶対、ずーっと、一緒ですね」
今度はウツシが頬を染め、目を見開いて沈黙する番だった。目の前で微笑む愛しい恋人を真っ直ぐ見つめ、また、彼は喉仏を大きく震わせるほど、ごくりと息を呑む。
黙って固まってしまったウツシを見つめながら、猫耳を着けた娘は「ウツシ教官?」と、不思議そうに首を傾げる。
もう一度、ウツシの喉が、ごくりと鳴った。
「ッ
……
! もう、そんな、可愛いことして
……
!」
「え?」
「
……
俺の、可愛い可愛い猫さん」
不意にウツシの声質が
艶
あで
やかな響きを帯びた影響で、娘の胸が敏感に、どきんと大きく高鳴り震えた刹那。
彼女の視界はぐるりと反転し、気付けば目の前には、天井を背負ったウツシの
艶然
えんぜん
たる笑顔。
「今度は、俺が可愛がってあげたいなぁ
……
? 俺の、可愛い猫さん」
「
……
ふふ。なでなで、してくれます?」
「もちろん。
……
これからも、ずーっと、してあげる」
とろりと、娘の、ウツシの目尻が下がり、甘い視線が交わり合う。
ゆっくりと、ウツシが再び彼女に顔を近付けながら、片手でふわりと猫耳ごと頭を撫でて。
「──愛してるよ」
娘の唇が「私も」と動くよりも早く、情熱的に、ウツシの唇が重なっていた。
そのまま彼の手は、何度も何度も、先ほどの娘のように動き始める。
──これからも、ずーっと
……
──ずーっと、なでなでしてあげる
……
!
唇を重ねたまま、ウツシが喉奥で「んふふ」と至福の声を溢す。
彼の手は、互いの唇が架け橋のような銀糸を伴って、斜陽に煌めきながら離れた後も。
娘が「もういいです!」と顔を真っ赤にして告げるまで、彼女の着けた猫耳ごと柔らかに、何度も何度も頭を撫で続けていた。
@acadine
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