こゆ
2025-02-22 21:38:29
3275文字
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いくつになっても

#ハートのワンドロワンライ

お題:猫

※二年前くらいの平和なハートさんの日常的な話
クリオネ視点です

 寄港した島で、何がどう気に入ったのかポーラータング号のランプウェイの影に仔猫が二匹住みついた。
いつもそこに居るわけではなく、ふらりと現れては島と艦を行き来するクルーに持て囃され撫で回される。
猫たちは、どこで寝ているのかもよく分からない。それでもひょっこりと『なぁーごみゃーご』と顔を出してクルーを見つけては細い声で鳴く。産まれたときから人間の近くにいたのか、そもそも物怖じしない性格なのかは知らないが、二匹はかわるがわるやってくるクルー達に怯えることもなく存分に甘え倒していた。

「名前とかつけちゃう?」
「すでにみんな勝手に呼んでるみたいよ」
足元にじゃれる猫二匹を見てクリオネは何気なしに呟いた。イッカクは慣れた手つきで指を伸ばすと、すりすりと寄ってきた一匹の猫をくすぐるように撫でている。もう一匹はクリオネの手にじゃれついていた。
「何食ってんのかなこいつら」
「ほんとは無責任に餌やるもんじゃないってわかってるけどこっそり誰かしら何かあげてるのよね」
のんびりとした口調でイッカクが言う。
「そうかぁ、餌貰ってんなら良かったなぁ」
クリオネは猫をわしわしと撫で回す。猫もされるがままだ。猫と見つめ合い、へにゃっと笑った。猫の可愛さにクリオネが落ちた瞬間である。
「よし、お前らの名前は今日から『はくまい』と『げんまい』だ」
「もうちょい可愛い名前つけてやんなさいよ」
「白っぽいのが『はくまい』で、そっちの茶色っぽいのんが『げんまい』」
「違うわよ、アンタは『ロングアイランド』、そっちが『アイスティ』よねェ。ごめんなさいねだっさい名前で呼んで」
「それ自分が好きな酒だろ!?しかも違い分かりにくいわ」
「なァに遊んでんの?」
突然背後からかけられた声に二人は振り返る。
しゃがんでいたクリオネとイッカクたちを見下ろすように立っている揃いの見慣れたツナギのペンギンとシャチ。
視線の先にじゃれつく猫を見つけてからちょっとだけ口元に力を入れてあえての無表情を作るペンギン。ペンギンのそういうところすごいなって、クリオネは思う。
「必要以上に懐かせるなよ」
「そうそう。まァかわいいのはわかる」
へらって口元綻ばして、猫に「なァ?」なんて言葉を投げるシャチ。空気の和む音がする。シャチのこういうところがいいやつだし、凄いなぁと思う。
はじめはおっかなびっくりだったクリオネもだんだん撫でるのが上手くなってきた。
はくまいことロングアイランドは、気持ちよさそうにその場にひっくり返っている。野生感ゼロだな。お前もうこっから離れたら生きていけんのか。
「ここに猫いたの、ペンギンもシャチも知ってたのか?」
「初日になァ、俺ら偵察に降りたし。ベポが『猫がいる』って気づいて。『食パンとクロワッサン』って呼んでる」
自分の艦の航海士でありNo2に、この艦の船長の嫌いな食べ物の名前で呼ばれているらしい仔猫たちを交互に見る。いや、ベポがつけたにしても他の誰かが呼んだ名前をそのまま使ってんのか知らないけど、一定の思惑を悪意を感じるネーミングセンスだ。やっぱりはくまいとげんまいが可愛いいし愛されそうだ。
クリオネがどんなに心の中で猫の名前について悩もうとも、当の猫たちは自分がどう呼ばれてても、可愛がってくれるなら関係ないらしい。何と呼ばれようがすり寄ってくるし勝手にいなくなるらしい。
「ここだけの話、キャプテンも可愛がっちゃってさ」
シャチはそう言いながら、はくまいことロングアイランドこと食パンを抱えて優しく持ち上げると、見つめ合った猫に「なァ?」と笑いかけて、なーぅ、と鳴かれる。
「お互い離れ辛くなるからほどほどにな」
結局一度も猫に触ることのなかったペンギンが踵を返して離れていく。当たり前にシャチも一緒に。連れ立って泊地を後にするふたりの背を見送っていると、抱えていた茶色っぽい猫がぐんにゃりと軟体生物のように体を捻ってクリオネの手から逃げていった。そのまま草陰に隠れてしまう。
相方がいなくなってしまい、腹を見せてごろごろと喉を鳴らしていたイッカクの手元の猫も後を追うように草陰に飛び込んだ。その姿にふははっ、あははってイッカクが笑った。
「アンタ達もニコイチなのね、ロングアイランドとアイステイ」

ちょうどログも溜まり、明日あたり島を立とうかって日。
最後の夜だとクルー数人で飲みに出た。もちろんクリオネも。
「キャプテンは?」
「ベポが航海室に籠ってるから今日は一人で出てる」
なんとなく隣り合ってたイッカクと話ながら歩く流れになり、あれこれ話しながら艦を出て50mは歩いたところでまで行ってからふと気づいた。
「あ、財布忘れた」
「え、マジ?」
「ポーラータングに戻るわ!先行ってて」
クリオネはイッカク達に手を振ってのんびりと来た道を戻る。
「⋯⋯あれ、キャプテン」
泊地のポーラータング号よりやや離れた場所に、キャプテンがしゃがみこんでいる。キャプテン何してるんだろう。落とし物なら能力でなんとかなりそうだし、珍しい薬草でも生えてたか?クリオネはそんな気持ちで雑草を踏んで近付いた。
「キャプテーン」
「クリオネか」
ローの足元には仔猫たちがじゃれついていた。
やっぱこいつら懐っこいよなぁ。クリオネの視線に気付いたのか、ローが「お前も名前つけてんのか?」と聞いてくれる。
「はい。はくまいとげんまいです!ペンギンとシャチにはあんまり可愛がり過ぎるなって言われましたけど……
「いいじゃねェかピッタリだ」
「イッカクはロングアイランドとアイスティーって」
「イッカクらしいな」
ローがクックって笑う。足元には白色っぽい方の猫が何度も頭を擦り付け、なんとかしゃがんだローの膝に乗ろうと前足を引っかいている。
「キャプテンにかなり懐いてますね」
「ベポが一緒にいるときは近づいてこねェけどな」
ローの手が優しく白色の猫を撫でる。
その隙に茶色のげんまいがぴょんっとローの膝にのる。白色のはくまいは先を越されて悲しげに「なぁ〜」と鳴いてローの手をくぐると、また膝によじ登ろうと前足の爪をローのズボンにバリバリと音を立てて引っ掛けた。げんまいがそれを見守るようにじぃっと見つめる。
ローが「がんばれシャチ」と楽しげに話しかけたので、思わずクリオネは「えっ」という声が漏れ出てしまった。
……クリオネ」
絞り出したようなローの声に、恐る恐るクリオネが応えた。
「そっちの茶色い方はもしかして『ペンギン』ですか」
「アイツらには言うなよ」
それは、また。なんていうか。この可愛らしい猫二匹に、あのでかくて賑やかでいい歳の大人ふたりの名をつけられるのはこの人しかいないだろうな、とクリオネはまじまじと子猫二匹を見つめた。
白い方の『シャチ』はやっとのことローの膝によじ登ることに成功して茶色の方の『ペンギン』にごろごろとすり寄っていた。当たり前に寄り添う二匹に、言われてみたら確かにちょっとだけ『ペンギン』の方が兄貴風を吹かしている気もする。思わずしゃがんで膝に猫を乗せているローをまじまじと見下ろしてしまった。
ローが少し照れたように、
「甘ったれて纏わりついてくるところがアイツらみたいだろ」
と言う。
「あのふたりに甘ったれなんて言えるのキャプテンぐらいっすよ……
感心しきったクリオネが言うと、なんだかローは面食らっ
たように目を丸めていた。撫でる手は止まらないので、
膝の上の『シャチ』はのんびりあくびをしているし、『ペンギン』はすでに目を閉じている。
「ペンギンもシャチもかわいいだろ」
そう言って猫を見つめるローの横顔が果たして仔猫のことなのか人間のことなのか判断がつかなかった。

キャプテンの中でペンギンとシャチってどういう風に見えてんすか?

クリオネは咄嗟にツッコみたくなったけど、さすがにキャプテンにそんなこと言えるわけもなく。クリオネは乾いたハハハっという笑いを浮かべた。







【了】