雪成はす子
2025-02-21 20:54:02
2951文字
Public ポメガバース
 

ポーラータング舌禍事件

🐧🐬
⚠ゆるっとポメガバースな話。🐬がポメラニアンになっちゃう体質
寂しくなるとポメラニアンになる🐬が🐯さんのうっかり発言で盛大に拗ねる話
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「シャチー! おーい、戻ってこーい!」
「オレ達が悪かったからー! だから戻ってこーい!」


……何やってるんだ、アイツら」
「あ、ペンギンおかえりー」
「ただいまベポ。で、繰り返すがアイツら何やってるんだ?」
「うーんとね、シャチが拗ねちゃったから皆で謝っているの」
 任務を終えてペンギンが艦に戻ると、甲板ではそれは奇妙な光景が繰り広げられていた。大きな体でどっしりと座ったジャンバールの肩に、ちょこんと小さな茶色い塊が乗っている。ぷるぷると震える小さな体は、ジャンバールの肩の上で蹲ったまま毛玉そのもののまんまるのお尻をこちらに向けていた。
 ――そして、ジャンバールを囲むように他のクルーが立ち、シャチに向かって叫び続けている。
 とりあえず、自分の不在期間が長くなったが故にシャチがまたポメラニアンになったのだろう、とペンギンは推測した。ポメラニアンになったシャチが拗ねてしまうのも、まあよくある事だ。
 けれどそれがどうしてジャンバールを囲んで皆で謝罪を言い合う事態になっているのかが、全く分からない。
「何でああなったんだ?」
「えっとね、キャプテンがうっかり失言しちゃったんだ」
「失言?」
「うん、正直おれもちょっとどうかなって思った」
 ベポはむう、と口を尖らせたまま、ペンギンに先程あった事を話した。


「今日、ペンギンが戻ってくるって話だったか」
「ええ、予定通りに進めば」
「そうすりゃ、やっとシャチも元に戻れるって訳だな」
「ああ。良かったなぁシャチ」
 ウニがローの膝の上に乗っているシャチの頭をぽんぽんと撫でる。今のシャチは比較的落ち着いていて、ウニの手にうっとりと目を細めた。ローもまた、膝に乗せたシャチの顎を擦る。シャチは気持ち良さそうに目を細めて顎を上向かせた。
 普段のシャチが可愛くないと言えばペンギンに睨まれてしまうが、如何せん普段のシャチはそれなりに上背もあって筋肉もしっかりついた男だ。精悍で男らしい顔立ちをしているのも相まって、ペンギン以外でシャチを可愛いと言う者はそうそう居ないだろう。ローもまた、普段のシャチはどちらかと言えば可愛いと思っているが、ポメラニアンになったシャチの可愛さはまた別物だ。何より、普段はペンギンに独占されて中々触れられないもふもふの感触はクセになる。もふもふ、ふわふわのシャチの毛は触り心地が良くて、いつまでも撫でていたくなる。
 だからだろう、普段はしない失言を、思わずぽろりと零してしまったのは。

……正直、このまま戻らなくてもいいんじゃねえか?」

 ローの発言に、膝の上で微睡んでいたシャチが「ヒャン!」と声を上げる。周りにいたクルー達も、確かに、とばかりにうんうんと頷いていた。
「今のシャチ、すっごい可愛いもんね~分かる!」
「そうそう! ころころ丸くて可愛いよな!」
 なんて周りのクルーまで同意していて、シャチはいよいよ立つ瀬が無くなった。居たたまれなくなって、シャチは「ヒャィイン!」と悲鳴を上げながらローの膝から駆け出し、艦の中をどたばたと走り回り――
 ――そして、冒頭に至る。


……キャ~プテ~ン? 言っていい事と悪い事の区別もマトモにつかねえのかよテメェ」
「悪い。その、口が滑った」
「口が滑ったって事はつまり本心って事じゃねえか! ふざけんなマジ反省しろ!」
 ブチ切れる余りキャプテンへの敬語も忘れてペンギンはローに詰め寄る。他のクルー達は相変わらずシャチに謝罪を繰り返していて、そんな喧騒を眺めながら、ジャンバールはひとつ溜息を吐いた。
……シャチ、ペンギンが帰って来たぞ。会いたくはないか?」
 シャチは答えない。だが、構わずジャンバールは続けた。
「まあ、今のお前の姿は確かに可愛いが、連中も悪気があった訳じゃない。それは分かっているんだろう?」
 ヒャン、とシャチが小さく鳴く。
「連中だって、お前に元の姿に戻って欲しいってのが本心だろうさ。今のお前の姿では戦えないっていう理由も多少はあるだろうが、それだけじゃない。そうだろう?」
 もぞ、とシャチが動く気配がする。「それに」とジャンバールは言葉を続けた。

「俺はお前に元の姿に戻って欲しいと思っている。今のお前は、俺にとってはあまりにも小さすぎてな。うかつに触れればお前を壊してしまうかもしれん。俺は、お前を壊したくはない」

 ジャンバールの言葉に、シャチは何も言わなかった。暫しじっと動かないまま、やがてすくっと立ち上がる。「行くのか?」とのジャンバールの問いに、シャチは力強く鳴いて答えた。
 ジャンバールが手を差し出すと、シャチはそこに飛び乗った。ゆっくりと立ち上がり、「ペンギン」と声をかける。
「ほら、シャチ」
 手のひらを差し出すと、シャチは勢いよくペンギンに飛び掛かった。勢いよく飛んできたシャチを受け止めると、シャチがぽんと元の姿に戻る。
「ペンギン……うわあああん!」
 元の姿に戻るなり、シャチはペンギンにしがみついてわんわんと泣き出した。ひっくひっくとしゃくり上げるシャチの背中をぽんぽんと叩き、そっと頭を撫でる。一連の様子を伺っていたクルーやロー達を、ペンギンはシャチの肩越しに睨めつけた。

……次こんな事があったら、テメェら全員タダじゃおかねえからな」

 地を這うようなペンギンの声に、一同はぞっと背筋を凍らせる。ひっくひっくと泣きじゃくるシャチを宥めながら、ペンギンは艦への扉を開けた。去り際に、ジャンバールに声をかける。
「世話かけたな、ジャンバール」
「気にするな。俺は本心を言ったまでだ」
「その本心が、シャチにとっては何よりも嬉しかったんだろ」
 だからありがとな、と礼を言い、ペンギンはシャチを連れて艦の中へ帰還した。


 それから暫く、ローの朝食にトーストが出されたり、クルーの数人にボイラー整備やトイレ掃除などを言い渡された。シャチもまた、数日ほどペンギンとジャンバール、それから騒動に携わらなかったクルーとしか話さない異例の事態となった。シャチに話しかけようにも無視され、シャチに謝ろうとしてもペンギンに妨害される。
 シャチに無視されるのも辛いが、何より無視したシャチ本人が辛そうにしているのが一番キツかった。へにょ、と眉尻を下げたまま、今にも泣き出しそうな目で必死に視線を逸らしたり、震える唇を必死に固く結んだりしている。帽子の鰭があからさまにシュンとなって、ポメラニアンになっているわけではないのにへにょりと下がった耳まで見えそうだ。雨の日に『拾って下さい』と書かれた箱の中で泣いている小さな犬を見ているようで、その度にクルー達の良心はキリキリと痛んだ。
 一方そんな様子のクルーやキャプテンの様子を、ペンギンが「自業自得だ」と一蹴したのは言うまでもない。
 ともあれそんな日々が数日続き、やがて――

「みんなごめえええん! やっぱお前らとも話せないの寂しいからもう意地張るのやめた! っていうかキャプテンと喋れないの拷問だった! 無理! やっぱみんなと話してえよー!」

 と半べそ状態のシャチが訴え、そこでようやく事態が収束したのだった。