浮き流し
2025-02-23 00:08:42
4957文字
Public 右松
 

香る景色は思えばそこに(三松)

pixivと同じものです

三松に遭遇するモブ女の話
社会人軸未同棲
2024.11.23 三松ウェブオンリー記念に②

私はこの飲食店で働くモブ子
和モダンな店雰囲気と和服っぽい制服が気に入って、最近アルバイトを始めたの。

建物はちょっと古いけど、柔らかな絨毯にキラキラが練り込まれた壁、こんな所にこだわる?みたいな凝った意匠。景気の良かっただろう時代の豪華さが、見るたびに気分を上げてくれる。

高級感のある料理が手の届きやすい値段で食べられるランチはとっても人気。
といってもファミレスよりは値が張るから、小さい子供とかお酒を飲む人のうるささはない。大きな声で長時間お喋りするおばちゃんたちは多いけど、口調もスタッフへの対応も丁寧だから割といい所だと思う。


お昼真っ只中、最初のお客さまが帰ろうかとする時間に、1人の客さまが来られる。
「いらっしゃいませ〜」
「こんにちは」

その男性は背が大きくてブラウンの薄手のジャケットを羽織っている。そして顔がこう、シュッとしていてかっこいい。
「予約してる三井の連れなんですけど」
急いでいたのか、髪はやや乱れて息は少し弾んでいる。

連れが席で待っていると言われるので、ご予約席にお客さまを案内する。
席に近付くと、お客さまが右手を挙げる。
「よ〜。こっちだ」
「三井悪い、遅くなって」
「そんな待ってねぇよ」
先に来られていたお客さまはミツイと呼ばれた男性で、ワイシャツにネクタイ、下はスーツとサラリーマン然としている。
顔に力強さがあり、左の顎に縫ったような跡がある。
だけど、こちらも負けず劣らず男前だ。

なにはともあれ、これでご予約の2名様が揃った事になる。案内した男性が上着を脱いでいる間に、私はお料理の準備とお飲み物を確認する。
しばらくお待ちくださいと声を掛けて席を離れる。

2人はワイシャツと私服だし、来店時間が違うから同じ職場の人ではなさそう。喋り方からして、取引先の人って感じでもないみたい。


出来上がった御膳を、もう1人のスタッフと厨房から台車で運ぶ。
そしてお料理を並べていると、視界の端に布を押し上げる筋肉が入ってくる。薄手の服だからか、2人ともムキムキしている……。ジムの仲間とか運動部が一緒だったとかなのかな?

会話からするに、予約の方がミツイさん、遅れて来た黒シャツがマツモトさんと言うようだ。

並べ終わった所でミツイさんが、今日コイツ誕生日なんですよと教えてくれる。おいミツイ……!と恥ずかしそうなマツモトさんに、私は殆ど本心からお祝いの言葉をかける。
ミツイさんがハッピーバースデーの歌を歌い出すから、私も口ずさんで一緒に盛り上げる。そして再度お祝いとごゆっくりの言葉を残してテーブルを離れる。


「じゃあ改めて。松本、誕生日おめでとう」
「ああ、ありがとう。わざわざ悪いな」
「いいって事よ。日中なら外回りだからどうとでもなんの。吉田のフミさんも誕生日祝いするって言ったらいくらでも後で話合わせるって言ってくれたしよ。それより夜合わせられなくて悪いな。お前外出んの大変だったろ、繁忙期って言ってんのに」
「フミノリさんだっけ?専務の援護射撃は頼もしすぎる。お前の出張も前々からだから仕方ねぇよ。だから午後の分少し休憩後ろ倒しでやってきた。で、残業代は休憩伸ばした分を超過してからでいいって交渉した」
「お前んとこ時間給ないもんな。でもよかったな、製造離れてもいい事あるじゃねぇか」
「うーん、現場の方が性に合ってんだけどなぁ。あんま褒められた事じゃないけど、誕生日当日に祝って貰えるんだからそれぐらいするさ」

 仲良いんだ。それもわざわざ昼休みを作って集まるぐらい。
ミツイさんは営業の人なのかな。聞いてる限り、人懐っこくて誰とでも仲良くなりそうな感じ。
あと製造現場って言ったら、テレビで見る車とか食べ物とかの工場で、大きな機械がひっきりなしに動いて凄い速さでものが作られるイメージ。休憩するのとかって大変そう。
でも誕生祝いにわざわざここを選んで貰えたのは嬉しいな。

私は話がひと段落したのを聞き届けると、他のテーブルの片付けに回る。食器を片付けて顔を上げると、向こうにイケメン2人の姿が確認できる。
このお店の席は背もたれ部分が大きいため、半個室みたいになるのが特徴だ。普段スタッフからお客さまの姿は殆ど見えない。
だけどあの2人は背が高いから、頭から肩までしっかりと見えている。それがなんだか面白い。


しばらくして様子を伺いに行くと、お料理が少なくなっている。結構食べ終わるのは早いかもしれないなと思う。

台車を用意してきてお2人の食べ終わったコンロや鍋を下げて、飲み物のおかわりを尋ねる。
「こうも美味い料理があると飲みたくなるな」
 マツモトさんがぐいっとグラスを煽る仕草をする。
「ノンアル行くか?」
 悪い顔をするミツイさんに、私はお店のメニューを思い浮かべる。
「お持ちしましょうか?」
「すごい飲みてぇ。けど、流石に狭い部屋だと色々匂いがマズイな」
「そりゃそうだ。なら匂いないやつとかある?」
結論を待っていると、唐突に会話を振られる。飲めない私からしたらノンアルコールもアルコール入ってるのも変な臭いがするんだよね。そう思いはするものの、苦笑いしながら否定しない言葉を絞り出す。
「うーん……周りの人にも飲ませて匂いが分からなくなれば」
 私の返答は無事及第点だったらしく、飲みたがってたマツモトさんが案外大きく笑う。
「わはは。それは厳しいから水おかわり貰えます?」
「かしこまりました」
オレは飲んでもいいのになぁ。なんてぼやくミツイさんに、マツモトさんがオレが飲みたくなるからやめろと牽制する。


ラストオーダー間際の時間、私は少なくなってきたお客さまに目を配りながらディナーの準備をする。
食べ終わったのを見計らい、食器を片付ける準備に入る。

空の器を指し声をかけると、マツモトさんがえっ!と驚かれるから、私も驚く。えっ、ダメだったかな。
でもすぐに、大丈夫持ってってくださいと言われるものの、妙にそわそわした雰囲気が伝わってくる。向かいのミツイさんはお前緊張しすぎと笑っている。
どうしてだろう、お料理を持ってくる時もコンロを持って帰る時にもそんな事なかったのに。

 机の食器を片付け、食後のデザートとコーヒーを配膳する。さっき確認した際、ミルクは欲しいと言われたので真ん中にミルクも置いていく。
失礼します。私がテーブルから離れると、声を引き締めたミツイさんがマツモトさんに話を切り出す。

「なあ言いたい事があんだろ?もう休憩終わっちまうぞ」
なんだか、渋ってる子供を説得するみたいな言い方だ。
「あ、ああ……。もうすぐ記念日だろ?……だから、どうしたらいいか……お前に直接聞こうかと思って」
 マツモトさんが言葉尻を揺らしながら、言い辛そうに伝える。
 
(なにそれ恋バナ!?)
子供に例えてごめん、凄く気になる話だ。
いや2人とも大人だから、もしかしたら彼女さんじゃなくて奥さんかもしれない。結婚して何年、とか言われても納得する男前具合だもん。
 でもお相手さん羨ましいなぁ。わざわざこんな場所で相談するぐらい大切にされてるんだ。へ〜〜〜。
嫉妬を覚える半面、すごく気になる。
やる事も少ないので、私は迷惑にならない程度の近くで聞き耳を立てる。他のスタッフは休憩中だし、ディナーに向けての準備だって、別に今すぐじゃなくていいもんね。
 
「いずれはその……、ご両親にあいさつしたいとも思ってる」
うお〜〜!!私は心の中でファンファーレをかき鳴らす。
付き合って何年かの記念日に結婚のあいさつ……?!最高じゃん!
ミツイさんも同じ気持ちなのか、にやにやと揶揄うような声が聞こえる。
「へ〜?ダチに公言するのも躊躇ってたみのるくんがどうしたんだ」
「そりゃ友人としては行ったけど、やっぱり付き合ってる以上報告するのが筋だろ。それに、こんなにも幸せにして貰ってるんだ。オレも三井を幸せにする、生半可な気持ちじゃないって伝えたい」
緊張で上擦ってるものの、マツモトさんはしっかりとした言葉で宣言する。
ひ〜〜かっこいい!!私は心の中でゴロンゴロン転がりまくる。殴られても仕方ねぇと思ってはいる。なんて言うけど、こんな真剣に言われたら彼女のお父さんだって認めざるを得ないよ……!そう彼女のミツイさんだって……!!

……ミツイさん?
このミツイさんの関係者?
あっ、もしかして姉妹?だから先に友達であるお兄さんに相談をしてるんだ!やだ、友達どころかめっちゃ親密じゃん……!思わぬ関係にドキドキする。

お義兄さん(仮)のミツイさんは嬉しそうに、んな事ねぇから気にすんなと笑う。
「オレがグレた時も突然またバスケしたいって言った時も、諌めはしても見守ってくれたんだ。だから悪い様には言わないと思うぜ」
「そ、そうか……!」
「それにオレがのりおと付き合ってるとか誤解された事もあるしなぁ。親父もおふくろも、まだ完全に理解したわけじゃないけど、ひさしが選んだなら応援するって。オレの手握って熱く語るんだぜ。意味分からねぇよなぁ。けど、本当に味方になってくれんだなって思った」

ミツイさんは呆れながらも、家族を愛してるし信頼してるって声色で話し続ける。
だけど、聞いてる私には疑問しかない。
なんの話?マツモトさんの恋バナなのになんでこのミツイさんの話が出るの……?両親割と子供を信頼しているし、妹(仮)に対しても放任主義だよ的な激励

ただ当然、私に構う事なく話は進む。
「だからそんな固くなる事ないと思うぜ。それに大学の時から良い人できたのか、その割には女の影は見当たらないが。って聞いてくるぐらいには伝わってるみたいなんだよな」
「オイ待て、オレの事言ってたのか?」
「いや言ってねぇよ。オレが浮かれてるのから勘付いただけだと思う」

ミツイさんもマツモトさんも凄く嬉しそうな声で話す。
だけどどう聞いてもミツイさんとマツモトさん自身のお話だ。彼女さんはどうなったの。

意味が分からなくて、そろそろと近付いて物陰からこっそり様子を伺う。
するとその瞬間ミツイさんの顔がこっちを向く。
息を飲むも私が顔を逸らすより早くミツイさんが目を逸らし周囲を見渡す。

やばい、今の絶対不自然な動きだった。一瞬だったけど、ミツイさんすごく警戒した顔だった。
(もしかして盗み聞きしてたのがバレた!?)

怖くなるものの、急にいなくなるのもおかしいはず。
私は真っ直ぐ進行方向を向くと、パントリーに向かう動きを装う。
その視界の端で2人の距離が僅かに縮まる。
そんなに狭くもない机の上で、ゆっくりと両方の手が近付いていく。

私は弾き飛ばされるようにパントリーへ逃げて、そのまま崩れ落ちる。全身が、大きな心臓になったみたいにバクバクしてる。
天井を仰いで虚空を見つめる。さっき見た、網膜に焼きついた風景が勝手に再生される。

(なんか、多分、思ってたのと違う。)
お互いそろっと伸ばした手は、伝票を取るのが被ったとかそんな動きじゃなかった。

動揺で叫びそうになるのを必死で抑える。
さっきの会話、彼女さんとの話だったんじゃないの。なのにその動き、どういう事なの。

疑問が沸いてはぐるぐると掻き乱される。
回らない思考を整理しようとすると、すみませーんと声がかかる。
ミツイさんとマツモトさんだ。
(もう会計するのか……!)
ドキドキの元凶を前に、心中穏やかになる気がしない。
深呼吸して接客用の笑顔を貼り付ける。


会計処理をすると、ありがとうおいしかったと元気のいいお礼をいただく。

「ありがとうございました」
前室のガラス扉が開くと、ひんやりとした空気とともに甘い香りが流れ込む。
お客さまと茶色の外扉の合間から、赤やオレンジの木々が目に飛び込んでくる。

閉まりそうな扉を押さえて、順番に敷居を跨がれる。
ジャケットを小脇に抱えた白と黒の2人が横に並ぶ。

扉が閉まる直前、2人の距離が縮まる。下ろした手が絡み合う様に見えたのは、寒さからなんかじゃなくきっと――