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溶けかけ。
2025-02-22 23:50:59
1706文字
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ほぼ日刊
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小さな猫と大きな猫
猫の日まにあった!
「にゃあにゃあ。おチビさんのおうちはどこにゃんだい?」
ヌヴィレットは耳馴染んだ声に歩みを止めて耳を澄ませる。雨季で冷たい雨が続いていたフォンテーヌでは久しぶりの陽光に喜ぶのは何も人間やヌヴィレットだけではない。
彼はもみくちゃにされながら、雑踏のなかを迷わずに進んで行く。
大通りから外れ、歩く人などいない家々の行き止まりに声の持ち主はいた。
「おチビさんは何処から来たのかにゃ? 僕の知っている人かにゃ?」
しゃがみ込み、何かに話しかけている少女は抱き上げるような動作をすると鼻歌を歌いながら立ち上がる。
「キミの飼い主さんを探しに行くにゃ!」
くるりと波色の髪を翻しながらフリーナが軽やかにターンを決めた。手には青い首輪をつけた白い子猫がいた。
なるほど、彼女はこの猫に話しかけていたらしい。
「まずは何処に行こうか
……
に゙ゃっ!?」
ヌヴィレットの姿を認めたフリーナの動きが止まる。彼女の手の中で白い子猫がにゃあ、と鳴いた。
「な、ななななな
……
!」
ヌヴィレットを指差し、立ち尽くすフリーナ。その手はわなわなと震えていた。
「
……
すまない。君があまりにも楽しそうにしているので話しかけるタイミングを逸してしまったのだ。決して、立ち聞きをしようという意図は──」
「にゃ、に゙ゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
路地裏にフリーナの悲鳴が響き渡った。
彼女のよく通る声は高い煉瓦の壁に阻まれ、大通りにいる人々に届かなかったのは僥倖だったと言えるだろう。
「そこは無視で良いんだよ
……
!」
ヌヴィレットから事情を聞いたフリーナは猫を撫でながら項垂れた。彼女の言葉に返そうとヌヴィレットが口を開くのと同時に子猫が起き上がり三角形の耳を前後に振ったあと、にゃあ、と鳴いてフリーナの腕から飛び降りた。
「あぁっ!? ど、どこに行くんだい!?」
フリーナが駆け出し、ヌヴィレットもその後を追う。子猫は大通りにいる人々の足を避けながら、一心不乱に駆け抜ける。
「待って
……
! わっ
……
!」
彼女は雑踏の一部となり、ときにはぶつかりながら、人混みを進む。
「フリーナ殿」
ヌヴィレットが転びそうになったフリーナの腕を掴んだ。
「
……
猫が心配な気持ちは理解できる。だが、もう少し周りを見たまえ」
彼はフリーナを自身の方へ抱き寄せると手を掴んだ。どきどきと鳴る心臓は雑踏よりも煩く喚き立ててくる。
「行こう」
ヌヴィレットはフリーナを自身の後ろに押しやると、手首を掴んで歩き出す。これでは小さな子どもではないか、とフリーナは唇を尖らせながら後へと続く。
ヌヴィレットが波除けを買って出たことで辺りを見回す余裕が出来たフリーナはキョロキョロと視線を泳がせる。彼もフリーナも服装が違うせいだろうか、いつものように人々の注目を集めていない。もしかしたら、フリーナの心を現在進行形で浮足立たせている冬晴れのおかげかもしれない。
「ブランシュちゃん
……
! おかえりなさい! 心配したよ
……
!」
女性の声が聞こえる。ブランシュ、とは子猫の首輪に書かれていた名前だったはずだ。
「行かないのか?」
「え? 何故だい?」
「いや
……
。君はあの猫を大層気に入っていただろう?」
ヌヴィレットが歯に物が挟まったような顔で言うので僕は思わず吹き出してしまった。
「ふふっ
……
! ああ! もういいんだ。だって、あの人に僕では勝てないからね!」
金髪の女性に撫でられ、幸せそうに喉を鳴らす子猫を見つめるフリーナの瞳は安堵と、ほんの少しの寂しさに彩られていた。
「
……
って、うわっ
……
! な、なんだい
……
!?」
ヌヴィレットがフリーナの肩に頭を擦りつける。
──さっきの子猫みたいだ。
「
………………
にゃあ」
小さく、囁かれるように耳元で聞こえた彼の声。僅かに赤く染まる尖った耳先は、きっと羞恥のせい。
──ああ、まったく。キミって奴は。
「
…………
随分、大きな猫だなぁ! ──ありがとうヌヴィレット」
お礼の言葉は喧騒に飲まれるほどの声量で。
だって、彼にはそれだけで十分なのだから。
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